判例データベース
東京S女子大学名誉毀損事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 東京S女子大学名誉毀損事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成12年(ワ)第13124号
- 当事者
- 原告個人1名
被告学校法人S女子大学 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年03月29日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、S女子大学を経営する学校法人であり、原告はS女子大学の講師である。
S女子大において非常勤講師として国語科教育法を担当していた男性Aは、平成9年4月から、当時3年生であった30数名の女子学生に対し、繰り返し学外での面会を求める、手紙を出したり電話をかけたりする、学外で酒食を共にする、学生の体や髪に触り、首に手を回すなどの行為を重ねていた。原告は、平成9年6月頃から、Aによるセクハラ行為について被害学生らの相談を受けており、被害学生がS大学の学生課に被害を申し出たにもかかわらず、被告が適切に対応しなかったとして、原告はS大学学長と面会し、学生の被害の実情について申告した。被告はこれを受けて、平成10年1月に対策委員会を設置し、同年2月、Aから事情を聴取し、Aが被害学生らの申立内容を事実であると認めたことを発表するとともに、Aとの非常勤講師委嘱契約を更新しないことを決定したため、Aは同年3月、被告を退職した。
S大学の女性教授Kは、平成10年3月から11年10月までの間、講義の中で、原告について「セクハラなんてなかった」「学生を扇動してセクハラ事件をでっち上げて優秀な教員の首を切った」「研究に専念せず、自分のアカデミーを経営し、学生から高額の金を取っている」「S大学の教官として適性を欠いている」「原告は大学と問題を起こした悪い先生だから、首にしてやる」などと非難した。
原告は、Kの発言は、原告の名誉を著しく毀損するものであるとして、Kの使用者である被告に対し、1000万円の慰謝料の支払いと謝罪広告の掲載を請求した。これに対し被告は、学内では発言の自由が保障されているから、講義や会議の場での発言は法的評価になじまないこと、Kの発言は学問的評価を述べているものであって名誉毀損は成立しなことを主張して争った。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 学生の各陳述書の信用性について判断すると、原告はこれらの陳述書の作成者を特定しようとしなかったため、被告はこれらの陳述書の作成者に対する証人尋問の申出等をすることができなかったものであり、被告による証拠力の吟味を経ていない以上、(1)一部は作成者が自ら直接体験した事案を述べたものでないこと、(2)いずれも抽象的なものでしかなく、日時、場所、発言内容、状況等に関する具体性に欠けていること、(3)K教授に対する照会及びこれに対する回答の中には反対趣旨の部分があること、(4)K教授は大学側が6回にわたる事情聴取において、セクハラ申立てについての疑義を唱えるような発言、セクハラ申立てを行った学生や原告を非難する発言を行っていないと述べたことが認められることを考慮すると、学生作成の記載及び原告本人尋問における供述は、いずれも伝聞に過ぎないから、たやすく採用できない。
付言するに、被告の在校生及び卒業生が、不利益を受けることを避けるために、匿名の陳述書を提出せざるを得ない状況にあることは理解できるが、だからといって、これらの陳述書だけで原告主張の発言が存在したと認定することは、被告の防御権を著しく侵害するものであって、到底できないというべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 平成12年(ワ)第13124号 | 棄却(控訴) | 2002年3月29日 |
東京高裁 - 平成14年(ネ)第2768号 | 一部認容・一部棄却 | 2003年11月26日 |