判例データベース
東京建材店事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 東京建材店事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成9年(ワ)第13546号
- 当事者
- 原告個人1名
被告個人1名A、M建材株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年03月31日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告会社は、不動産の賃貸借、各種有価証券の保有等を目的とする会社であり、被告Aは被告会社の取締役で、実質的に被告会社を取り仕切っており、原告は、平成8年6月に被告会社に採用された29歳の女性である。
原告が雇用されて間もなく被告Aは原告に性行為を求めるような発言を繰り返し、平成8年6月7日の出勤時、被告Aは原告に握手をし、同月19日には原告を部屋に呼び性行為を求めて抱きつき、押し倒した。また同年7月26日に被告Aは原告に病院の受診への付き添いを命じ、タクシーの中で原告の手や足に執拗に触り、同年8月7日には2人で食事した際、エレベーター内で原告に抱きつき、身体に触った。更に同年9月3日に原告が忌引きを取った際、株券が紛失したことから、被告Aは原告を泥棒と決めつけ、原告に対し「仕事はしなくて良い。性行為専門だ」と告げて、同月13日には、原告の服をすべて脱がせ、のしかかって姦淫しようとしたが、不首尾に終わった。この行為があった翌日以降原告は出社を拒否し、そのまま退職した。
被告Aは81歳でパーキンソン病を患い、そのために動作が緩慢で、歩行も円滑さを欠き、頻繁に通院していたが、若い女性に対する性的関心が強く、以前から若い女性を募集採用しては猥褻行為を行い、性行為を求めるなどしたことから、トラブルが発生しており、原告は被告Aの猥褻行為を断って解雇された先輩から、「被告Aと2人きりになるのは危険」との忠告を受けていた。
原告は、被告Aの一連の猥褻行為によって退職を余儀なくされ、1年間収入が得られなくなったほか著しい精神的苦痛を受けたとして民法709条に基づき被告Aに対し、また被告Aは被告会社の実質的な代表者で、本件猥褻行為はその職務を行うにつきなされたものであるから、被告会社は商法261条3項、78条2項、民法44条1項に基づく責任のほか、民法715条にいう使用者にも当たるとして被告会社に対し、各自連帯して退職後1年分の給与相当額500万円及び精神的苦痛に対する慰謝料500万円を請求した。 - 主文
- 1 被告らは、原告に対し、連帯して168万7941円及びこれに対する平成9年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを6分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告Aの原告に対する身体的接触行為は、握手を除いて接触部位、場所等の事情に照らし、社会通念上許容限度を超え、原告の性的自由、人格権を侵害する行為であり、不法行為に該当する。
原告は、平成8年9月13日を最後に出社していないが、それは自己の意思に反して被告Aから性行為に応ずることを命じられ、それを余儀なくされたことから、雇用関係継続の意思を喪失したものと認められる。この事実関係の下では、やむを得ない事由に基づいた黙示の雇用契約の解除とみられるから、民法628条により、同日をもって本件雇用契約は消滅したものというべきである。
原告は、被告会社を退職後1年程度就職せず収入を得られなかったことが認められるが、このうち1ヶ月については本件加害行為と相当因果関係のある休業と認めることができる。原告は被告会社から月額40万円の給与を得ていたが、この金額は仕事の内容に比して合理性を欠く金額と推認されるから、賃金センサスより算定した月額28万7941円を原告の得べかりし給与額と認める。
原告は、被告Aの加害行為により精神的苦痛を受けたことが認められ、原告の身上、加害行為の経緯・態様等、被告Aの年齢、身体的状況、原告も採用後のごく初期から被告Aの性行を知ることができた等の事情も斟酌すると、慰謝料の額は140万円が相当である。 - 適用法規・条文
- 06:商法261条3項、78条2項,
02:民法709条、628条 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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