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A相互銀行配転拒否仮処分申請事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- A相互銀行配転拒否仮処分申請事件
- 事件番号
- 秋田地裁 − 昭和42年(ヨ)第35号
- 当事者
- その他申請人 個人4名A、B、C、D
その他被申請人 株式会社A相互銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1968年07月30日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被申請人(以下「銀行」という。)は、相互銀行業を営む株式会社であり、申請人らは銀行に雇用されている従業員で、かつ労働組合員であって、申請人Aは昭和40年労組執行委員に、同Cは同年副委員長に、同Dは昭和41年副委員長に各選出され、同Bは昭和39年労組中央委員及び中央闘争委員に就任している男性である。
銀行は、昭和41年8月16日、申請人A、B、Cに対し、他の支店への転勤を、申請人Dに対し、労組専従から復職による転勤をそれぞれ発令した。これについて申請人らは、本件転勤命令は申請人らの組合活動を理由とする不当労働行為であること、申請人A、Bについては、仮に不当労働行為の主張が認められないとしても、銀行は両名が婚約中で挙式を間近に控えていることを熟知しながら、業務上特段の必要もなく、敢えて夫婦の同居生活を不可能ならしめる遠隔地へ転勤を命じたものであるから、公序良俗、信義則に反し無効であると主張した。 - 主文
- 1 被申請人が昭和41年8月16日なした申請人Aに対する被申請人横堀支店への、同Bに対する同大館支店への各勤務を命ずる意思表示の効力の発生を仮に停止する。
2 申請人C、同Dの本件仮処分申請をいずれも却下する。
3 申請費用は申請人A・Bらと被申請人との間においては全部被申請人の負担とし、申請人C・Dらと被申請人との間においては、被申請人について生じた費用を2分し、その1を申請人C・Dらの負担とし、その余の費用は各自の負担とする。 - 判決要旨
- 一般に労働契約はその勤務場所、具体的な職種が特定されていない限り、労働者がその労務提供の場所など労働の態様を包括的に使用者に委ねるという明示又は黙示の合意が存し、使用者は労働契約の締結により右合意に基づき、契約の趣旨、目的に反しない限度において、労働者が給付すべき労務提供の場所など労働の態様を決定する権限を有するのであって、労働者の勤務の場所などは特段の合意のない限り契約の要素をなすものであるから、使用者の決定は単なる指示とか指揮命令に過ぎないものということはできない。
本件転勤命令が労組法7条1号にいう不利益取扱いに該当するか否を、申請人C、Dについてみると、本件発令当時、申請人C、Dは労組執行部役員としての立場上いずれも秋田市内の勤務を要求していたこと、C、Dの転勤前後の支店はいずれも規模・所属組合員の人数にそれ程差異が認められないこと等からすれば、申請人らが労組役員として主張する中央集中の要求が受け入れられなかった場合でも直ちにこれを不利益取扱いとして不服を申し立て得る筋合いのものではない。申請人Cについて転勤前後を比較した場合、地理的文化的条件においても、営業店の規模の点でも大きな較差は認められないから、本件転勤命令が不利益な取扱いであると直ちに断定することはできないところである。申請人Dについては、専従からの復職に伴い多少の不利不便が生じたとしても、それは復職という事態に当然随伴するものであり、Dが命じられた支店は、地理的にも原店よりも秋田市に近く、営業所の規模,格においても劣るものではないから、本件転勤命令は従業員として不服を申し立てられるべき不利益な取扱いということはできない。
しかし、申請人A、Bについては事情を異にする。申請人Aは昭和41年9月、同Bは同年11月いずれも婚姻したところ、本件異動原案作成前において、Aは共働きのため秋田市内の勤務を希望する旨、Bは酒田支店勤務の妻と同居可能な支店での勤務を希望する旨銀行に申し出ていること、これに対し銀行は、本件転勤命令により申請人A、Bが夫婦別居状態に至ることを熟知していたことが疎明される。この事実からすれば、銀行は本件転勤命令発令当時未婚であったとはいえ、挙式を間近に控えており、本件発令によって新婚早々から夫婦別居の生活を送らざるを得ないことを熟知していながら、過去において考慮した例がないとの理由のみで別居解消のための手段・手当を何一つ打ち出すことなく、遠隔地の各支店へ転勤させたことになり、申請人A、Bに対し、精神的・経済的な面のみならず、その他の私生活の面において明らかに不利益な取扱いをしたものと認めるのが相当である。
申請人Aは、組合結成と同時にこれに加入し、一貫して労組本部役員の地位にあり、組合活動を積極的に計画・指導するなど労組内における闘士の1人であることが推認される。本件転勤命令当時は、争議通告による闘争体制中であり、かかる時期に申請人Aに対し不利益な取扱いをし、その結果Aの組合活動に不利不便をきたしたことは、銀行が労組の活動を好ましくないものと考えていたことと併せ考えると、Aに対する本件転勤命令は、主としてAの組合活動に対する動機に基因するものと認めざるを得ないから、労組法7条1号にいう不当労働行為に該当する。
申請人Bについては、組合本部役員の経験もなく、銀行として業務遂行能力を高く評価し、大館支店への転勤を決定し、Bの要望通り貸付事務を担当させているから、本件転勤命令の業務上の必要性は一応存在すると推認されるので、申請人Bの主位的主張である不当労働行為の主張は採用し難い。そこで予備的主張である公序良俗違反・人事権濫用についてみると、一般に使用者は権限の行使として業務上の理由に基づいて労働者に転勤を命ずるのであるが、反面転勤は労働者の生活関係に重大な影響を与えることがあることも又事実であるから、業務上の理由に基づくからといって無制約に許されるものとは解すべきではなく、労働関係上要請される信義則に照らし、当然に合理的な制約に服すべきものであり、その制約は具体的事案において業務上の理由の程度と労働者の生活関係への影響の程度とを比較衡量して判断されなければならないものである。これを本件についてみるに、申請人Bは本件転勤命令により新婚間もなくしての夫婦別居という生活関係での重大な影響を受けており、しかもB夫婦は酒田と大館間の別居による二重生活のために蒙る精神的、経済的影響は特に著しいものといわざるを得ない。Bに対する業務上の必要性は一応認められるが、これとて余人をもって代え難いものとは認められないのであるから、銀行としては、Bの同意を得る必要はないにしても、最初から当事者の意向を無視して一方的に経営目的を強行すべきでなく、Bの説得に努めるか、同居可能な営業店へ夫婦を転勤させるように努力するなど、転勤によって結婚に対し重大な影響を来たすことのないよう特別な配慮を必要とし、その範囲内で相当な措置をとるべきである。もっとも銀行の主張する共稼ぎ夫婦についての情実防止、内部牽制は人事管理上経営者が考慮すべき重要な事項であることは否定しないが、職場結婚とそれに伴う共稼ぎが一般化している現状に鑑みれば、右管理上の問題は、特段の事情がない限り監督体制の強化、同一支店における職種変更、同居可能な近接営業店への転勤などの措置をとることによってもその目的を達することができるのであるから、右事項を理由として本件転勤命令を正当化することは許されない。本件転勤命令によって申請人Bが受けた生活上の不利益は著しいものがあり、かつ権限行使の過程で労働関係上要請される信義則に違背し、その程度は銀行の業務上の必要性の程度よりも著しく大きなものと認められるから、申請人Bに対する本件転勤命令は無効といわなければならない。 - 適用法規・条文
- 民法1条3項、90条、労働組合法7条
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事判例集19−2−859
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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秋田地裁 − 昭和42年(ヨ)第35号 | 一部認容・一部棄却 | 1968年07月30日 |
仙台高裁 − 昭和43年(ネ)第83号 | 控訴棄却 | 1970年02月16日 |