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N自動車電話交換手配転拒否事件

事件の分類
配置転換
事件名
N自動車電話交換手配転拒否事件
事件番号
東京地裁 − 昭和43年(ヨ)第2252号
当事者
その他申請人 個人1名

その他被申請人 N自動車株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1970年03月27日
判決決定区分
一部認容・一部却下
事件の概要
 被申請人は自動車製造業を営む株式会社であり、申請人は昭和39年12月P自動車に電話交換手として採用された後、被申請人によるP自動車の吸収合併により被申請人の従業員となり、電話交換業務に従事していた女性である。

 昭和42年8月、申請人は病気で入院し、同年12月1日から昭和43年11月30日までの休職発令を受けた。その後被申請人では組織変更があり、昭和43年3月1日、申請人は被申請人から、復職とともに電話交換手から本工場の雑役事務職(20数名の総務課員の食事の注文、郵便物の配達等)に配転を命じられた。申請人が本件配転命令を拒否したところ、被申請人は業務命令違反を問い、申請人の元の職場への立入りを阻止した。そこで申請人は、本件配転命令に異議をとどめて、仮に雑役事務業務に従事することとしたが、一定の資格を要する特殊技能職である電話交換手として雇われたもので、労働契約に基づいて提供すべき労務は電話交換業務に限られ、申請人の同意がない限り、他の労務の提供を命令してもその効力は生じないと主張して、被申請人に対し、電話交換手としての地位を有することの確認と、残業による割増賃金相当額の支払いを請求した。
主文
 申請人が被申請人に対し、労働契約上電話交換手としての地位を有することを仮に定める。

 申請人のその余の申請を却下する。

 訴訟費用は、これを2分し、各1を申請人、被申請人の負担とする。
判決要旨
 申請人は電話交換手として雇用されたものであり、労働契約上申請人の提供すべき労務の種類は電話交換業務と特定されていたことが認められるから、被申請人が申請人に対し、電話交換業務以外の業務に従事させるには、それについて申請人の同意がなければならないことになる。

 就業規則を構成する休職規程8条には「休職者が復職した場合には、その配置に関しては新たにこれを決定する」と規定されるが、同規定の文理からは、当然に、復職者を労働契約の内容となっている職種と異なる業務に従事させることができる権限までを被申請人に与えた趣旨に解釈することはできない。なるほど被申請人主張のように、休職者を除外した新たな業務体制の確立、病気休職の場合健康上不適当ということにより復職者を休職前の業務に就かせ得ない事態が生じることのあり得ることは首肯できるとはいえ、同一職種の範囲を超えて担当業務の変更を要する事態がそうやたらと生起するはずもなく、そのような特別の場合は、職種の変更について復職者の同意を得ることは容易と考えられるのであって、休職規程8条を職種の変更を含む配転権限を認めたものと解釈しなければならない必然性があるとはいい得ない。更に、たとえ休職規程8条を右のような配転権限を会社に与えたと解すべきものとしても、その権限は無制限に認められるものではなく、自ずからその必要性が肯定される合理的な範囲に限られるとともに、その行使の具体的事情によっては、権利の濫用としてその効力が否定される場合のあることはいうまでもない。

 本件配転後における申請人の業務は、仕事量が少なく、申請人の配転前はアルバイトが行い、それがいないときは適宜処理されていたこと、臨時雇であった電話交換手を本採用にするに当たって、申請人の復職の可能性を考慮しないばかりか、かえって申請人からの復職申出が無視されていること、各医師の診断は申請人について電話交換手として復職可能と判断しているとみざるを得ないことが認められ、本件配転は業務上の必要性も申請人の健康上からくる必要性も格別ないのに、一定の資格を要する一種の技能労働者として申請人の有する利益に対し配慮することなく出されたもので、不当に右利益を侵害し、かつ、その発令の過程においても誠意を欠くものというべきである。そのような本件配転命令は、配転権限の認められる合理的範囲を逸脱するもの、そういえないとしても、その権限を濫用するものとして、無効というほかない。

 申請人は電話交換取扱有資格者であり、かつ2年以上の経験者であるが、公衆電気通信法によれば一旦資格を取得しても、引き続き3年以上電話交換業務に従事しなかったときは資格が失効するものとされている。一方2年以上電話交換業務に従事した者であれば、資格試験のうち技能試験が免除され、学科試験のみで再度有資格者になる途が開かれているものの、合格するとは限らないし、その業務から離れることによる技能の低下、知識の散逸、陳腐化その他の不利益を申請人は被るものと認められる。申請人は本件配転後も、残業による割増賃金を除き、電話交換手の場合と異ならない賃金を得ていることが認められるが、それのみによっては損害はカバーされない。しかし、残業による割増賃金については、申請人の賃金及び夫の賃金を考えれば、月千数百円の支給を受けないことにより申請人の生活が窮迫状態に陥り著しい損害を被るとまでは認めるに足りない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
判例時報605号91頁
その他特記事項