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国家公務員共済組合連合会看護婦配置転換慰謝料請求事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- 国家公務員共済組合連合会看護婦配置転換慰謝料請求事件
- 事件番号
- 仙台地裁 − 昭和45年(ワ)第366号
- 当事者
- 原告個人1名
被告国家公務員共済組合連合会 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1973年05月21日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告は国家公務員共済組合連合会東北公済病院を直営し、原告は昭和26年3月に同病院に看護婦として雇用され、その後看護婦長に就任した女性である。
被告は、昭和30年3月末、原告の看護婦長の職務を解き、一般看護婦とし、更に昭和34年4月30日、看護婦から労務職に転換させた上、洗濯場勤務に配置転換した。この配転に対し、原告は、看護婦の資格を有し、公済病院の看護婦職に従事することを内容とする労働契約を被告との間で締結したものであるから、労務職への配転は労働契約に反し無効であると主張し、看護婦として勤務を継続したならば受けたであろう給与と労務職として実際に支払われた給与との差額を請求したほか、違法な配転により死に勝る屈辱を受けたことにより蒙った精神的苦痛に対して150万円の慰藉料を請求した。
これに対し被告は、配置転換は使用者の専権裁量に属することから、本件配転は有効である旨原則を主張した上で、それが受け入れられないとしても、原告は看護婦との間で絶えず紛争を起こし、看護婦全員から院長に対し婦長交代の要請がなされるに至ったこと、目に余るような患者の差別扱いをしたこと、完全看護への移行についての院長の指示を守らなかったこと、感情的独断的態度についての病院管理者が再三注意に対しても改めようとしなかったこと、一般看護婦になってからも医師や看護婦と協力関係を保てなかったことなどから、看護婦職に置いておくことができないと判断し、原告に退職を促したところ、「どんな仕事でも良いから病院で働かせてほしい」との強い要望が出されたことを受けて本件配置転換をしたものであり、原告も10年余にわたって労務職で勤務してきたから、黙示の合意があったとして、本件配転の正当性を主張した。 - 主文
- 1 原告が被告直営の東北公済病院の看護婦であることを確認する。
2 被告は原告に対し看護婦としての職務に従事させなければならない。
3 被告は原告に対し金193万9611円および内金134万3811円に対する昭和45年5月16日から、内金59万5800円に対する昭和47年3月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 労務職転換の適否
一般に使用者が労働者を配置転換して従前と異なる労働の提供を命ずることが当初の労働契約の変更に当たる場合には、その配転について改めて労働者の同意が必要であり、その同意を欠いた使用者の一方的な配転命令は効力を有しないと解するのが相当であって、配転が使用者の専権裁量に属する旨の被告の主張は採用できない。してみると、本件の場合、被告は看護婦の資格を有する原告を看護婦として雇用し看護婦職に就かしめてきたのであるから、これを看護婦以外の労務職に配転することは労働契約を変更するものであって、原告の同意なくして一方的命令によってこれを行い得ないというべきである。
原告は、看護婦長として看護婦らと著しく協調を欠くに至り、全看護婦10名が連名で院長に対し「原告のような婦長の下では働けない」旨の要望書を提出したこと、医師と口論したこと、患者に対する態度に公平を欠く点があったこと、完全看護について他の病院を見学せよとの院長命令に従わなかったことなどが重なり、院長は原告の婦長職を解き、中央消毒室に配転したことが認められる。原告はそこでも看護婦等と折合いが悪く、その後の配転先でもいずれも医師、看護婦等と折合いが悪かったところ、その後本件病院が拡張され、それを契機に原告を退職させようという声が上がったことから、被告は原告に対し、退職して欲しいこと、それが嫌なら家政部門(洗濯場、清掃係等雑役業務)で働いてもらいたい旨申し向けた。原告はこれに同意したという証言があるが、凡そ看護婦の資格を有し現にその職にあるものが、労務職への転換にたやすく同意することは通常あり得ないところ、原告は配転を拒否すれば解雇されると考え、已むなく洗濯場に赴いたものの、労働基準監督署や労政事務所に相談し、院長の回診の際には看護婦職への復帰を訴え、労働組合を通じて配転の撤回を求めるなどしている。してみると、原告の「仕方ありません」の返答をもって、原告が本件配転に真実同意したものとは認め難い。
原告が洗濯場勤務を命じられて以来、被告の措置に抗議して今日に及んでいることから、原告が10余年間にわたり継続して洗濯場勤務に従事したとの一事のみでは本件配転について原告の黙示の同意があったものとは認め難く,また,信義則違反や権利失効の原則に該当するとも解し難い。したがって、本件配転は労働契約に違反し無効であるから、原告はいまなお公済病院の看護婦の職にあるというべく、被告は原告を看護婦の職務に従事させると共に、本件配転によって原告が蒙った損害を賠償する義務がある。
2 賠償額の認定
被告が原告を看護婦職から労務職へ配転したことは労働契約に違反し効力が生じないから、原告に対し、労務職の給与を支払い、看護婦職としての給与を支払わなかったのは被告の労働契約上の債務不履行というべきである。ところで、昇給は被告の意思表示をまって実現するものであり、その意思表示がない以上、原告は昇給によって得べかりし金員を未払賃金として請求することはできないが、被告の債務不履行により原告は看護婦職に就けなかったのであるから、未払賃金と同額の損害を受けたことに帰着する。原告は勤務成績が良くなかったため、昭和34年9月まで昇給を停止されたが、労務職転換後は労務職として昇給していることが認められる。被告の従業員の給与は原則としてある一定期間勤務することによって特段の事情がない限り定期的に昇給することになっていることが認められ、労務職転換前の原告の言動をもって定期昇給を妨げる特段の事情とは認め難く、ほかに定期昇給を阻止すべき特段の事情ありと認めるに足りる証拠はないから、原告が看護婦職に留まっていたとすれば、昭和34年9月以降は一般の看護婦と同様に定期昇給していたものと見るのが相当である。したがって、原告が昭和34年10月から昭和47年2月までに支給された本俸及び一時金の金額と、原告がこの期間看護職として受領すべき本俸及び一時金の差額173万9611円が原告の損害額と算定される。
原告が被告の違法な配転命令により看護婦職から洗濯場勤務を余儀なくされ、長期にわたり甚大な屈辱を受けたであろうことは察するに難くないところであるが、他面、配転命令を受けるに至ったいきさつの中には原告にも反省を要する点が少なくなく、その他本件審理に表れた諸般の事情をあわせ考えると、原告の精神的苦痛に対する慰藉料は金20万円をもって相当と認める。 - 適用法規・条文
- 労働基準法15条
- 収録文献(出典)
- 判例時報716号97頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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