判例データベース
T社配転拒否事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- T社配転拒否事件
- 事件番号
- 横浜地裁 − 昭和49年(ヨ)第733号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1975年07月01日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は、各種機械器具、電車等の製造・販売等を主な業務とする株式会社であり、東京の本社のほか、全国に工場、営業所等を設置しているものである。一方債権者は、昭和43年4月に高校を卒業後債務者に入社し、戸塚工場、相模工場及び技術研究所でいずれも電気関係の技術者としての職務を経た後、昭和47年7月以降戸塚工場で、本社直轄の産業本部環境プロジェクトチーム(環プロ)に所属していた。
債務者は、昭和46年11月より業績が悪化したことから、産業電気部門の受注増加を図るための人事異動を行うこととし、その一環として広島営業所の所員を増員することとして、環プロのエンジニアであり、松山出身で独身であること等を考慮して、昭和49年6月末に債権者を同営業所に転出させることを決定した。そして債務者は、同年7月4日組合委員長、書記長に債権者の転勤を通知し、翌日債権者に対し同転勤を内示した。これについて債権者は、(1)現在の技術者としての仕事を続けたく、営業はやりたくないこと、(2)現在組合の中央執行委員の任期中であり、一方的な配転命令には安易に従えないこと、(3)同年9月に結婚の予定であり、結婚後も共働きでの生活設計を立てていることの3点の理由を挙げ、本件転勤命令について再考を求めた。しかし債務者はこれを受け入れず、同年7月10日付けで債権者に対し広島営業所勤務を命ずる旨の辞令が発せられるに至ったため、債権者は、本件転勤命令は権利濫用であるとして、その無効を主張した。 - 主文
- 本件申請を却下する。
申請費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 債権者は、債務者に採用された後、主に電気関係の技術者として勤務し、本件転勤命令発令当時は環プロ所属の技術者であり、本件転勤命令により従前の産業営業技術員たる職名のまま広島営業所勤務を命ぜられたものであるが、その理由は環プロ機器の需要増が予想される四国、中国地方担当の広島営業所の拡充強化のため、販売した機器の保守調整も必要なことから、債権者が選ばれたのである。そして、債務者のように産業電気関係の機器を新規に開発し販売する会社にあっては、その販売に当たる営業員には事務系営業員のほか、機器の技術的内容に精通し、顧客の専門的要請に応じ得る能力を有する技術者の必要であることは、産業界においては公知の事実である。本件転勤命令も債権者が環プロの技術者であることに着目したものに外ならないから、これを以って異種配転ということはできない。
扶養家族のある労働者の場合、その家庭事情によっては転勤により夫婦、親子が一時別居生活を余儀なくされたり、また共働きの夫婦の場合には、夫婦のどちらか一方が従来の職場を変えたりする必要が生じ、そのため精神的、経済的あるいは生活上なんらかの不利益を蒙ることもあり得ることである。しかし、だからといって、このようなことを余儀なくさせる転勤命令が全て権利濫用としてその効力を否定されるものではない。一般的に言えば、転勤命令の必要性とそれによって労働者が蒙る不利益との比較衡量により、前者の必要性がそれ程大きくないのに後者の不利益が通常予測されないような著しいものであると認められるような特別の事情がある場合には、その転勤命令は権利の濫用として無効とされることがあり得るのである。
本件では、債務者主張の事実は一応疎明されるが、同時に本件転勤が内定した昭和49年6月下旬頃まで債権者の結婚予定は債務者には知らされていなかったこと、債権者の婚約者の実家には、その母と既に就職している兄妹が同居していることが疎明され、また本件転勤命令は未だ結婚前の債権者に対し業務上の必要に基づいてなされたものであり、しかも債権者が広島営業所配転の適任者であると決定されたことについても、一応納得できる理由があるのである。債権者が主張する広島配転になれば本件転勤命令発令後に結婚した債権者らは夫婦別居しなくてはならないという事情は、共働き夫婦の一方の転勤に伴って通常生ずる事態であって、事前に予想されないような異常なものではない。したがって、債権者が本件転勤命令によって受けると主張する不利益は労働契約上受忍しなければならない範囲内のものと認められるから、本件転勤命令が権利濫用であって無効であるということはできない。
債権者の組合経歴、本件転勤命令発令当時の組合役職が債権者主張のとおりであること並びに債権者が労働組合活動に積極的に参加してきたことは疎明されるが、債務者が債権者の組合活動を嫌悪していたこと及び債権者の組合活動を止めさせる意図で本件配転をしたとの点については疎明されない。以上の次第で、本件転勤命令が労働組合法7条1号、3号所定の不当労働行為に該当し、無効であるということはできない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例233号52頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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