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鉄道会社(東北自動車部)配転拒否事件

事件の分類
配置転換
事件名
鉄道会社(東北自動車部)配転拒否事件
事件番号
仙台地裁 − 平成2年(ワ)第230号
当事者
原告個人2名A、B

被告C 日本国有鉄道清算事業団

被告D 東日本旅客鉄道株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年09月24日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告Cは、日本国有鉄道法に基づいて設立され、昭和62年4月、日本国有鉄道(国鉄)から名称変更された公法人であり、被告Dは、昭和62年4月に設立され、国鉄が経営していた事業のうち東日本地域における事業を承継した株式会社である。原告Aは、昭和45年4月、原告Bは昭和43年4月に国鉄東北地方自動車部に臨時雇用員として採用され、原告Aは昭和47年10月に、原告Bは昭和50年11月にそれぞれ職員となり、共に青森営業所において車掌兼バスガイドの仕事に継続して従事してきたが、昭和61年8月8日から昭和62年3月8日まで、人材活用センターにおいて主に雑作業に従事していた。原告Aは、国労東北自動車支部婦人部常任委員を経て国労仙台地方本部常任委員を務め、原告Bは国労青森自動車営業所分会婦人部常任委員を務めた。

 国鉄は、承継法人の採用基準に従い、その職員となるべき者の名簿を作成し、設立委員会に提出し、設立委員等から採用通知を受けた者が被告D等の承継法人の職員として採用されるところ、原告らはいずれも昭和62年2月12日に、同年4月1日付けで被告Dに採用する旨の通知を受けた。国鉄は、同年3月9日、原告らに対し、いずれも東北自動車部所管のバス事業部門を移管されたバス会社への出向を発令し、青森営業所からバス会社沼宮内自動車営業所盛岡支所(盛岡支店)に勤務させた。同バス会社は、原告Aに対し、平成6年6月に八戸勤務とする転勤発令をし、平成7年6月、青森支店勤務とする転勤命令をし、原告Bに対して、平成7年6月、八戸勤務とする転勤発令をした。

 これに対し原告らは、本件転勤命令は、原告らが国労組合員であることを理由とする不当労働行為であること、原告ら女性労働者に対し集中的に退職勧奨することは性別による差別であること、本件転勤命令は業務上の必要性はなかったこと、原告Aは夫と子供3人で暮らしているところ、本件転勤により夜勤を主とする夫1人で子供の世話ができないことから、原告Aの実家に子供を預け三重生活となり、原告Aは子供達が精神的に不安定にならないように週2回帰省するなどの努力を強いられるなど精神的に極めて大きな苦痛を受けたこと、原告Bは独身であるが、両親や友人と引き離され精神的苦痛を受けたこと、転勤命令に当たって意向確認等をぜず一方的に転勤命令をしたことは配転命令件の濫用であること等を主張し、本件転勤命令によって著しく精神的、経済的苦痛を受けたとして、被告らに対し金600万円の損害賠償を請求した。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
1 労働契約違反

 国鉄の就業規則は、「業務上必要ある場合は、職員に人事上の異動を命ずる。職員は正当な理由なくして、前項の人事上の異動を拒むことはできない。」と定めているが、原告らは職員に採用されるに当たって、他の営業所への転勤の可否を問われることはなかったことが認められる。しかしながら、原告らが採用された当時は、青森営業所から営業係の職員を他に転勤させる必要性がなく、原告らが採用された際に転勤について問われなかったのもそのような状況を前提にするものであって、国鉄に前記のような就業規則が存在する以上、原告らもその適用を受けるものというべきであるから、原告らと国鉄との労働契約において、就労場所が青森営業所に限定されていたものとみることはできない。

2 本件配転命令の業務上の必要性

 青森営業所においては、ワンマン化により車掌業務がなくなったこと、ガイド業務についてもテープによる案内で代替し、営業係が余剰人員になっていたことが認められる。青森営業所はバス会社になってから免許車両数も拡大し、契約社員をガイド職に充てていることから、原告らを配転させなかったとしても、原告らが従事すべきガイドの職務が将来的に全くなかったわけではないとはいえるものの、6,7月を除くと需要がかなり少ないことからすると、営業係を廃止し、ガイド業務については外注ないし契約社員で賄うとの方策は、経営の効率化という観点からは合理的なものと認めることができる。

 一方盛岡支所では、女子臨時雇用員2名を使用して業務処理に当たっており、当時国鉄は分割・民営化を控え健全な企業体に移行させる要請があったことからすると、原告らを盛岡支所に異動させて、業務に従事させる必要性があったということができる。原告らは、盛岡支所には臨時雇用員2名がいたから、原告らを転勤させる必要がなかった旨主張するが、臨時雇用員を退職させて、その業務に余剰人員となっていた正職員を充てることは、企業経営の観点からみて合理性があるというべきである。

3 本件転勤命令による原告らの不利益

 本件転勤命令当時、原告Aは国鉄職員の夫、小学校3年生、5歳、3歳の3女と青森市内で生活していたが、本件転勤命令により原告Aは盛岡に単身赴任し、3人の子供は原告Aの両親宅で生活することを余儀なくされ、原告Aは週末のほか2回程度青森に帰り、その後両親が子供の養育に耐えられなくなったため、夫と2人で子供達を養育してきたことが認められ、本件転勤命令は原告Aに対し家庭生活上大きな不利益をもたらしたものと認められる。他方、東北自動車部では、原告Aの夫に対し、本件転勤発令前に盛岡付近に転勤する意思の有無を確認したところ、その意思はないとの回答を受け、更に本件転勤命令後も盛岡鉄道管理局への橋渡しをすることは吝かではない旨伝えたことが認められ、原告Aの家庭生活の困難の解消ないし軽減に配慮したものと認められる。

 原告Bは独身で、青森県内に住む両親に会いに行くことが難しくなったことが認められるが、本件の転勤が与える生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。

 原告Aについてみると、その家族状況に照らせば、本件転勤は家庭生活に対し大きな不利益をもたらすものであり、現実に原告Aが幼い子供達との交流を確保し、家庭生活を守るために費やした努力及び精神的負担は多大なものであったと認められる。しかし、共働きの一方に転居を伴う転勤の必要が生じ、ことに未成熟の子があるような場合には、深刻な問題を生じざるを得ないが、だからといって、家族の別居生活をもたらす転勤命令、あるいは未成熟の子を持つ母親である女子労働者に対する転勤命令が直ちに配転命令権の濫用になるともいえないのであって、原告Aの場合は、本件転勤命令時においては両親の援助により子供達の養育をしていくことが可能であり、また青森と盛岡間の距離及び交通事情からすれば、経済的負担を伴うものの、原告Aが相当回数青森に帰省することは可能であり、子供達に会うことが極めて困難になるものではないから、本件の転勤が原告Aに与える生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度を著しく超えるものであるとまではいえない。

 原告らは、昭和61年4月頃からたびたび退職勧奨を受けていたことが認められるが、国鉄においては分割・民営化を控えて余剰人員を削減することが急務とされていたから、これが不当であるとはいえない。また、東北自動車部において転勤命令を受けた5名の女子職員のうち2名は退職したことからすれば、原告らが本件転勤命令に伴って退職を選択することもあり得るであろうことは客観的にみても予測されるものであるが、本件転勤命令は業務上の必要性が認められるものであり、また原告Aの夫に対し盛岡転勤の意向を確認したことも認められるから、本件転勤命令が原告らを退職させるという不当な目的をもってなされたものと認めることはできない。

 原告らは本件転勤命令以前に、転勤についての意向打診を受けたことはなかったことが認められるが、国鉄の就業規則では、業務上の必要がある場合は、職員に転勤を含む人事上の異動を命ずることができるとされており、国鉄は個別的な同意がなくても転勤を命ずる権限を有するものであるから、事前に原告らに意向を打診せず、原告らの同意なくして本件転勤命令を発令したからといって、直ちに配転命令権を濫用したものとはいえない。

 青森営業所においては車掌兼ガイドの女子営業係が余剰人員となっていたものであり、東北自動車部において原告らと同日付けで転勤命令を受けた18名の中には男子職員も13名含まれていたこと、転勤命令を受けなかった女子職員もいたことからすれば、本件転勤命令が性別による差別であるということはできない。

3 不当労働行為について

 原告らは、本件転勤命令は原告らが国労の組合員であることを理由としてなされたものであり、不当労働行為であると主張するが、本件転勤命令は配転命令権の正当な行使としてなされたものと認められ、不当労働行為意思に基づくものと認めることはできない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例705号69頁
その他特記事項
本件は控訴された。