判例データベース
社団法人Tクラブ配転賃金減額事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- 社団法人Tクラブ配転賃金減額事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成9年(ワ)第4424号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 社団法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年11月26日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、国際関係の親善を増進し、その文化交流を図ることを目的とする社団法人であり、原告は昭和44年8月被告に雇用され、ウェイトレスとして勤務し、昭和50年1月からは電話交換手として勤務した後、平成8年10月から洗い場で勤務するようになった。
原告の基本給月額は、入社当初2万6000円であったのが、昭和48年4月に5万6000円、昭和49年4月に6万4500円、同年12月に6万7500円なった後、順次昇給し、平成8年4月に33万0900円となった。
被告は平成8年9月末で電話交換業務を廃止することを決定し、原告に対し、退職するか、被告の中で他の仕事を探すよう伝えた。原告が退職の意思はないと告げたことから、被告は、電話交換手と同等級の職種を紹介したが、原告はこれを拒否したため、被告は清掃か洗い場を紹介し、原告は洗い場を希望した。被告は洗い場であれば基本給が減額される旨説明したところ、原告はこれを承諾しなかったが、被告は原告に対し、基本給を24ヶ月かけて徐々に減額し、最終的に15%減額することを伝え、同年10月から減額措置を実施した。
被告は、平成3年から、等級号俸制を導入し、従業員の職種を事務職からその他までの15に区分し、それぞれの職種を1等級から8等級までにランク付けし、更に各等級内で号俸を付し、その適用により従業員の基本給が決定される仕組みである。
これに対し原告は、本件減額措置は原告の同意に基づかない違法なものであって無効であること、等級号俸制は就業規則の一部ではなく、仮にその一部としても給与の減額に関する規定はないからこれに反する部分は無効であること、更に被告における実例を見ても、職種の変更を伴う配転の際、当該従業員の同意があった例外的な場合を除き、給与の減額は行われていないことを主張し、従前の基本給の賃金支払請求権を有する労働契約上の地位にあることの確認を求めた。 - 主文
- 1 被告は、原告に対し、金210万6500円並びに内金20万9350円に対する平成9年3月27日から、内金132万3500円に対する平成10年12月26日から及び内金57万3650円に対する平成11年9月26日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の地位確認を求める訴えを却下する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件雇用契約について
被告においては、新卒者の定期採用は行わず、欠員の補充又は増員の必要が生じる都度、従業員の採用を行い、雇用契約書ともいえる「人事通知書」には所属部署、職種等が明記され、職種の変更の際は臨時的な場合も含めて、その都度「人事通知書」が交付されていることからすると、本件雇用契約が職種限定契約と見る余地もなくはない。しかし、一般に、専門技術的、あるいは特殊な職種でない場合にまで職種限定契約が締結されることは珍しい上、職種限定契約でなくとも、雇用契約書に当面の担当職務が記載されること等の例もしばしば見受けられることからすると、この事実をもって職種限定契約の根拠とすることは困難である。更に原告は異動希望を出したり、異動に応じていることからすると、雇用契約が職種を限定したものとの認識は持っていなかったことが窺える。これらのことからすると、本件雇用契約は職種限定契約であるということはできず、むしろ、異動ないし配置転換も予定された雇用契約であるというほかなく、原告の電話交換手から洗い場への職種変更も本件雇用契約の範囲内の配置転換ないし異動と言うべきである。なお、被告は、職種ないし職務の変更が従業員の希望、同意に基づいて行われてきたことも職種限定契約の根拠とするが、配転を予定した雇用契約でも無制限に配転が許される趣旨であるとはいえないし、実際に従業員の同意を得て配転を行う取扱いをする場合もあり、右事実をもって直ちに職種限定契約であるということはできない。
2 本件減額措置について
当時原告としては、交渉はECに委ねたとの認識を持っており、平成8年9月ないし10月頃には本件原告訴訟代理人に相談もしていたことからすると、本件減額措置に承認する意思はなかったことが明らかであるし、基本給の減額のように労働条件の極めて重要な部分については、単に当該労働者が明確に拒否しなかったからといって、それをもって黙示の承諾があったとみなすことはできない。
被告としては、等級号俸制の導入以来、原則として職種・職務と等級号俸を関連付けて基本給を決定しようとしてきたことは窺えるものの、被告と各従業員との雇用契約は職種限定契約ではなく、厳密には全職名と等級号俸とは関連付けられておらず、また、従業員の受ける不利益を考慮したり、従業員との合意に基づいたりして、等級号俸制を弾力的に運用してきたものというべきであり、職務の変更に伴い当然に変更された等級号俸を適用しているということはできず、職種の変更と基本給の変更は個別に当該従業員との間で合意され、決定されてきたものといわざるを得ない。したがって、本件減額措置は、就業規則の適用によるものであるから、有効であるとする被告の主張は理由がない。
3 原告の地位確認及び賃金請求について
本件減額措置は無効であるから、被告は原告に対し、差額賃金210万6500円の支払い義務がある。ところで、例えば将来の給付を求める訴えとの関係でいえば、先決問題として地位確認を求めることは有効な手段となるとしても、そうではない本件においては、現在までの差額賃金の支払いを求めることによって、本件紛争の抜本的かつ確定的な解決を図ることができる以上、地位確認を求めることは、最も有効かつ直接的な紛争解決方法とはいえないから、このような訴えは確認の利益を欠くものと言わざるを得ず、不適法として却下を免れない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例778号40頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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