判例データベース
N航空FA配転拒否事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- N航空FA配転拒否事件
- 事件番号
- 千葉地裁 − 平成15年(ワ)第1354号
- 当事者
- 原告 個人5名A,B,C,D,E
被告 航空会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年04月27日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は国際航空事業を営む会社であり、原告らは本件配転当時、いずれも被告の正社員であり、東京ベースに所属し、フライト・アテンダント(FA)業務に従事していた。
被告は平成9年頃から日本における業績が悪化し、東京ベースのFAが余剰になったことから、原告らを地上職である成田空港旅客サービス部に配転した。これに対し原告らは、FAは高度の専門性・特殊性があり、労働契約上FAに限定する合意がされていること、組合との労使確認書によってFA問題は抜本的に解決されていること、本件配転によってFAとしての能力を発揮する機会、能力を向上させる機会を失ったほか、種々の手当の支払を受けることができない等の不利益を被ったことなどを主張して、FAの地位にあることの確認と、本件配転命令によって被った精神的損害に対する慰謝料として原告それぞれに100万円を支払うよう要求した。 - 主文
- 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 採用時におけるFA限定合意の有無
就業規則には、被告は業務上の都合により従業員の職種の変更を行うことがある旨の規定及び異動を命じられた従業員は、正当な理由がない限り、これを拒むことのできない旨の規定があること、平成14年度労働協約書には、被告は業務上の都合により地上職員の職種の変更を行うことがある旨の規定があり、この規定はFAにも適用されること、本件では原告らがFAとして採用される際、就業規則、労働協約の条項を排除して職種をFAに限定する旨の明示の合意がされたと認める客観的証拠はなく、原告らが採用された際、被告が日本地区のFAをその個別的な同意を得ずに地上職に配転した事例が少なくとも12例あったことなどの事情をも併せて考慮すれば、被告は原告らに対し、その個別的な同意を得ずに職種の変更を伴う配転を命ずる権限を有するものと認めるのが相当である。
原告らは、FAは高度の専門性・特殊性を有すること、FAトレーニングを修了し特別な資格を取得しなければならないこと、いずれの航空会社でも職種は機内乗務系統と地上職系統に大別されていることを挙げて、本件配転の無効を主張するが、FAは、その業務内容によって職種限定の合意を基礎付けることができるほど高度の専門性を有する職種とは認められないこと、国家資格等の一般性のある資格とはいえず、当該航空会社において客室乗務員として勤務するための条件にすぎないというべきであること、航空会社において、一般的に従業員の職種が機内乗務系統と地上勤務系統と大別されていると認めるには足りないことが認められる。また原告らがFAとして勤務した期間は、約4年ないし6年に留まるから、原告らの就労実績をもって、その職種をFAに限定する旨の合意が成立したと評価することはできず、各事情を総合しても、被告が各原告をFAとして採用する際、各原告との間で、その職種をFAに限定する旨の合意をしたとの原告らの主張は理由がない。
2 被告と組合との間における原告らのFA限定合意の有無
被告は、平成13年8月頃、FAの余剰を理由として、本人の個別的同意なしに地上職に配転したが、それにより生じた組合との紛争に関する団交において労使確認書が作成された。その中の「資質、適性、執務能力がある限り」との文言は具体性を欠き、いかなる場合に被告の配転命令権が制約されるのか明らかでないし、また被告が業務上の必要に基づきFAの労働条件の変更等を実施することができ、その場合には組合との間で別途協議する旨の規定がある等の事情に照らせば、本件確認書により、組合と被告との間でFAの配転に関する諸問題について一定の合意が成立したものと認められるとしても、本件確認書が同諸問題を抜本的に解決するために作成されたとまで認めることは困難である。したがって、被告は組合との間で本件確認書を作成することによって、FA全員の職種をFAに限定する旨確認し、原告らとの間で合意をしたとの原告らの主張は理由がない。
3 本件配転命令が配転命令権の濫用になるか
被告は、原告らとの間で、その職種をFAに限定する旨の合意をしたとは認められないから、就業規則、労働協約の規定に基づき、業務上の必要に応じ、その裁量により、原告らの個別的同意を得ずに、業務内容の変更を伴う配転を命ずる権限を有する。もっとも、かかる配転命令権を濫用することは許されないと解されるところ、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不法な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情がある場合には、当該配転命令は権利の濫用に当たり無効であるというべきである。
平成9年以降、被告の日本における業績は悪化しており、本件配転当時、人件費を削減する必要性があったことは明らかである。被告の試算によれば、東京ベースのFAに15名の余剰が生じている。一方、成田旅客サービス部では約10名の人員不足が生じていたところ、本件配転命令等により、同部に8名の従業員を配置する必要がなくなり、新たな人件費支出が不要になったことが見込まれる。以上の通り、本件配転命令等は、人件費の削減に資するものと認められ、労働力の適正配置という観点からも合理性が認められるところである。したがって、被告には本件配転命令を実施する業務上の必要性があったというべきである。
原告らは、本件配転命令によってFAの職を一方的に奪われ、誇りを傷つけられるとともに、FAとしての能力の発揮、向上の機会を失ったと主張するが、かかる事情は主観的・抽象的なものであり、成田旅客サービス部の業務内容からすれば、原告らがこれまで習熟してきた知識や技能を十分生かせる業務内容であることが認められるから、原告らの受ける不利益が通常甘受すべき程度を著しく超えるものということはできない。また原告らは、本件配転命令により、各種手当等の支払を受けられなくなったと主張するが、これらは実費払いの性質を有するもの、業務実績に対する対価として支払われるものであることからすれば、本件配転命令により手当等の支払を受ける機会がなくなったことをもって、原告らの受ける不利益が通常甘受すべき程度を著しく超えるものということはできない。その他、本件配転命令が原告らに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものというべき事情は見当たらないし、他の不法な動機・目的をもってなされたものであるとは認められない。
原告らは、被告がFAの地上職への配転を回避するための努力を行わなかったと主張するが、本件配転当時経営状況が極めて悪化していたと認められること、被告は本件配転命令までに経営改善のために様々な施策を実施したことに加え、原告らが主張するFA全員の飛行時間の制限、FA全員の賃金カット等の施策を実施するか否かは、経営判断にかかる高度に専門的なものであり、基本的には被告経営判断を尊重すべきであることに照らせば、本件労使確認書の作成に至る経緯を考慮したとしても、被告に原告らの主張する努力義務があったと認めることはできない。また、原告らは、被告が説明義務を十分に尽くさなかったと主張するが、被告は東京ベースのFAの人員削減を決定して以降、組合及びFAに対し、可能な限り協議の場を設け、その理解を得るため複数回にわたって協議をしたと認めることができるから、被告は、本件配転命令を実践するに当たって要求される説明義務を一応果たしたというべきである。よって、本件配転命令が権利濫用に当たるとする原告らの主張は理由がない。
4 本件配転命令は不当労働行為に当たるか
本件配転命令は業務上の必要性に基づくものと認められること、平成14年度の労働協約において、人員削減の必要性が生じた場合の人員整理に際し、先任順位の低い従業員からその対象とするという人選基準が定められていることが認められることに照らせば、先任順位の低い者から選定するとした本件人選には合理性が認められる。そうであれば、本件配転命令は主として不当労働行為の意思に基づくものであるとはいえない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例921号57頁、労働経済判例速報1939号3頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
千葉地裁 − 平成15年(ワ)第1354号 | 棄却(控訴) | 2006年04月27日 |
東京高裁 − 平成18年(ネ)第2785号 | 変更(控訴一部認容・一部棄却)(上告) | 2008年03月27日 |