判例データベース

郵便局非常勤職員雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
郵便局非常勤職員雇止め事件
事件番号
札幌地裁 - 平成9年(ワ)第2231号(第1事件)
当事者
原告 個人1名
被告 国
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年08月29日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
原告は、平成7年9月26日、S西郵便局(西局)に1日4時間、月平均20日勤務の非常勤職員として採用された女性である。原告に対する辞令は、当初同月30日までとされ、同年10月2日に平成8年3月30日までとされた後、更に同年4月1日に雇用期間を同年9月28日までとする辞令が交付された。

 平成8年8月23日、西局課長Aは原告に対し、口頭で同月28日以降は出勤しなくて良い旨伝えたが、原告は辞職の意思はない旨答えた。更に課長Aは同月28日、原告に対し辞職願に署名・押印するよう求めたが、原告がこれを拒否したため、西局長は同日原告に対する辞職承認処分を行った。これに対し原告は、同年10月21日、人事院に対し、西局長が同処分により原告を職場から排除したことを理由として、人事院規則に基づく審査請求を行った。西局長は、同年12月18日、原告に対する辞職承認処分を取り消し、同月19日付けの文書で、その旨通知するとともに、同年9月28日で予定雇用期間が満了し、これをもって当然退職となった旨通知した。原告は、平成9年1月27日、人事院に対し、西局長が予定期間の満了を理由として原告を職場から排除したことを理由として、人事院規則に基づく審査請求をしたが、同年3月4日付けで却下された。

 原告は、本件雇止めは違法であるとして、主位的には平成8年9月29日以降も西局非常勤職員としての地位にあることの確認と賃金の支払い(第2事件)を、予備的には長期雇用の期待を侵害され、退職を強要されたこと等についての慰謝料等330万円の支払い(第1事件)を請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 原告は平成8年9月29日以降、西局非常勤職員の地位にあるか(第2事件)

 原告は非常勤職員として採用されたのであり、原告の任命権者である西局長において、平成8年9月29日以降、原告を非常勤職員として採用することを前提とする手続きがされていないことからして、原告は予定雇用期間である平成8年9月28日の経過をもって、当然に退職したと認めるべきである。そして、採用が繰り返されたからといって、原告の地位が期間の定めのないものになったと認めることもできない。

 原告は、仮にその地位が期間の定めのあるものであるとしても、重大な職務の不適格や非行事実等の特段の事情がないのに、一方的に雇止めすることは権利の濫用であって許されないと主張する。しかしながら、(1)民間の臨時工の雇止めの効力の判断に当たって、解雇に関する法理の類推適用を認めるべきであるとした最高裁昭和49年7月22日判決の解釈を、当事者双方の合理的意思解釈によってその内容を定めることが予定されていない公務員の任用について直ちに当てはめることは無理困難であること、(2)期間の定めのある任用とこれのない任用とは別個の任用行為と考えられており、期間の定めのない任用行為がない限り、期間の定めのない任用関係が成立するとは解されないこと、(3)人事院規則に照らし、期間の定めのある任用が繰り返されたからといって、これが期間の定めのない任用に転化するとか、任用予定期間満了後の任用の拒否について解雇に関する法理が類推適用されると解する余地はないというべきである。

 以上の通り、原告は平成8年9月29日以降、西局非常勤職員たる地位を有するとは認められないから、原告の主位的請求には理由がない。

2 長期雇用に係る期待権侵害による国家賠償責任の有無(第1事件)

 原告が、予定雇用期間満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は任用されることを期待する法的権利を有するものとは認められないから、西局長が原告を再び任用しなかったとしても、その権利ないし法的利益が侵害されたと解する余地はない。もっとも、任命権者が非常勤職員に対して、予定期間満了後も再任用することを確約ないし保障するなど、期間満了後も継続雇用されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたというような特別な事情がある場合には、その職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損害につき、国家賠償法に基づく賠償を認める余地があり得る。本件においては、原告の採用時に雇用期間につき特段の説明をしていないこと等からみて、「特別な事情」を認めることができないから、これを前提とする原告の慰謝料請求は、その余の点を検討するまでもなく理由がない。

 本件辞職承認処分は、(1)平成8年6月14日、原告が課長Aに対し「辞める方向で考えている」旨記載された文書を手渡し、(2)同年7月8日、原告が課長Aに対し「いつ頃辞めたらよいか」と質問したのに対し、課長Aが「新しい非常勤職員が決まったら」と答え、(3)これが見つかったことから、同年8月23日に課長Aから原告に対し、同月28日に辞めてもらうと述べたところ、原告が「辞めるとは言っていない、考えると言っただけである」と辞職を拒否したことが認められる。以上によれば、西局長の原告に対する辞職承認処分は、結果的に原告の辞職の意思(ないしその撤回の有無)を十分確認しなかったと評さざるを得ない点で適切さを欠くものであったと言い得るものの、処分から3ヶ月余りでこれが取り消され、これによる直接の被害が回復されているという事情もある。こうした本件の一連の経過を総合してみると、西局長らが原告に対して辞職願に署名押印を求めたこと、原告に対する辞職承認処分を行ったために原告が審査請求を余儀なくされたこと、その後その処分の取消しについて理由の説明や謝罪をしなかったこと等という原告主張の事実があったにせよ、それが被告に対して損害賠償義務を課さなければならないほどの違法性があると認めるには足りないというべきである。したがって、原告の慰謝料請求もまた理由がない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例833号83頁
その他特記事項
本件は控訴された。