判例データベース
C航空会社客室乗務員雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- C航空会社客室乗務員雇止め事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成11年(ワ)第16167号、東京地裁 − 平成11年(ワ)第24417号
- 当事者
- 原告 個人7名A、B、C、D、E、F、G
被告 航空会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年12月21日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、アメリカ合衆国の航空旅客運送等を目的とする会社であり、原告らは、平成7年から9年にかけて被告との間で雇用期間を1年間とする雇用契約を締結して就労していた契約社員たる女性客室乗務員である。
被告は、経営合理化の一環として客室乗務員の正社員制度を廃止して全員を契約社員とすることとし、平成10年2月、「フライフォーファイブ」と称する契約社員制度を導入した。被告は正社員と並行して契約社員についても同制度を導入し、原告A、B、F、Gについては雇用期間を同年4月1日から平成11年3月31日までとし、原告C、D、Eについては平成10年5月1日から平成11年4月30日までとする契約を締結した。
被告は、平成11年3月1日、第1次フライフォーファイブに基づく1年契約を締結した客室乗務員全員に対し、同契約を更新しない旨伝えるとともに、その後の6ヶ月の雇用を希望する者は同月15日までに申し込むよう通知した。原告らは全員この申し込みをしたが、被告は、原告A、B、C、D、Eに対し、契約に応じられない旨回答し、原告F及びGとの間で、新たなプログラムに基づく第2次フライフォーファイブとして平成11年4月1日から6ヶ月間の契約を締結した。被告は同年8月24日、原告F、Gらを含む6ヶ月契約を締結した客室乗務員全員に対し、契約を更新しない旨通知した。
これに対し原告らは、フライフォーファイブによる契約は、形式的には1年あるいは6ヶ月とされているものの、原告らに5年間稼動することの約束を求めて成立したものであり、そのような契約は労働基準法13条、14条の趣旨に照らし期限の定めのない労働契約と同視され、その解雇又は雇止めには解雇制限法理が適用されるべきであること、また、そうでないとしても、被告はフライフォーファイブ契約締結に当たり、原告らに対し、5年間の雇用を保証する言動を繰り返しており、またその業務実態は正社員と同様のものであったから、原告らに対し5年間の稼働を保証し、あるいは契約期間が5年間まで更新されるのが通常であるとの合理的期待を持たせたから、その更新拒絶は解雇制限法理と同様の制限に服するというべきであることを主張した。その上で、原告らは、契約社員の従事する業務は、フライフォーファイブ契約が導入される以前から正社員と同様のものであったこと、同契約導入以前は契約社員の意に反して更新を拒絶されることはなかったこと、同契約の説明文の表現は5年間の稼働を前提としており累増的ボーナスによって5年間の稼働を奨励するものであったこと、被告は同制度について、1年で終わりではなくその先に契約を続行できるという期待を与える説明を行ったことを指摘し、本件更新拒絶の当時、被告は過去最高の利益を計上しており、到底人員削減の必要性に迫られた状況にはなかったし、被告は解雇回避努力を行わず、十分な労使協議や合理的な対象者選定を行わなかったとして、本件解雇又は更新拒絶は、整理解雇法理等に照らして無効なものであるとして原告らと被告との間の雇用関係の確認を請求した。 - 主文
- 1 原告らに請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 被告が作成したフライフォーファイブの説明パンフレットには、「5年間に至るまで被告の契約客室乗務員として乗務することを求める」など、この制度が契約期間を実質5年とする契約であるかのような記述もあるが、これに引き続き「このプログラムは1年ごとの再契約という形で行われる」旨を説明し、「フライフォーファイブのプログラムが5つの個別の1年契約から成り立っていることを理解することが重要である」として契約が1年契約であることの注意を喚起していること、「5年間のサービスを約束するよう期待することはできないし、また被告も5年間の仕事を提供することを保証するものではない」旨明記されていること等に照らせば、同契約が期間を5年間とする契約であると解することはできないから、この主張を前提とする原告らの解雇権濫用の主張は失当である。
フライフォーファイブ制度は勤務年数に比例した累積的ボーナスの支給を約束して再契約のインセンティブを提示していること、被告が応募者に対し5年の就労を期待するような表現部分があること、この制度導入以前において、原告ら契約社員の業務内容は正社員と全く同様のものであったこと、この制度導入前に契約社員の更新拒絶がなされた例はないこと、被告は契約社員との当初契約に先立ち、約2ヶ月かけて正社員と同様の訓練を実施していること等の事情からすると、原告ら契約社員の地位にあった者がフライフォーファイブに基づく最初の契約を締結するに当たり、当該契約が5年間にわたり更新されるものと期待を抱いたとしても無理からぬ面はある。
しかしながら、他方で、第1次フライフォーファイブのパンフレットには、このプログラムが1年ずつの契約であって、契約当事者のいずれかの意思により更新されないことがあり得ることが説明されており、パンフレットや契約書の記載を全体として理解すれば、原告らにおいて、フライフォーファイブによる契約が更新されるとの期待が客観的にみて合理的なものであるということはできない。また、実質的にみても、Aを除く原告らは、いずれも平成9年4月以降に期間1年の条件で被告に雇用された契約社員であって、フライフォーファイブ導入前からの旧契約の期間を通算しても、雇用関係が継続するとの信頼を抱くのが合理的といえるほどの長期の雇用契約関係にはなく、原告Aについても、平成8年及び9年にそれぞれ期間1年として契約が更新されてはいるものの、旧契約による就労期間は通算3年弱に過ぎず、かつ、平成9年の更新契約に際して作成された契約書には、この期間満了後の契約更新は行われないことが明記されていたことに照らすと、雇用契約継続の信頼を抱くことが合理的であるといえる事情があったとは認められない。
以上を総合すれば、原告らの契約更新への期待が客観的にみて合理的なものであるということはできず、本件原告らに対する雇止めについて、解雇制限法理を適用又は準用すべき事情は見出せない。そして、被告が原告らとの契約を更新せず、第1次及び第2次のフライフォーファイブプログラムを終了させるに至った事情は前記認定のとおりであるところ、これまで認定した全事情を考慮しても、被告が原告らとの間で契約を更新しないことが信義則に反し、あるいは権利の濫用に当たるとはいえず、またそのように評価すべき事情を認めるに足りる証拠はない。以上のとおりであるから、原告らと被告との間の雇用契約は、いずれも前提事実に各記載の最終の雇用契約期間が満了したことになる。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例836号119頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成11年(ワ)第16167号、東京地裁 − 平成11年(ワ)第24417号 | 棄却(控訴) | 2001年12月21日 |
東京高裁 − 平成14年(ネ)第670号 | 棄却(確定) | 2002年07月02日 |