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E航空会社解雇予告仮処分事件

事件の分類
雇止め
事件名
E航空会社解雇予告仮処分事件
事件番号
東京地裁 − 昭和48年(ヨ)第2354号
当事者
その他申請人 個人33名
その他被申請人 航空会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1973年12月22日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 被申請人は、航空運輸事業を目的としてフランス国法に準拠して設立された外国会社であり、申請人らは被申請人に雇用される日本人スチュワーデスである。

 被申請人は、フランス全国客室乗務員労働組合(SNPNC)の要請に沿って、外国籍客室乗務員をすべてパリ本社雇用に改めることとし、昭和48年6月の日本人労組との交渉の席でその旨提案した。同年8月、被申請人とSNPNCの間において外国籍客室乗務員の採用と乗務に関する協定書が調印され、乗務員は本拠をパリに定めること、地域代表組合が存する場合にはこれとの交渉後に条件及び補償について決定すること等の協約条項が規定された。日本人労組は被申請人の提案に反対したが、交渉に当たった人事課長は、「再雇用か退職か二者択一しかない」との態度であった。

 同年10月31日、被申請人は申請人らスチュワーデスに対して、同日付けの文書により、全外国人客室乗務員をパリ配属にすること、日本人スチュワーデスとの雇用契約を解消し同時にパリにおける新しい雇用契約を提案すること、移籍の諾否の回答は11月20日までとし、移籍を拒否する場合及び期限までの回答がない場合は、同日に解雇予告期間に入ったものとみなし同年12月31日をもって解雇となる旨伝えた。これに対し申請人らが、パリ移籍に応じないとして回答期限を徒過したことから、被申請人は申請人らを解雇したところ、申請人らは、本件解雇を無効として、従業員としての地位の保全を求めて仮処分の申請を行った。
主文
1 被申請人が申請人らに対してそれぞれ昭和48年10月31日付文書を交付してした解雇の予告の意思表示の効力を停止する。

2 訴訟費用は被申請人の負担とする。
判決要旨
 本件パリ移籍は、再雇用の成立する限りにおいて実質上の配置転換にほかならないが、申請人らは東京を雇用地とするスチュワーデスとして期間を定めないで被申請人に雇用されたものであるから、雇用契約上の勤務地は東京と特定されている。したがって、被申請人は申請人らに対して雇用地又は配属地を東京以外の場所に変更する配置転換を命ずることはできないし、申請人らは自己の意思に基づくのでなければ東京以外の場所にその雇用地又は配属地を変更されることがないというべきである。日本人スチュワーデスの採用条件は、20歳以上27歳未満の未婚女性であり、英語又はフランス語を完全に話すことができる等であり、申請人らの雇用契約上の地位は比較的高く、かつ安定したものということができる。しかも英仏2カ国語のうち1ヶ国語を完全に話せること、採用は30倍を超える狭き門であることから、申請人らが被申請人のスチュワーデスとしてその雇用関係上有する地位及び利益は、もとより被申請人が与えたものではあるが、同時に自己の刻苦勉励に負うものであり、かつ、既得のもというべきである。したがって、被申請人は、申請人ら日本人スチュワーデスがパリ移籍に応じない場合においても、みだりに既得の地位及び利益を一方的に奪うことは許されないものといわなければならない。

 「法律に従い」解雇の予告と補償(退職金)を支払う以上解雇は有効であるという被申請人の主張は、いずれも解雇自由の原則に立つものであり、法の適正な手続きに従う限り解雇を正当とするものである。被申請人と申請人らの間の本件雇用契約の成立及び効力に関しては日本国法を準拠法とするものであり、日本国法の下においても解雇の自由は存するが、使用者の解雇権の行使は、労働者の雇用関係上の地位と利益の保護のために、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものとするのである。

 申請人らにはパリ移籍を応諾すべき雇用契約上の義務が存しないから、本件解雇の性格は、いわゆる整理解雇に似た面を呈するものというべきであるところ、被申請人は事業の伸張がめざましく、外国人客室乗務員は現在の100名のほか、昭和49年以降更に160名を増員することを決定しているほどであるから、本件解雇はただ果敢さ、強行さの故をもって整理解雇的属性を有するものといわなければならない。

 被申請人は、地域労組とパリ統合後に適用すべき労働協約と同一内容のものを規定することができるわけであり、東京でスチュワーデスを採用・配属させる方式は、他の外国籍航空会社でも取られていることが認められ、業務の正常な運営を果たしていると見るほかないし、パリに移籍したからといっても、スチュワーデスの勤務の特殊性から、ただ名目的に配置根拠地が変わるだけのことであり、勤務の態様及び生活の実態等にさしたる変化を来すものでないことが認められるから、被申請人の主張する解雇の理由はにわかに首肯し難いものというべきである。また、被申請人は、本件解雇は被申請人の外国支社における外国客室乗務員部門の事業閉鎖に起因するとも主張するが、企業組織中の一部の事業閉鎖といっても、全体的にみてその人的構成、物的設備及び業務量に縮減を来すものではなく、たんにパリ移籍を意味するに過ぎないから、被申請人のいうところは類語反復に陥るものというべきである。

 以上によれば、被申請人が申請人らに対してそれぞれ昭和48年10月31日付文書を交付して申請人らとの各雇用契約についてした「雇用契約を同年12月31日をもって終了させる」旨の解雇の予告の意思表示は、パリ移籍の動機的事情並びに解雇の理由に照らして、到底客観的に合理的な理由が存するものとはいえないから、解雇権を濫用したものとして無効とするのが相当である。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
判例時報726号25頁
その他特記事項
本件は控訴された。