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情報技術開発パートタイマー雇止め保全異議事件

事件の分類
雇止め
事件名
情報技術開発パートタイマー雇止め保全異議事件
事件番号
大阪地裁 − 平成7年(モ)第52818号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1996年01月29日
判決決定区分
認容
事件の概要
 債務者は、コンピューターのシステム開発を業とする会社であり、債権者は昭和58年4月に大学新卒で債務者に雇用され、関西支社でコンピュータープログラマーとして主に貿易システムのプログラミングを担当していた女性である。

 債権者は、平成3年10月2日から平成4年11月15日まで、出産休暇及び育児休業を取得し、同日債務者を一旦退職の上、翌日からパートタイマーとして復職した。本件パート契約の期間は当初平成5年3月末日までであり、以後は期間を6ヶ月とする契約の更新を重ねてきたところ、債務者は業績が悪化し余剰人員の削減が必要であるとして、平成6年9月30日付けで、雇止めすることを債権者に対し通知した。これに対し債権者は、一旦退職した形でパートタイマーでの契約を締結したのは勤務時間を短縮するための便宜的措置に過ぎず、平成6年9月末日の経過をもって当然終了するものではないから、本件解雇は正当な理由がなく解雇権の濫用であるとして、債務者の従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求めた。

 仮処分決定においては、債権者がパート契約を締結した経緯、勤務内容等から、本件雇止めには解雇に関する法理が適用され、合理的理由がない限り許されないとした上で、債務者が人員削減等合理化に取り組んでいたことは認められるが、債権者がパートタイマーになった経緯やその後正社員に復帰する希望を有していることを十分認識しながら、解雇を回避するための真摯な努力をすることなく雇止めの決定をしたとして、債務者に対し解雇の無効と賃金の支払いを命じた。
主文
1 債権者と債務者間の大阪地方裁判所平成6年ヨ第3296号事件につき、同裁判所が平成7年6月5日になした仮処分決定はこれを認可する。

2 訴訟費用は、債務者の負担とする。
判決要旨
 債権者は、育児休業期間終了後、正社員として復職することを強く希望していたが、子供の保育園への通園の時間等の関係で正社員の勤務時間では無理な状況であることから、一旦は債務者を退職し、特段の採用手続きをとることなく債務者のパート社員として勤務を継続することになった。その処遇は、勤務時間及び給与体系は異なるものの、残業及び休日の取扱い、懲戒及び社会保険の適用などは正社員と同じであり、業務内容も正社員とともにチームを組んで稼動し、研修などにも参加していた。

 本件パート契約は期間が明示されているものの、債権者が職務について継続かつ専門性を有することを前提に契約し、更新を重ねてきたものである。したがって債権者において雇用継続について高度の期待を抱いていたものであると認められ、債務者もこれを十分意識しており、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたものであると認定できるから、期間の経過のみでは当然に雇用契約が終了するものではなく、本件パート契約については、解雇に関する法理が類推され、解雇してもやむを得ない特段の事情がなければ許されない。

 債務者においては、6,7年前より技術者を対象に結婚退職後も技術を生かして働きたいとの希望を有する女性に対し、パート社員として雇用しており、債権者についてもそのようなパート契約を締結したものである。関西支社において女子の再雇用制度により採用されたパート社員は債権者を含め5名で、業務内容は正社員と異なるものではなかったと認められ、債権者の本件パート契約の雇止めの可否については、その締結の際の特殊事情を考慮せずに判断することは妥当でない。また、債務者の担当者は本件パート契約更新の際、雇止めがなされることを説明したことはなく、他方債権者においてもフレックスタイム制の適用を強く求めていたことからすれば、債権者においてパート契約が当然更新されることの期待を有していたものと判断できる。

 債務者が本件パート契約の雇止めの意思表示をした当時、人員削減を含め相当な経営努力を要する状態にあり、合理化に取り組んでいたことは認められるが、債務者は、正社員であった債権者がパート社員になった経緯及びその後において正社員に復職する希望を強く有することを十分認識しながら、パート契約は期間満了により当然終了するとの前提でこれを回避するための真摯な努力をすることなく、本件パート契約の雇止めを決定したものと思料され、その後の本件予備的解雇も特段の事情が存在していたとはいえないから、その効力が生じないというべきである。

 確かに、債務者が主張するように、臨時的雇用は雇用調整的な機能を有することを否定することはできないが、臨時的任用といってもその内容は千差万別であり、内容を吟味してその可否を判断しなければならない。債権者は育児と仕事との両立が難しいことから、仕事を継続していくために、本件パート契約を締結したものであり、債務者もそのことを了解して同契約を締結したものであるから、パート社員であるが故に当然に臨時的労働者として雇用調整のため解雇できると解することは許されない。むしろ、債権者の雇用契約の締結の経緯からすれば、正社員の解雇に準じて解雇してもやむを得ない特段の事情が存在するか検討しなければならない。したがって、債権者の雇止めが許されるか否かは、企業全体の雇用量の傾向との関係において考えるべきであり、一方で新しく社員を採用しながらパート社員であるとのことで景気変動の調整弁としての役割のみ強調することは許されないと思料する。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例689号21頁
その他特記事項