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中部交通アルバイトガイド雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
中部交通アルバイトガイド雇止め事件
事件番号
名古屋地裁 − 平成7年(ヨ)第411号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1996年02月01日
判決決定区分
一部認容・一部却下
事件の概要
 債務者は、観光バス等による旅客運送等を目的とする会社であり、債権者は昭和58年7月から2ヵ月間の試用期間をおいた上、同年9月から契約期間を1年とする「アルバイトガイド契約」を締結し、債務者の観光バスガイドとして勤務し、毎年間断なく契約を更新してきた女性である。

 債権者は、平成6年8月、債務者から、契約期間を同年9月1日から同年12月31日までとするアルバイトガイド契約の申し入れを受け、やむなくこれに応じたところ、平成7年1月19日、債務者所長が債権者と面会した際、期間満了後は契約を更新せず、契約は終了した旨告知された。

 債権者は、本件契約は債務者が主張する請負契約ではなく、継続的な労働契約であること、期間の定めのない契約に転化していたか、少なくとも実質的には期間の定めのない契約と解することができるから、本件告知は解雇と同視でき、解雇法理が適用されること、債権者の勤務態度には債務者の不利益となるような行動は一切なかったから、本件解雇は何ら正当な理由がなく、解雇権の濫用に当たり無効であることとして、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めた。

 これに対し債務者は、本件契約は個別のバス旅行について個別に発注する請負契約であること、仮に労働契約であるとしても、期間の定めのある契約であるから、解雇の意思表示等を待つまでもなく、平成6年12月31日をもって本件契約は終了していること、債権者の勤務態度には、乗務についての不満を述べたり、緊急の乗務交代の依頼にはほとんど応じようとせず、第三者とのトラブルを起こすなど、常軌を逸した目に余るものがあることを指摘し、本件契約終了の正当性を主張した。
主文
1 債権者が、債務者に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に認める。

2 債務者は、債権者に対し、平成7年1月1日以降本案判決言渡しに至るまで、毎月25日限り、金24万8532円を仮に支払え。

3 債権者のその余の申立てを却下する。

4 申立費用はこれを2分し、その1を債権者の、その余を債務者の各負担とする。
判決要旨
 債権者は、債務者のアルバイトガイドとして、債務者の指揮命令の下、その乗務指示に従って観光バスに乗務していたこと、その乗務に対する対価として、債務者から「賃金」と称する報酬の支払いを受けていたことが明らかであるから、本件契約は労働契約であると解するのが相当である。そして、アルバイトガイドは、1年間の期間を定めた契約に基づき勤務しているとはいえ、バスガイド業務の大半を担当しているため、本人が希望すれば原則的に契約が更新され、債務者におけるバスガイドの主力メンバーとして恒常的に勤務している状況にあること、契約の更新はそれほど厳格ではなく、契約書用紙及び契約内容も基本的には毎回同じものであったこと、債権者の本件契約は10回にわたって何の問題もなく更新が繰り返されたことが認められる。これらを総合すると、本件契約には期間の定めが一応あるものの契約当初から当事者のいずれかから格別の意思表示がない限り当然更新されるべきことを前提としてこれを締結しており、期間満了の度に毎年更新を重ねていたのであるから、遅くとも最後の更新がなされる前の平成6年8月31日までには、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態が成立していたものと認めるのが相当である。そうである以上、本件において、仮に使用者の雇止め等解雇と同視できるような事実が認められるならば、そこにはいわゆる解雇権濫用の法理が類推適用されて然るべきものと解され、所長が行った本件告知は、解雇と実質的に異なるところはないというべきであるから、これについては解雇権濫用の法理を類推適用することができるものと解するべきである。

 債務者が本件告知をした理由は、債権者が日頃から不平不満を述べたり、管理者らに文句を言ったりすることがしばしばあったということと、第三者から苦情が寄せられるような対応を債権者がしたことがあったということに尽き、それ以上に、債権者の本務であるバスガイドとしての乗務を理由なく拒否したりするなどの事実は認められず、また、債権者の勤務態度についてみても、上司から何度も注意されたにもかかわらず改善されなかったという事実や、その不良な勤務態度が債務者の従業員の士気を低下させたり、社内の秩序を乱すに至ったなどの事実も窺われないのであって、そうである以上、債権者の勤務態度だけを理由にして債権者に対し実質上解雇と同視される本件告知を行うことは、解雇権の濫用に当たるものとして無効というべきである。したがって、債権者は、債務者との関係で、依然本件契約上の地位を有するものというべきである。

 債権者は仮払い賃金額として、平成6年10月から12月までの平均給与44万6149円を求めるが、これはトップシーズンとして通常アルバイトガイドの賃金が最も高くなる時期に対応するものと認められるから、1年間の債権者の平均月額を算出し、35万5047円と認める。債権者は、夫をなくした後、債務者から支給される賃金を唯一の収入とし、これにより息子を養い、かつ、住宅ローン毎月6万円の支払いをしていたこと、差し当たり他からの収入は見込めないことが一応認められ、これらの事情に本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、債権者については、その地位の保全と平均給与月額の70%に相当する金24万8532円につき仮払いの必要性を認めるのが相当である。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働経済判例速報1618号16頁
その他特記事項