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K社配転拒否解雇事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- K社配転拒否解雇事件
- 事件番号
- 神戸地裁 − 昭和58年(ワ)第850号、神戸地裁 − 昭和58年(ワ)第1404号
- 当事者
- 原告(反訴被告) 個人1名
被告(反訴原告) 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1989年06月01日
- 判決決定区分
- 本訴棄却、反訴認容(控訴)
- 事件の概要
- 被告(反訴原告)は、船舶、航空機等の製造・販売を主たる業務とする会社であり、原告(反訴被告)はその従業員である。被告は、造船不況に対処するため、神戸工場の造船部門で勤務していた原告を、昭和53年6月16日付けで岐阜工場の航空機事業部に配転させる命令を発したところ、原告がこれを拒否したため、同年8月17日付けで就業規則違反を理由として解雇したものである。これに対し原告は、所属する電算企画室は配転と退職によって2名が削減され、人手不足になっているほか、原告は近く結婚することが決まっており、婚約者が神戸市で勤務を続けることとしていることから、本件配転命令に従えば結婚直後から別居を余儀なくされるとして本件配転命令を拒否した。被告はこの配転拒否を理由として解雇したため、原告は無効であるとして、従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求めて仮処分の申請をした。
仮処分判決では、造船不況と航空機部門の需要の増加からみて、従業員を配転させることは合理性があるとしながらも、原告のキャリアからみて航空機事業部の需要を満たすとは思えないこと、原告は技術職で幹部候補要員でないから、全国転勤が当然に予定されてはおらず、個人の事情を考慮されるべき立場にあったこと、原告は近く結婚式を控え、本件配転に応じれば結婚直後から別居を余儀なくされることから、本件配転命令は相当性を欠き効力を生じないとして、配転命令違反を理由とした本件解雇を無効と判断した。しかし仮処分控訴審では、原告の申請を却下する旨の判決が出され、この判決は確定したため、被告は、仮処分第1審判決に従って支払った仮払金及び遅延損害金の支払いを求めて反訴を提起した。 - 主文
- 1 原告の本訴請求を棄却する。
2 原告は被告に対し、金605万0664円及び別紙仮払金明細書記載の各金員に対する各仮払日の翌日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は本訴、反訴とも原告の負担とする。
4 この判決は第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 労働者の職務内容及び勤務場所は労働契約の内容をなすものであるから、当該労働契約で合意した範囲を超えてこれを一方的に変更することはできないが、労働契約における合意の範囲内と認められる限り、個別的、具体的な同意がなくても配転を命じ得るというべきである。原告は技術職として被告に雇用され、電算オペレーターとして勤務してきたが、原告が採用されてから5年間に高校卒事務職及び技術職の約3名に1名は配転されていること、原告は入社の際就業規則に従い誠実に勤務する旨記載された労働契約書に署名押印して被告に提出したこと、同規則には会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることがある旨記載されていること等を併せ考えると、原告は労働契約において、勤務場所の指定変更について会社に委ねる旨の合意をしたものというべく、被告は原告の個別的同意がなくても勤務場所の変更を命じることができるものというべきである。被告は原告に対し個別的同意がなくても配転を命じることができるが、住居の移動を伴う配転は労働者の生活関係に少なからぬ影響を及ぼすから、当該配転命令につき業務上の必要が存しない場合、または業務上の必要が存する場合であっても、当該命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、もしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情のある場合には、人事権の濫用として配転命令が無効となる。
造船市場における需給の大幅な不均衡は将来長期にわたって継続することが予想されたため、被告は余剰人員を調整するとともに、造船部門から航空機事業部など重点戦略部門への傾斜配置等を行うこととし、その一環としてプログラマーとしての経験知識は不足しているものの、入社以来電算業務に従事し、プログラミングの担当を希望し、若手の独身で比較的身軽である原告を本件配転の対象とすることは妥当性を欠くものとはいえないから、本件配転の業務上の必要性は充分肯認することができる。
原告は、昭和54年5月、川崎重工業健康保険組合に勤務する女性と婚約し、同年11月に挙式を予定し、結婚後は神戸市で共働きすることとし、郷里の母親を引き取って扶養する計画を立てていることを理由に配転内示を断ったものであるが、被告はそれは配転拒否の正当な理由にならないと考え原告に再考を促すとともに、岐阜での共働きが可能となるよう岐阜の関連会社に婚約者を受け入れる旨の承諾を取り付け、配転に応じるよう説得を続けたが、原告の考えが変わらないまま本件配転命令に至ったことが認められる。なお当時原告の母親は58歳で健康であり、兄もいることから、差し迫って原告が扶養することが必要な状況にはなかった。これらの事実によれば、母親の扶養が必要になるとしても、それは将来のことであって、本件配転の障害になるとは考え難いし、結婚後の共働きについても、これを可能にするため、被告は婚約者の就職の斡旋等特別な配慮をしているので、これによって原告の本件配転による生活上の不利益は相当部分が解消されたものということができる。もっとも、婚約者が就職斡旋に応じなければ、原告は新婚当初から別居を余儀なくされることになるが、この程度の生活上の不利益は、原告の職種や採用された経緯に照らして予測されないものではない上、原告と婚約者の選択の結果であるから、原告において甘受すべきものというべきである。したがって、本件配転による原告の不利益は、受忍限度を著しく超えるものとはいえない。そのほか、本件配転命令が人事権の濫用に当たるというべき特別の事情は認められない。
原告に対する被告の説得は、本件配転内示から本件解雇まで」続けられたが、この間原告は組合を介して神戸周辺ならば配転に応じる旨申し出たものの、本件配転については終始拒否し続け、課長に対し要求書を示して謝罪を要求し、誓約書に自分の指を切って血判した上、配転命令後も神戸工場に出社し続け、「電算企画課の皆さんへ」と題する文書及び組合委員長宛の「岐阜工場への転勤取り止め、支援お願い書」を配布するなどしたことから、被告は原告を解雇することもやむを得ないと判断し、同年8月17日原告を通常解雇した。このように、被告が3ヶ月にわたって社宅の提供や婚約者の就職斡旋などをして辛抱強く説得に努めた経過に加え、本件配転が造船不況による大量の余剰人員の解消と、プロジェクトの発足に伴って生じた人員増強に対処するために計画実行された大量配転の一環をなすものであって、原告主張の理由によって配転命令を拒否することは、他の従業員に対し与える影響が大きく、ひいては右計画の円滑な遂行の妨げとなるものであることに鑑みると、本件解雇はやむを得ないものであり、解雇権の濫用には当たらないというべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事判例集42巻4号647頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
神戸地裁 − 昭和58年(ヨ)第683号 | 認容 | 1980年06月27日 |
神戸地裁 − 昭和58年(ワ)第850号、神戸地裁 − 昭和58年(ワ)第1404号 | 本訴棄却、反訴認容(控訴) | 1989年06月01日 |
大阪高裁 − 平成元年(ネ)第1347号 | 棄却(上告) | 1991年08月09日 |