判例データベース
K社配転拒否控訴事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- K社配転拒否控訴事件
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成元年(ネ)第1347号
- 当事者
- 控訴人(原告・反訴被告) 個人1名
被控訴人(被告・反訴原告) 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1991年08月09日
- 判決決定区分
- 棄却(上告)
- 事件の概要
- 被控訴人の従業員である控訴人は、造船不況に対処するための造船部門から他部門への大量配転の一環として、昭和53年6月神戸工場から岐阜工場の航空機事業部へ配転命令を受けた。しかし控訴人は、配転の必要性がないこと、対象者の人選に合理性がないこと、結婚を間近に控え、配転命令に従えば新婚当初から別居を余儀なくされること等の理由を挙げて本件配転命令を拒否したところ、同年8月17日に就業規則に基づき解雇された。控訴人は本件解雇は解雇権の濫用であるとして、従業員としての地位確認と賃金の支払を求める仮処分の申請をしたところ、第1審では控訴人(債権者)の要求通り、控訴人の地位の確認と賃金の支払が認められた。しかし仮処分の第2審では控訴人の主張が退けられ、本訴第1審においても、本件配転命令は合理性があり、これを拒否したことを理由として解雇したことは解雇権の濫用に当たらず有効であると判断された。また、被控訴人(被告)による仮処分命令に基づく仮払金の支払を求める反訴が認められ、控訴人に仮払金の返還を命じたことから、控訴人はその取消しを求めて控訴したものである。
- 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 当審で拡張された控訴人の本訴請求を棄却する。
3 被控訴任の反訴請求の減縮により、原判決主文第2項を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、605万0664円及びこれに対する昭和58年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- いわゆるローテーション配転とは異なる合理化配転の場合でも、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができると解すべきであり、当該転勤命令につき業務上の必要性がない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、若しくは労働者に対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるべきものであるとき等特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転命令は権利の濫用となるものではないと解すべきである。控訴人は、経営上の都合による合理化配転の場合は、組合との協議を前提とし、個人の意思を尊重するという慣行が存在し、「個人の意思を尊重する」ということは「本人の同意を要する」という意味に解すべきであるから、本件配転は人事権の濫用として無効であると主張するが、配転する業務上の必要性があり、かつ配転を命じられた本人においてこれを受忍すべき事情のあるときは、本人の同意を必要とするものではないと認めるのが相当である。
控訴人は、互いに往来するのが困難な遠隔地に配転されることは、控訴人にも婚約者にも過酷な苦痛を与えるものであり、新婚当初から別居を余儀なくされることの苦痛と犠牲は大なるものがあると主張する。確かに、控訴人が岐阜に赴任すれば、婚約期間中の交際に不便を来すことは避けられないが、神戸と岐阜はその距離や交通事情から見て、それほど往来困難な遠隔地でないことは公知の事実であり、この程度の不便をもって、控訴人及びその婚約者に過酷な苦痛を与えるものとはいえない。また結婚後のことについては、被控訴人において、社宅の提供や、婚約者の就職斡旋などの配慮をして、控訴人らが新婚当初から別居生活をしなくて済むように、世間一般の新婚夫婦の実情からすれば、むしろ恵まれた条件を与えられていたともいえるのである。もとより、婚約者が結婚後神戸に止まるか、控訴人と一緒に岐阜に行くかは同女の自由であり、そのいずれをとった場合でも、控訴人が従前通り勤務する場合に比べれば、控訴人にとっては不利益とはなるが、控訴人は被控訴人に雇用されるに際し、その勤務場所の指定変更について被控訴人に委ねる合意をしたことや、被控訴人の業務上の必要性等の諸事情を総合して考えれば、本件配転によって被る控訴人の不利益は、受忍すべき限度内のものというべきである。
以上の通り、本件配転については、業務上の必要性が存し、控訴人を配転予定者とした人選に不合理な点はなく、他の不当な動機・目的をもってなされたものとも認められず、控訴人が被る不利益も通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないので、これを人事権の濫用として無効とすることはできない。
控訴人は、仮に本件配転命令が有効であるとしても、被控訴人の主張する業務上の必要性が具体性、緊急性に乏しいこと、控訴人の被る不利益が無視できないものであること、控訴人に対する被控訴人の説得が威圧的で、しかも虚言を弄してまでなされた上、控訴人の努力を全く考慮しなかったこと等から、本件解雇は行き過ぎであり、解雇権の濫用として無効であると主張する。しかし、本件配転については業務上の必要が存し、控訴人が被る不利益も通常甘受すべき程度を著しく超えるとは認められず、被控訴人担当者の説得は穏当なものと認められ、被控訴人が控訴人に対し、威圧的で虚言を弄するなど、不当な方法で説得を行った事実はない。また、控訴人が神戸周辺の配転なら応ずる旨の申し出をしたとしても、あくまでも自己の都合に固執し、本件配転を拒否する態度に変わりはないから、被控訴人がその申し出を受け入れなかったからといって、これを非難することはできない。
控訴人と同様、造船不況等の緊急対策による配転の対象となった多数の従業員は、病気等特別の事情のあるものは別として、被控訴人の造船部門が直面する厳しい情勢を認識し、自己の持ち家を処分し、子供を転校、転園させるなど、それぞれ個人的に大きな不便を忍びつつ配転に協力したこと、控訴人から苦情処理の申し立てを受けた組合では、控訴人程度の事情ではむしろ配転に応ずるべきであるとの判断のもとに、控訴人に対し配転に協力するよう説得した事実が認められる。そして、これらの事実に前記認定の諸事情に照らして考えれば、本件解雇が解雇権の濫用であるとは到底認められない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事判例集42巻4号625頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
神戸地裁 − 昭和58年(ヨ)第683号 | 認容 | 1980年06月27日 |
神戸地裁 − 昭和58年(ワ)第850号、神戸地裁 − 昭和58年(ワ)第1404号 | 本訴棄却、反訴認容(控訴) | 1989年06月01日 |
大阪高裁 − 平成元年(ネ)第1347号 | 棄却(上告) | 1991年08月09日 |