判例データベース
K社配転拒否懲戒解雇事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- K社配転拒否懲戒解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成6年(ワ)第13352号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年01月27日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、経営が悪化したため、平成5年頃に入るとパートタイマー、準社員の整理を始め、女性経理課員であった原告がかつて退職の意思表示をしたことがあったことから退職の勧告を行ったが、原告はこれを拒否した。
被告は、経営合理化のため、配送センターを本社・玉川工場に統合することとし、退職する同工場経理課のパートタイマーの後任として、同じ経理業務を行っていた原告を当てることとして、平成5年2月16日、配転の打診をしたところ、原告は通勤が困難になることを理由にこれを拒否した。しかし被告は方針を変えず、同月24日原告に対し正式に配転を命じ、配転命令を交付しようとしたが、原告は受領を拒否した。その後原告に対する説得が続けられたが、原告はこれに応じず出勤を拒否したため、被告は同年4月15日、配転命令違反を理由に原告を懲戒解雇した。これに対し原告は、本件配転命令は人事権の濫用として無効であり、その配転命令を拒否したことを理由とした本件懲戒解雇も無効であるとして、雇用関係の存在確認及び賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 被告の就業規則には、業務上の必要がある場合は、従業員に対し就業場所の変更を命ずることがある旨の規定があり、原告が入社するに際し、勤務地を渋谷区に所在する営業本部に限定する旨の合意がなされたことを窺わせる証拠はないから、被告は個別的合意なしに原告の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限があるもとのいうべきである。そして、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情の存する場合は、当該転勤命令は権利の濫用になると解すべきである。
被告は、経費削減の一環として人員整理の方策を採ることとし、パートタイマーは例外なく退職させる方針の下に本社・玉川工場経理課のパートタイマーを退職させた。ところが配送センターの統合等により本社・玉川工場の業務量が増大すると予想されたため、経理業務を行っていた原告をその後任に配転するのが合理的と考えたというのであり、これらの事情からすれば、本件配転には業務上の必要性が認められる。更に原告の住居から本社・玉川工場に通勤するには、片道2時間を超える通勤時間を要するというのであり、独身女性である原告が漸く入居できた賃貸の公団住宅で老後も安定した生活を続けていきたいと強く望んでいることも、心情として理解できないわけではないが、首都圏における通勤事情に鑑みれば、片道2時間を超えるといってもあながち通勤が不可能であるとはいえないし、通勤時間を短縮するために転居することが不可能な事情があるとも認め難い。そうすると、結局、以上のような事情があるからといって、本件配転命令が原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとまではいうことができない。以上のとおり、本件配転命令について権利の濫用と解すべき特段の事情は認められないから、これを無効とする原告の主張は採用できない。
原告は、本件配転命令を拒否して平成5年4月1日以降も本社・玉川工場に出社しなかったものであるから、就業規則に定める業務上の指揮命令に従う義務に違反するものである。もっとも、被告において本件配転の必要性等について十分な説明を尽くしたといえるか疑問なしとしないし、原告が通勤困難等を訴えているのに、通勤の緩和策を考慮したり、若干の猶予期間を設けるなど、本件配転命令を受け入れ易くするための具体的な措置や配慮をすることもなく、半月後の4月15日に本件懲戒解雇に及んだことは、やや短兵急に過ぎるのではないかとの批判は免れない。しかし、原告は3月半ば以降被告代表者を始め上司との対話を拒否する態度をとってきたのであり、組合や弁護士との交渉においても、双方の主張が真っ向から対立して歩み寄りが見られなかったことなどからすれば、その責めを専ら被告に帰することは酷というほかない。また被告の就業規則には、懲戒解雇事由の一として、「無届欠勤14日以上に及んだとき」との規定もある。そうであれば、このような事情があるからといって、本件懲戒解雇をもって解雇権の濫用とまでいうことはできない。よって、原告の本件懲戒解雇の無効の主張もまた採用し難い。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 平成10年版労働関係判例命令要旨集231頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成6年(ワ)第13352号 | 棄却(控訴) | 1997年01月27日 |
東京高裁 | 一部認容・一部棄却 | 2000年11月29日 |