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T大学O病院配転拒否事件

事件の分類
配置転換
事件名
T大学O病院配転拒否事件
事件番号
東京地裁 − 平成7年(ワ)第17637号
当事者
原告 個人2名A、B
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年09月21日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、医学部、薬学部及び理学部からなる東邦大学のほか、高校、中学等を経営する学校法人である。原告Aは昭和42年9月に被告に看護婦として採用され、看護婦長、副看護部長を経て、平成3年7月1日付けで看護部長代行を命じられた女性であり、原告Bは昭和44年8月に被告に看護婦として採用され、他のクリニックでの勤務を経て、昭和52年7月に再び被告に看護婦として雇用され、看護婦長を経て平成3年6月1日付けで副看護部長に昇任した女性であって、いずれも一貫して大橋病院で勤務していた。

 平成5年9月27日、原告らは看護部長との軋轢等から、院長に対し、副看護部長辞任願いを提出した。大橋病院では副部長辞任を許可しない旨命令書を交付しようとしたが、原告らはこの受領を拒否したため、被告は就業規則を適用して、原告らを婦長職に降格する懲戒処分を発令するとともに自宅待機を命じた。その後被告は、大森病院、佐倉病院に対し、原告らの受入れを再三要請したが、両病院から強く拒否されたため、原告らに対し、看護婦募集業務等を所掌する看護問題対策室への異動を打診した。原告らはこの打診を拒否したが、被告は原告らの自宅待機期間が6ヶ月の長期に及んだため、平成6年5月10日、原告らに対し同対策室への配転を命じた。
 これに対し原告らは、いずれも職種は看護婦、就労場所は大橋病院看護部と限定して被告に雇用されたところ、看護問題対策室における業務は看護婦業務と全く関係ないものであり、本件配転は労働契約違反で無効であること、本件配転は原告らを看護婦業務とは全く関係ない業務に従事させることによって辞職に追い込むために行われたものであって、業務上の必要性、人選の合理性を欠くから、権利の濫用に当たるとして、大橋病院において看護婦として就労する権利を有することの確認と、100万円の慰謝料を請求した。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
 原告らはいずれも看護婦として採用され、大橋病院勤務を命じられていること、雇用されて以来、大橋病院において看護婦としての業務に従事してきたこと、被告医学部三病院(大橋病院、大森病院、佐倉病院)間ではこれまで看護婦の配置転換が行われてきたこと、被告の就業規則に職種に関する規定、配置転換に関する規定が存することなどからすると、原告らは、被告と雇用契約を締結する際、原告らの職種を看護婦に限定し、原告らの承諾がない限り、そのほかの業務に従事する義務を負わないとする合意があったと解するのが相当であるが、就労場所を大橋病院とする合意まであったと解することはできない。 

 看護婦業務といっても、看護婦長職以上では、看護婦本来の業務に直接従事するだけでなく、看護婦としての技能を生かして人事・労務管理的業務、研究業務に関与することも求められ、これらも看護婦としての業務の一部であったということができ、特に副看護部長職では、看護婦の募集業務に関するものも含まれている。一方看護問題対策室は、看護婦の募集業務及び看護婦の離職防止業務を担当する部署であり、事務職員によって事務的業務は処理されていたが、各地の看護学校等を訪問して、看護婦の応募勧誘業務を行う際は、副看護部長、婦長等看護婦職にある者も同行していたことからすれば、同対策室における看護婦募集業務には看護婦の有する専門的知識も必要とされていたことは明らかである。そうすると、原告らが担当すべき業務が看護婦業務と必ずしも異なる職種であるということはできない。

 原告らの副看護部長辞任願いは、看護部内の職階の秩序を乱すことになりかねないばかりか、公に看護部長に対する批判的態度を表明するものと受け取られるのは明らかで、右行動が看護部内に混乱を招来することになることも容易に推測できたというべきであり、不適切であったことは否定できず、被告の原告らの取扱いに苦慮した様子からしても、被告及び大橋病院内に動揺があったことが推認できる。そうした状況からすると、本件降格処分に伴って、被告が業務の混乱、支障を避けるために、原告らに自宅待機を命じたのもやむを得ない措置であったというべきである。またその後も大橋病院においては、看護部長、副看護部長等部内の構成にも大きな変化はなかったことから、原告らが大橋病院において勤務を継続した場合、業務上再び支障を生じることになるのも容易に推測できるのであって、被告が原告らを配置転換するしかないと判断したとしても、やむを得なかったというべきであり、大森病院、佐倉病院が原告らの受入れを強く拒否したことから、被告としては、本件配転はいわば苦肉の策であったということができる。

 本件配転後の原告らの担当業務は、副看護部長当時に担当していた業務の一部に過ぎず、そのために原告らが苦痛を受けることは否定できないし、従来事務職員のみが配置されていた看護問題対策室に、看護婦不足の状況の中で2名もの経験豊富な看護婦を配置しなければなかったかについて疑問がないわけではない。しかし同対策室は、設置の当初から将来的には看護婦職の者の配置を予定しており、平成5年3月にも看護部長であった者を配置しようとした経緯があること等からすると、同対策室に専従の看護婦職の者を配置し、看護婦募集業務等をより充実、効率化できることも否定できず、原告らを右業務に従事させることは適切であったということもできる。更に本件配転については、原告らに給与の減額等経済的不利益はなかった。
 これらの事情に照らせば、職務内容の変更の程度、それによって原告らが苦痛を受けることは否定できないとしても、原告らの大橋病院における勤務の継続が困難であり、大森病院、佐倉病院への異動も不可能であったこと、患者に接するという看護婦業務の性質からして、看護婦間の人間関係に問題があることや指揮命令が円滑になされないことは業務に対し大きな弊害となると考えられること及び被告が看護問題対策室の業務をより強力に推進しようとしていたことなどから、被告の業務上の必要性は極めて高かったというべきであるし、原告らが病院で婦長として勤務することが困難であった上、看護婦として豊富な経験を有し、看護婦募集業務に関与した経験も有していたことから、人選についても一応の合理性が認められるということができるのであって、更に原告らに特段の経済的不利益もなかったことを併せて考慮すれば、本件配転は権利の濫用に当たるということまではできない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例753号53頁
その他特記事項