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O社配転拒否事件

事件の分類
配置転換
事件名
O社配転拒否事件
事件番号
福岡地裁小倉支部 − 平成15年(ワ)第910号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
卸売・小売業・飲食店
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年11月04日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告は自動車タイヤの輸入販売を行う会社であり、原告は被告において、ホームページの管理、注文や問合わせについてのメール対応等主としてパソコンを使用する事務作業を担当していた女性である。

 被告の代表取締役Aは、平成15年2月26日、原告と電話の対応等を巡って口論となり、原告を解雇すると告げたところ、原告はこれに納得せず組合に加入し、仮処分申立てをするなどして当該解雇の効力を争い、結局被告は当該解雇を撤回するに至った。これにより原告は同年8月1日から復職したが、担当業務は従来の事務作業と異なり、タイヤ梱包場においてタイヤを転がして移動させ、シールを上にして並べるという、被告においてこれまで女性が行ったことのない肉体労働であった。また被告は原告が使用する机と椅子をタイヤ梱包場に設置し、原告が事務所に入ることを拒んだ。
 原告は、本件配置転換命令はAとの口論を契機に解雇され復職した原告に対する報復であり、業務上の必要性・合理性がなく無効であるとして、タイヤ梱包作業等に関する業務に従事すべき労働契約上の義務を負わない地位にあることの確認を求めるとともに、本件配置転換命令、不当な動機・目的をもって原告の机と椅子をタイヤ梱包場に移動させたこと、事務室への立入りを禁止したこと等によって精神的損害を受けたとして、被告に対し不法行為に基づく慰謝料等を請求した。
主文
判決要旨
 原告は、当初、タイヤを転がして移動させ並べる作業も命じられていたのであり、原告が命じられた本件業務の内容は、シールを貼る作業などの補助的業務のみに止まるものではなく、肉体的労働も含む趣旨であったと解される。原告の使用者である被告は、原告に配置転換を命じることができるが、無制約にできるものではなく、当該配置転換を命じる業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配置転換が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情が存する場合は、当該配置転換は権利の濫用に当たるというべきである。

 被告は、本件配置転換の理由として、原告の電話応対の不手際を挙げるが、主として電話応対を担当していたのは商品知識を多く有する男性従業員であり、主としてパソコンを使用した作業に従事していた原告について電話応対の不手際を理由とする配置転換の必要性は、そもそも乏しいところである。もちろん事務室内で勤務する以上、原告も電話応対が求められていたが、原告が殊更に電話を取ることを怠っていたともその応対に問題があったとも認められない。また商品知識に乏しいのは原告のみではなく、必要があれば社員教育の一環として研修等を行うべきであって、たとえ原告が電話応対の際に的確に対応できず男性従業員に電話の交代を依頼することがあったとしても、その点をもって直ちに原告に事務室での勤務に支障があったと見ることもできない。したがって、原告の電話の応対に、原告を事務室勤務から他の部署への配置転換を命じることを正当なものとして是認し得るだけの問題点があったとは認められず、業務上の必要性を見出すことはできない。

 また、被告は、本件配置転換の理由として、他の従業員が原告と一緒に仕事をするのを嫌がったことを挙げるが、タイヤの梱包作業や積降ろし作業も他の従業員と連携を求められる点では同じであって、原告と同じ職場で勤務することを快く思っていなかった従業員がいたことを理由として本件配置転換を命じる業務上の必要性があったというのは困難である。更に、出入荷するタイヤの本数が増加し、外作業に従事する人員の充実を図る必要性は否定できないところであったが、タイヤの梱包作業や積み降ろし作業は体力を要する作業であり、やはり女性である原告には困難な面があることは否めず、実際に本件配置転換がなされるまでは、女性従業員がタイヤの搬入や出荷のための現場での外作業に従事したことはなく、原告も本件配置転換を命じられるまでは外作業には従事したことがなかったのであって、増加した外作業に従事させるための人員として原告を選択することの合理性を見出すことはできず、この点においても、業務上の必要性を肯定することは困難である。

 被告は、原告の復職後、タイヤ梱包場に原告の机と椅子を設置し、そこで執務させていたが、その必要性、合理性はおよそ見当たらないところである。また、被告は事務室出入口に近い男性用トイレを男女共用とし、事務室内に設置されていたタイムレコーダーや女性用ロッカーは、原告が復職した際には事務室外に移転されていたが、これら一連の措置は被告が原告を事務室に立ち入らせないために講じた措置と考えるのが自然であることに照らせば、被告は原告が事務室に立ち入ることを禁じるよう指示していたことが認められるところ、原告の事務室への立入りを禁じる理由はおよそ見当たらないところである。

 原告に本件配置転換を命じる業務上の必要性は乏しく、復職した原告にこれまで女性が担当したこともないタイヤを集積場所に転がして行き並べる作業等を命じることには何らかの意図を感じるところであるし、業務上の必要性から本件配置転換を命じたに過ぎないのであれば、原告のみタイヤ梱包場に使用する机と椅子を設置したり、原告の事務所への立入りを禁じるよう指示する必要性はおよそなかったのであるから、業務上の必要性以外の理由によって本件配置転換を命じたことが強く疑われるのであって、結局、解雇撤回に至る一連の経過を加味して考慮すれば、被告としては原告を復職させざるを得ないとしても、原告に対する嫌悪感は収まらず、できるだけ原告を事務室から遠ざけるため、また原告にとって不本意な仕事を与え、あわよくば孤立感を感じた原告に自主退職を余儀なくさせることも意図して、本件配置転換を命じたというべきであり、上記のような不当な動機・目的を持ってなされた本件配置転換命令は権利の濫用として無効というべきである。
 不当な動機・目的をもって本件配置転換を行い、それと共に、原告が使用する机や椅子をタイヤ梱包場に設置したり、理由なく事務室への立入りを禁じた被告の行為は、使用者である被告に認められた指示命令権の範囲を超え、その動機・目的や行為態様等に鑑みると、社会的に許容された範囲を逸脱する行為として、不法行為を構成するというべきである。そして、被告は本件解雇を撤回しておきながら不当な動機・目的を持って本件配置転換を行い、一人タイヤ梱包場に机と椅子を設置されるなどした原告は少なからず屈辱感等を感じたであろうことなど、本件に現われた一切の事情を総合考慮すれば、被告の上記不法行為のために原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額として50万円を認めるのが相当であり、更に弁護士費用相当の損害として、5万円を認めることができる。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
平成17年版労働関係判例命令要旨集238頁
その他特記事項