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K社女子従業員賃金差別事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
K社女子従業員賃金差別事件
事件番号
京都地裁 - 平成10年(ワ)第1092号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年09月20日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、ガス配管工事請負並びにこれに関連する器具の販売・設置等を業とする会社であり、従業員は現業員(工事士)約60名、職員約30名(うち女性7名)である。一方、原告は昭和56年に大学を卒業後被告に入社した女性である。
 原告は、採用当初総務部管理課に配属され、昭和61年6月から建設部に配転されて、同部の精算及び積算業務に従事し、平成10年4月に係長に昇進した。原告の給与は「基本給」と「各種手当」からなり、夏・冬には賞与が支払われていたが、賞与について査定は行われていなかった。原告は、基本給及び賞与を同期入社の男性Aと比較すると、両者間には平成2年4月から平成13年3月までの間に1393万1815円の賃金格差が生じているが、これは原告が女性であることを理由とする差別によるものであり、憲法14条及び労働基準法4条に違反し、かつ男女平等原則に違反するから民法90条に違反して不法行為を構成すること、同一価値労働同一賃金原則にも違反し、ILO条約、国連女性差別撤廃条約等にも違反すること等を主張し、差別賃金相当額の支払いを請求するとともに、慰謝料500万円及び弁護士費用180万円の支払いを請求した。これに対し被告は、本件賃金格差は原告が女性であることを理由とする差別によるものではないと主張して争った。
主文
1 被告は、原告に対し、670万円及びこれに対する平成13年3月31日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し、その2を原告の、その余は被告の各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 平成2年4月から平成13年3月までのAの給与総額は5431万6630円であり、原告のそれは4046万9415円であって、その差額は1384万7215円であり、本件賃金格差が存在すると評価できる。

 原告の建設部で担当する職務内容は、概ね(1)積算業務、(2)検収(精算)業務、(3)大阪ガスとの連絡・折衝、(4)その他の業務に分かれ、原告は、いずれもそれらの処理に関し、その知識と理解等に基づいて重要な役割を果たしていると認めることができる。一方Aの職務内容は、施工前業務、行程管理、現場間の移動、各種書類の作成、会議への出席、資格取得の指導、大阪ガスのパトロールへの随行・立会い等であり、原告とAの各職務の困難さにつき、知識・技能、責任、精神的な負担と疲労度を主な比較項目として検討すると、その困難さにさほどの差はないもの、すなわち、その各職務の価値に格別の差はないものと認めるのが相当である。

 被告の就業規則には、事務職と監督職は同じ事務職員に含まれており、男性社員は一定の社内経験後、監督見習いとなり、その後試験に合格すれば監督となることができるものであるところ、Aもこの方法で監督職となった。一方女性である原告は、本人の意欲や能力に関わりなく監督になることができる状況にはなかった。以上を前提に、本件賃金格差は原告が女性であることを理由とする差別によるものであるかどうかについて検討すると、(1)原告とAは同期入社であり、年齢もほぼ同じであること、(2)被告の就業規則には事務職と監督職も同じ事務職員に含まれていること、(3)男性社員のみ監督職となることができ、女性社員は意欲や能力に関わりなく監督職になれる状況にはなかったこと、(4)原告とAの各職務の価値に格別の差はないものと認めるのが相当であることからすると、本件賃金格差は、原告が女性であることを理由とする差別によるものと認めるのが相当である。そうすると、本件賃金格差は、労働基準法4条に違反して違法であり、被告は原告に対し、民法709条に基づき、生じた損害を支払う義務がある。
 原告とAの各職務の価値に格別の差はないものと認めるのが相当ではあるが、賃金の決定要素はそれだけではなく、その個人の能力、勤務成績等諸般の事情も大きく考慮されるものであるところ、その点の両名に関する事情が十分に明らかにされているとはいえないので、その損害を控えめに算出すると、差別がなければ原告に支払われたはずの賃金額は、Aの給与総額の8割5分に相当する4610万円と認めるのが相当である。以上からすると、賃金額に関して原告に生じた損害は、4610万円と原告に支払われた4050万円の差額560万円を下らないものと解し、慰謝料については、原告は長年に亘って賃金差別を受けていたと認められることのほか、本件に現れた一切の事情を考慮すると、50万円が相当と認められ、弁護士費用については、本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すると、60万円を相当と認める。
適用法規・条文
民法709条、労働基準法4条
収録文献(出典)
その他特記事項
本件は被告が控訴したが、2005年12月8日、被告が原告に対し、800万円を支払うことで和解した。