判例データベース
F郵便局臨時雇雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- F郵便局臨時雇雇止め事件
- 事件番号
- 福井地裁 − 昭和54年(ワ)第187号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 国 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1984年12月21日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告(昭和26年8月生)は、昭和46年11月6日から、F郵便局に臨時雇として雇用された男性である。郵便局における臨時雇は任期を1日とする雇用であり、予め2ヶ月以内の期間で日々雇用が自動更新され、期間満了によって当然にその地位を失うという雇用形態であったが、採用の際の説明では予定雇用期間の意味等について詳しい説明はなされなかった。
予定雇用期間が満了した臨時雇を再任用する場合には、通達等により少なくとも3日間以上の中断期間を置かなければならないとされていたが、福井局では中断期間は昭和47年1月の1回だけであり、同月からの約6ヶ月間は通達の趣旨に沿う中断期間なしに任命が反復継続していた。職場内には原告のように長期間臨時雇として働いている者に対しては、本務者になるであろうという見方をする本務者があり、原告も本務者になることを期待していた。郵政省では非常勤職員の常勤化を好ましくないとしており、福井局でも臨時雇の雇用が長期化すると、本務者を期待することが考えられることから、臨時雇の雇用は4ヶ月以内が適当と考え、原告については昭和47年5月の任用を最後にし、以後原告を再任用しないものと考えていたが、集配課長らは、本件雇止め通告に至るまで原告に対し何らの告知もしなかった。
こうした中、同年6月29日、福井局は原告に対し同年7月1日をもって雇用期間が満了する旨通告した。これに対し原告は、雇用の実情からみて原告の雇用上の地位は期間の定めのないものというべきであり、仮に期間の定めがあるとしても、原告がその更新を期待することが法的に保護されるべき地位にあるとして、労基法の手続き違反による無効を主張した。また、本件雇止めは、社会党に出入りし、政治活動、組合活動に大きな関心を持っていた原告の思想、信条を嫌悪した差別的取扱いであるから、憲法14条、19条、労基法3条に反し無効であると主張し、労働契約上の権利若しくは職員としての地位の確認と、1年間の賃金300万円、精神的損害に対する慰謝料300万円、弁護士費用60万円のところ、300万円の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の主位的請求を棄却する。
2 被告は、原告に対し、金10万円及びこれに対する昭和47年6月29日以降支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 - 判決要旨
- 郵便事業に従事する職員は、一般職に属する国家公務員たる身分を有するところ、労働関係については、一部労組法、労基法等の適用があるものの、その任免、分限、懲戒、身分保障、服務関係等については国公法の適用が除外されていないから、本件臨時雇を含む現業国家公務員の基本的な勤務関係については公法関係とみるのが相当である。原告は、解雇予告のないことや本件雇止めが思想信条による差別であり、信義則にも反し無効である旨主張するが、右のとおり原告の雇用関係は公法関係であって、その任免に関して私法関係たる労基法の法理が適用される余地はないものというべきである。また原告は、その雇用を期間の定めのないものとみるべきである旨主張するが、臨時雇は任期のある雇用形態であり、任期の定めのない臨時雇は存在し得ないのであって、臨時雇の任用が長期にわたっても任用形態が変化する理由はない。そうすると、昭和47年7月1日以降新たな任用がない以上、原告は被告に対し、何らの労働契約上の権利も有しないし、被告の職員たる地位にもないというべきである。
郵便局における臨時雇は極めて不安定な地位の職員であるから、郵便局としては、その任用に際してはその地位につき誤解のないように説明し、採用を申し出た者にあらぬ期待を持たせ、その結果その者が他の就職の機会を放棄するなどによって不測の損害を被ることのないように十分注意し、任用後もこのような点に留意して人事管理をすべき義務があるというべきである。これを本件についてみると、原告が、自己の雇用が当分の間継続するであろうと考えるに至ったのは、必ずしも原告自身の勝手な希望というのではなく、福井局の原告に対する当初からの取扱いに対する信頼に基づくものであって、相応の理由があるものと認められ、福井局の原告に対する取扱いは、右のような臨時雇を任用する郵便局としての義務を尽くしていたとは認められない。すなわち福井局においては、原告を任用する際に、原告が本務者希望と知りながら、臨時雇の地位、とりわけ予定雇用期間の意味について原告に理解し得るような説明をせず、2ヶ月単位ではあるが最終的にいつまで雇用するか不明確にしたまま原告を任用し、原告の意思の確認もなく当然のように数回の任用を繰り返し、しかも通達等が要求する最低限の中断期間すら遵守することなく雇用を継続させている。その上、このような状況において、原告の本採用への希望を知る集配課長は、昭和47年5月頃には、同年7月以降は原告を再任用しないつもりでおり、客観的情勢もその見込みが高かったのに何らこれを原告に告げることもせず、その一方では同年6月に実施した臨時補充員選考の対象者に当然のように原告を加え、採用試験の心がまえを説明するなどをしていたのであって、到底前記のような義務を果たしたものとは認められない。そして、原告が自己の雇用の継続に信頼を持ったことに多少の落ち度はあるとしても、保護し得ない信頼を持たせるに至ったのは、むしろ福井局における原告の取扱いが前記義務に反し、不適切なものであったことに多く起因するものといわなければならない。
以上によれば、福井局は、原告に対する人事管理の面で、原告に前記のような信頼を抱かせた点につき、少なくとも過失があったものと認めるのが相当であり、本件雇止めによって原告に損害が発生したならば、不法行為により原告の利益が侵害されたものとして、損害賠償の対象となるものと認めるのが相当である。
原告は財産的損害を主張するが、労働契約上の権利若しくは地位自体が存しないから、これを損害の基礎とすることはできない。本件は、被告が原告に対し根拠のない信頼を与え、かつこれを雇止め通告により一方的に破壊した点に損害賠償責任の根拠があるから、原告の損害は精神的損害に留まるものと認めるのが相当である。
原告の任用の経緯、その後の勤務の状況、福井局の対応等の諸般の事情を勘案すると、原告は本件雇止めにより精神的苦痛を受けたものと認められ、本件に顕れた一切の事情を斟酌して、原告の右精神的苦痛は、金8万円をもって慰謝されるものと認める。また本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、金2万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 国家賠償法1条
- 収録文献(出典)
- 労働判例445号22頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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福井地裁 − 昭和54年(ワ)第187号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1984年12月21日 |
名古屋高裁金沢支部 − 昭和59年(ネ)第144号 | 控訴認容・附帯控訴棄却 | 1988年10月19日 |