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T音楽大学雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
T音楽大学雇止め事件
事件番号
東京地裁 − 昭和55年(ワ)第9181号
当事者
原告 個人2名A、B
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1985年02月28日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、T音楽大学音楽学部及び同大学附属高等学校の学校設置を目的とする学校法人であり、原告Aは昭和44年4月に、原告Bは昭和46年4月に、それぞれ被告大学のピアノ科助手として雇用された女性である。

 被告大学では、次第にピアノ科の学生が減少したことからその実技担当教員を削減することとし、被告は原告らを含めた6名のピアノ科非常勤教員につき、担当する学生数と出講回数が少ないとして、昭和54年4月からの再委嘱を行わなかった。
 これに対し原告らは、1年ごとの委嘱は形式だけのものであって実際には本件労働契約は期間の定めのないものであったこと、仮に本件労働契約が期限の定めのない契約とまで断定できないとしても、期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約に転化したもの、ないしは実質的に期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたものというべきであること、被告の本件雇止めの意思表示は、原告らの事情聴取も一切ないままに行われ、手続きの適正を著しく欠いたものであること、本件雇止めは学生数を偽って国の交付金を騙し取っていたことが発覚し入学者数を減らさざるを得なくなった結果を何ら落ち度のない原告らにしわ寄せしたものであることを挙げて、本件雇止めは権利の濫用であり、信義則にも反し無効であるとして、ピアの科助手としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
 被告が原告らに送付していた委嘱状の記載に照らせば、本件労働契約は当初から期間を4月1日から翌年の3月31日までの1年と限って締結され、これが原告Aについては10回、原告Bについては8回、それぞれ繰り返されたものというべきである。この点について原告らは、被告はその経営上多数の非常勤助手等を恒常的に必要としていたものであり、かつ原告らと被告とは本件労働契約が長期間継続するものと当初から認識していたものであるから、本件労働契約は当初から期間の定めのない契約として締結されたものであると主張するが、被告が多数の非常勤職員を必要としていたからといって被告が原告ら非常勤教員を継続して雇用する前提で雇い入れたものと断ずることはできない。

 原告らは、本件の如き短期の労働契約が反覆された場合、途中から期間の定めのない契約に転化したものと解すべきであると主張するが、契約締結当事者の別段の意思の合致を待たずしてかかる法理を認めることはできないといわなければならない。また原告らは、本件労働契約は反覆を重ねて実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたものであるから、その雇止めには解雇の法理が類推適用されるものと解すべきである旨主張するところ、なるほど短期労働契約が期間の満了毎に反覆更新され、その結果実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在しているものと認められる場合は、期間満了を理由とする更新拒絶は実質的に解雇に相当し、その適否の判断には解雇の法理が類推適用されるものと解するのが相当である。

 これを本件についてみると、ピアノの実技指導には教員1人が学生1人を担当せざるを得ず、しかも学生・生徒の数は年によって変動があり得るから、これに伴い教員の数も増減せざるを得ないとして、被告は非常勤職員を多数雇用してきた。被告の非常勤教員に対する取扱いによれば、ピアノ科非常勤教員は、あくまでもピアノの実技指導につき常勤教員の不足を補うため、一時的ないしは臨時的に雇用されるもので、常勤教員とはその労働契約の内容、性質等を全く異にしているものといわなければならない。そして、被告の非常勤教員に対する取扱い及びこれに対する原告らの対応等に照らすと、原告らは本件労働契約が右のような性質のものであることを十分に知り、又は知り得たものというべきである。加えて被告には原告らに対し、継続的雇用を期待させるような言動、取扱いをした形跡は窺われないから、原告らの継続的雇用に対する期待は、いわば主観的願望の域を出ないものといわなければならない。
 かかる事情を考慮すると、本件労働契約は実質的に期間の定めのないものとして存続していたとはいえず、本件雇止めについては解雇の法理を類推適用する余地はないものといわなければならない。そうすると、本件労働契約は、いずれも昭和54年3月31日の経過をもって期間満了により終了したものというべく、原告らは翌4月1日以降被告におけるピアノ科助手としての地位を喪失したものというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例449号53頁
その他特記事項