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H県衛生研究所日々雇用職員雇用止控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
H県衛生研究所日々雇用職員雇用止控訴事件
事件番号
大阪高裁 − 平成2年(行コ)第2号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 H県地方労働委員会
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1991年03月15日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 控訴人(第1審原告)は昭和49年4月にH県衛生研究所(衛研)の日々雇用職員として採用され、図書館に配置換えされた後、昭和53年3月末をもって雇止めとなった。控訴人は任用の更新が繰り返されることよって期限の定めのない任用に転化したから、本件雇止めは解雇と認められるところ、これは原告の組合活動を理由とする解雇であるから不当労働行為に該当するとして、被控訴人(第1審被告)に救済の申立てを行ったが、被控訴人がこれを棄却する命令を発したことから、この命令の取消しを求めて提訴した。
 第1審では、期限付き雇用の更新が繰り返されても期限の定めのない任用に転化することはないから、期限が終了して新たな任用がなされない限りは、当然に公務員としての地位を失うものであると判断し、本件の救済申立てについては、不当労働行為の成否を判断するまでもなく理由がないとして、控訴人の請求を棄却した。
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
判決要旨
 控訴人は、任期を1日とし、これが日々更新される日々雇用職員として衛研に採用されたものというべきであり、控訴人の行った試験管洗浄や図書の整理・管理の業務は恒常的ではあるけれども、時期によって繁閑があり、繁忙の時には日々雇用職員を採用する必要があるが、暇な時はその必要がないこと、衛研では昭和52年秋頃には業務が減少して日々雇用職員を雇用しておく必要がなくなったので、控訴人を雇用止めしたことが認められるから、控訴人が期限の定めのない一般職の職員として採用されたものとは到底認め難い。

 地方公務員については、人事院規則のような日々雇い入られる非常勤職員に関する明文の規定はないけれども、地方公共団体における職員の期限付き任用も、それを必要とする特段の事由が存し、かつ、それが職員の身分を保障し、職員をして安心して自己の職務に専念させる趣旨に反しない場合においては、期限を1日とする日々雇われる職員を任用することもできると解すべきである。そして、地方公共団体の職員の行う業務自体は恒常的なものであっても、それが一時的な外的要因で、ある期間に限り極めて多忙であるが、その業務遂行の特質と繁忙の一時性から、業務を遅滞なく遂行するために、期限の定めのない正規職員を任用するまでの必要はなく、特別の知識、技能、経験、習熟等を必要としない代替的業務を補助的に行わせる臨時職員を一時的に任用すれば足りるような場合には、正規職員を任用することなく、期間を1日とし、繁忙な期間中の更新を予定して日々雇用の職員を任用することも、法律上許されるものと解すべきである。けだしこのような場合には、期限付き職員を必要とする特段の事由があるといえるし、また日々雇用される者において、その任用に当たりその旨の説明を受け、日々雇用を了承して任用される以上は、身分保障を害することはないといえるし、更に特別の知識、技能、経験、習熟等を必要としない代替的業務を補助的に日々雇用される職員に行わせても、公務の民主的・能率的運営を阻害することにならないからである。

 これを本件についてみるに、衛研においては、昭和49年当時臨時的に業務が増えて多忙であり、正規職員では手不足であり日々雇用職員を任用する必要性があったこと、控訴人は任用されるに際し、日々雇用される職員として任用される旨の説明や、勤務条件についての詳細な説明を受け、これを了承して任用されたものであること、控訴人の業務は正規技能職員の補助的業務に過ぎなかったから、衛研が控訴人を日々雇用職員として任用したことは、違法ではないというべきである。

 控訴人は、正規職員と全く同様の業務をしており、かつ日々反復期限を更新して任用されたことにより、期限の定めのない一般職の職員に転化したと主張する。しかし、法律により雇用の要件が法定されていない一私企業の従業員を雇用する場合とは異なり、期限の定めのない一般職の地方公務員の任用は、地公法17条ないし21条に基づき競争試験又は選考による厳格な手続きに従ってこれを行うことを要するところ、兵庫県では期限の定めのない一般職の職員の任用については、法律の定めた手続きにより、県知事がその任命をするのに対し、日々雇用職員の任用は地方機関の長がその委任を受けた権限に基づき、競争試験又は選考による厳格な手続きによらずして任命するものであるし、また期限の定めのない一般職の職員とは服務規定や健康保険も異なるのである。したがって、期限の定めのない一般職の職員の任用行為と、日々雇用職員の任用行為とは、その性質を全く異にする別個の任用行為であり、服務規定や社会保険の適用その他勤務条件も全く異なるのであるから、法律上定められた競争試験又は選考により期限の定めのない一般職の職員に任用する旨の任命行為がない限り、控訴人がその職務に習熟し、衛研に如何に長期間に亘り更新されて継続的に雇用されてきたとしても、日々雇用の職員であるという身分の性質が、期限の定めのない一般職の職員の身分に転化するものではない。衛研所長が、控訴人に対し、昭和53年3月31日付けをもって行った雇用止めにする旨の通告は、任用を更新しない旨の通告と解されるから、控訴人は同日限り衛研の日々雇用職員である地位を失ったものというべきである。
 控訴人は、本件雇用止めは不当労働行為であると主張するが、日々雇用職員は、その任用権者から改めて任用する旨の更新の意思表示がなされない限り、その任用された日の終了により、当然日々雇用職員である身分を失うものと解すべきであり、また右任用権者には、再任用する旨の更新の意思表示をすべき義務はなく、右更新の表示をするか否かは、任用権者の事由裁量に委ねられているものと解すべきであるから、衛研所長の雇用止めの通告については、不当労働行為の成立する余地はないというべきである。
適用法規・条文
地方公務員法
収録文献(出典)
労働判例589号85頁
その他特記事項
本件は上告されたが、最高裁では原審の認定は正当として、上告を棄却した(最高裁平成3年(行ウ)140号、1991年12月3日判決)。