判例データベース
O大学図書館事務補佐員雇止控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- O大学図書館事務補佐員雇止控訴事件
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成2年(ネ)第2471号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 国 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1992年02月19日
- 判決決定区分
- 棄却(上告)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、昭和54年9月から4年半にわたり、O大学付属図書館で非常勤職員と勤務した後、昭和59年3月30日をもって被控訴人(第1審被告)から任用を打ち切られた。
これに対し控訴人は、本件非常勤職員としての任用は実質的に期限の定めのない任用であるから解雇の法理が類推適用されるところ、本件雇止めは解雇権の濫用により無効であるとして、非常勤職員としての地位の確認と慰謝料100万円の請求を行った。
第1審では、国公法上任期の定めのない非常勤職員は存在せず、任用の更新を繰り返したとしても期限の定めのない任用に転化することは法制上あり得ないとして、控訴人の請求をすべて棄却したことから、控訴人が控訴に及んだものである。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 控訴人が日々雇用職員として従事した業務内容は、単純な肉体労働ということはできないけれども、手引書に従い、時に先輩の助言を受けるならば容易に習熟できる程度のものであり、その遂行に専門的知識や経験を必要としない代替性の強い種類のものであるということができる。したがって、このような性質の業務に従事する控訴人を日々雇用の形態で任用したとしても、国公法の定める公務員の身分保障の趣旨に反するとはいえず、また公務の能率的運用を阻害する等国公法の趣旨に反するともいえない。要するに、控訴人を日々雇用職員として任用したことを違法ということはできない。
任命権者によって日々雇用の非常勤国家公務員として任用された職員につき、その任用を期限の定めのない非常勤国家公務員の任用と解する余地はない。なぜなら、国家公務員の任用は私法上の雇用契約とは異なる公法的規制に服する法律関係であり、その任用方法、服務規律、定員等につき国公法等により厳格に規制されており、能力の実証に基づいて任用されたわけではない控訴人につき常勤職員としての地位を与えることは許されず、また各法律等の規定からすれば、国公法は、任期の定めのない非常勤職員の存在はこれを許していないものと解されるからである、国家公務員の勤務関係は公法上の関係であって、その任用については国公法、人規その他の公法的規制下にあり、日々雇用職員としての任期の更新が継続されたことを理由として、控訴人の日々雇用職員としての任期が期限の定めのない非常勤職員としての任用に転化することを認めることは、結局、任用の要件、手続、効果等について、それぞれ法律によって定めている国公法等の規定の趣旨を潜脱する結果となるから、許されないものと解するのが相当である。
控訴人は、任用を更新しなかったことの当否を判断するについては、解雇に関する法理を類推適用すべきであると主張する。しかし、公法的規制を受ける国家公務員の任用関係の性質からすると、日々雇用の一般職国家公務員の地位は、任用期間満了により当然に消滅するものというほかなく、したがって、期間が満了した非常勤職員を再度採用するかどうかは任命権者の自由裁量に属し、解雇に関する法理を類推適用すべき余地はないものと解するのが相当である。
国家公務員の期限付き任用の性質からすると、控訴人の任用更新の期待は事実上のものに留まり、この期待に反して任用が更新されなかったからといって、直ちに期待権が違法に侵害されたものとは解されない。もっとも採用時の事情や任期を更新しなかった時点における具体的事情からして、日々雇用職員の任用が更新されなかったことにつき、それが全体的観点からして違法と評価され、その結果不法行為の成立をみることがあるという見地もあり得よう。被控訴人は控訴人を日々雇用職員として任用するに際し、控訴人に対し任用期間は最大限3年であり、それ以後は更新されないと告知したと供述するが、これを認める証拠はない一方、控訴人を日々雇用職員に任用するに際し、大学当局者が控訴人に対し任用は無制限に継続される旨告知したものと認めるに足りる証拠もない。当局から控訴人に毎年交付されていた人事異動通知書には任用予定期限は3月30日であり、以後更新しない旨が明示され、その都度退職手当も受領していたのであるから、控訴人は、その学歴、職歴に照らし、平常から自己の法律上の身分がおよそどのようなものであるかを認識し、理解することが十分可能な状況にあったものとみられること、大学当局は控訴人に対し、任用予定期限の約6ヶ月以前に任用を更新しない旨を告知し、就職斡旋の申し出も行っていること、日々雇用職員等の非常勤職員は国公法上例外的に認められるべき職員であり、その勤務の長期化はできる限り防止するのが国公法の趣旨に沿うものであること等の諸事情からすると、大学当局が控訴人を昭和59年3月30日以降任用更新しなかったことについて、これを違法な措置であるということはできない。したがって、控訴人において継続任用を期待していたとしても、当局においてその期待を満たさなかったことをもって、控訴人主張のようにその期待権なるものが当局によって侵害されたものとはいえない。 - 適用法規・条文
- 国家公務員法59条、60条
- 収録文献(出典)
- 労働判例610号54頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 - 昭和60年(ワ)第2097号 | 棄却(控訴) | 1990年11月26日 |
大阪高裁 − 平成2年(ネ)第2471号 | 棄却(上告) | 1992年02月19日 |
最高裁 − 平成4年(オ)第996号 | 棄却 | 1994年07月14日 |