判例データベース
新潟労災病院雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 新潟労災病院雇止め事件
- 事件番号
- 平成6年(ヨ)第2号
- 当事者
- その他債権者 個人4名 A、B、C、D
その他債務者 特殊法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1994年08月09日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、全国39箇所における労災病院を設置・経営する特殊法人であり、本件病院(病院)はそのうちの1つである。病院の嘱託には4種類があり、債権者らは勤務時間が1日8時間未満、1週間40時間未満の4号嘱託職員である。債権者Aは正看護婦の免許を有し、昭和58年2月から債務者の他の労災病院で9年余勤務した後一旦退職し、1ヶ月後の平成4年5月、病院に嘱託職員として雇用された者であり、同年10月1日に契約更新された後半年ごとに契約更新され、同6年3月31日の勤続年数は1年11ヶ月経過している。債権者Bは准看護婦の免許を有し、昭和50年9月に病院に臨時職員として雇用され、以後1ないし6ヶ月の期間で契約更新を30数回繰り返し、平成元年4月以降病院の嘱託職員になったものであり、勤続年数は18年7ヶ月である。債権者Cは、昭和63年1月、病院に期間3ヶ月の嘱託職員として雇用された後、半年後ごとに12回契約が更新された者であり勤続年数は6年3ヶ月となっている。債権者Dは、平成3年4月に病院に雇用された後、半年ごとに5回契約が更新され、勤務年数は3年となっている。
債務者は、現在の7病棟から8病棟にするに伴い、平成6年4月から看護婦を11人新採用するとともに、育児休業明けの看護婦6名の職場復帰もあり、債権者らを含む9名の嘱託が余剰人員になるとして、同年2月債権者らを同年3月31日をもって雇用契約を終了させ、契約を更新しない旨の意思表示をした。
これに対し原告らは、期間の定めのある嘱託職員とはいえ、いずれも契約更新を重ねて勤務年数も長期に及んでいるから、期間定めのない契約と異ならず、また雇止めに正当事由がないとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを求めて砂利処分の申請に及んだ。 - 主文
- 1 債務者は債権者Aに対して、金43万3333円及び平成6年4月から同7年1月まで毎月20日限り金10万円を支払え。
2 債務者は債権者Bに対して、金34万6666円及び平成6年9月から同7年1月まで毎月20日限り金8万円を支払え。
3 債務者は債権者Cに対して、金21万6666円及び平成6年9月から同7年1月まで毎月20日限り金5万円を支払え。
4 債務者は債権者Dに対して、金30万3333円及び平成6年9月から同7年1月まで毎月20日限り金7万円を支払え。
5 債権者らのその余の申請を却下する。
6 申請費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 債権者ら4号嘱託職員は、任免が容易であり、病院において過去にも雇止めの事例があったものの、(1)4号嘱託職員については職種は限定せず、更新期間の制限は設けず、産休・育休の代替要員で更新限度が2年とされていた3号嘱託とは異なる運用がされてきたこと、(2)平成6年3月31日までの債権者らの継続勤務年数、更新回数は、かなりの長期間及び回数になっていること、(3)債権者らの雇用時において雇用期間が満了したときにやめてもらうとの説明を受けていないこと、(4)債権者らの仕事は、勤務時間は異なるものの、内容自体は一般看護婦と差異がないことが認められる。しかしてこれらの事実によると、債権者らと債務者との雇用関係は期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になったとまではいえないものの、雇用関係を継続することが期待される関係であって、雇用期間の満了により雇止めをするに当たっては、解雇の法理が類推され、雇止めが客観的に合理的な理由がなく社会通念上妥当なものとして是認することができないときには、その雇止めは信義則上許されないものとなる関係にあると認めるのが相当である。
病院では病棟の増築等により看護婦が不足することから募集を行ったところ、10名の採用が決まり、育児休業明けの看護婦が復帰することから、病棟部門には夜勤が可能な一般職員を、外来部門についても看護助手ではなく看護婦をそれぞれ配置することが望ましいとの方針を採ったこと、定員について国の認可が必要であるところ、嘱託職員は剰員となることから本件雇止めを行ったことが認められる。
これらの事実からすると、本件雇止めは、外来部門の看護婦について、病棟部門の看護婦に欠員等が生じた場合に備えて、夜勤等が可能な一般職員を配置し、また外来部門についても臨機応変かつ的確な患者との対応をするには看護助手ではなく看護婦の配置が望ましいとの方針に基づくものであり、これによって剰員となった外来部門の4号嘱託を雇止めにしたものであって、このこと自体は、一応の合理性が認められる。しかしながら、債権者らは期間の定めのある嘱託職員であるとはいえ、雇用契約の継続が期待されていたのであるから、本件雇止めの理由が、債務者側の労災医療、地域医療の的確な遂行という公益を目的とする場合であっても、債権者の雇用の場を安易に奪うことは許されず、雇止めを回避するための相当の努力をすることが要求されると解するのが相当である。しかして、債務者としては、病棟、中央材料室の4号嘱託職員につき任意に退職の意思の有無を確認していることは認められるものの、それ以外の雇止めを回避する方法を取っておらず、このような場合には、雇止めにつき客観的に合理的な理由があり、社会通念上妥当なものがあるとするに充分ではない。もっとも、債務者は国の定員管理の拘束のもとに各労災病院の収支、患者数の実績を考慮しながら、定員の配置を決定していることが認められるが、国の定員管理の実態がどのようなものであるかの疎明は充分でなく、他の労災病院では、50床・2名の中夜勤の体制で、平成4、5年において16名を超える病棟がかなりあることも考慮すると、国の定員管理があるから雇止めの回避可能性はないとすることはできない。したがって、債務者の本件雇止めは信義則上許されないものといわなければならず、債権者らと債務者との間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の関係にあるものと解するのが相当である。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例659号51頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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