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タイピスト腱鞘炎休職処分取消請求事件
- 事件の分類
- 職業性疾病
- 事件名
- タイピスト腱鞘炎休職処分取消請求事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和49年(ヨ)第2298号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1974年10月04日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 被申請人はレコード、図書等の委託製造、通信販売を主な目的とする株式会社であり、申請人は昭和37年5月、被控訴人の前身会社にタイピストとして雇用された女性である。
申請人は入社後昭和42年12月までタイプ打ちに従事したところ、その期間に身体の異常は感じなかったが、昭和43年頃から肩凝り、頭痛、目のかすみを覚えるようになった。申請人は、昭和45年初から同47年1月頃まで校正に従事したが、この間前記症状は現れなかった。申請人は同年2月から5月頃までカードの手書き作業に従事し、同年6月から11月まではラベル宛名書作業も行い、両時期を通じて校正の仕事も行ったが、3月頃から手首の痛みや肩の凝りを感ずるようになった。申請人は昭和47年11月から同48年3月まで産前産後休業をとったところ、この間に前記症状は消え、産休明けの昭和48年4月から同年8月末までラベル書き、校正の作業に従事したところ、5月半ばから再び手首が痛むようになり、8月頃からは母指の痛みはなお激しくなり、肩や背中の痛みも感じるようになった。申請人は、昭和48年8月31日から右母指腱鞘炎及び頸肩腕障害のため病気欠勤中のところ、被申請人は申請人に対し、同年10月1日就業規則に基づき、業務外の傷病で引き続き1ヶ月以上欠勤したことを理由に休職を命じ、更に昭和49年3月14日、右休職期間が満了したことを理由に解雇する旨の意思表示を行った。
これに対し申請人は、本件疾病は業務に起因するものであるから、本件休職処分は就業規則に違反し、本件解雇は業務上の疾病等による休業中の労働者の解雇を禁じた労働基準法19条1項に違反するとして、被申請人の従業員としての地位を有することの確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 申請人は、被申請人に対し、その従業員としての労働契約上の地位を有することを仮に定める。
2 被申請人は、申請人に対し、昭和49年6月以降本案判決の確定まで、毎月25日限り、1ヶ月各金80900円を仮に支払え。
3 申請費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 一般に、いわゆる職業病というものは、長期間にわたる有害な作業条件の下での労働の悪影響が蓄積して徐々に発病するものであるだけに業務起因性を直接明らかならしめるものはない。しかし本件においては、申請人の業務が手指を過度に使用する作業であって、申請人がこれに途中中断した期間があるとはいえ長期間従事してきた経過及び発病の態様によれば、申請人の病気については、自覚症状の外、他覚的症状として両肩筋硬結が認められ、頚椎可動性良好、リウマチ反応陰性、血沈正常で炎症所見なし、血液検査尿検査では貧血及び腎障害の所見なし、頚椎レントゲンで頚椎の骨変化及び伸展異常を認めず、というのであり、要するに申請人の作業以外で右症状を発する可能性のある疾患は諸検査の結果認められないということである。更に、申請人が出産のため約4ヶ月業務から離れた間に前記症状は一時消えたこと、申請人が欠勤を始めた昭和48年8月31日当時申請人の所属していたタイプ係で同種の作業に従事していた5人のうち3人までが頸肩腕障害に罹患していたことが一応認められる。その上、申請人の病気がその作業以外の原因や疾患に起因する可能性は全くうかがうことはできない。
これらの各事実を総合すれば、申請人の病気は申請人の前記作業に起因するか、或いは少なくともそれが強い原因の1つになっているものと推認するに難くない。すなわち申請人の病気はその業務との間に相当因果関係がある業務上の病気であると認めるのが相当である。そうであれば、本件休職処分は前記病気の業務起因性の判断を誤っているので、就業規則に違反し、本件解雇処分は業務上の病気の療養中になされたことになるので労働基準法19条1項に違反し、いずれも無効であるといわなければならない。 - 適用法規・条文
- 労働基準法19条1項、75条、89条
- 収録文献(出典)
- 判例時報765号107頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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