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S保育園公務外認定処分取消請求控訴事件

事件の分類
職業性疾病
事件名
S保育園公務外認定処分取消請求控訴事件
事件番号
名古屋高裁 − 平成12年(行コ)第23号
当事者
控訴人 地方公務員災害補償基金名古屋市支部長
被控訴人 個人2名
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年09月19日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被控訴人(第1審原告)らは共に名古屋市立S保育園に勤務する保育園業務士だが、いずれも頸肩腕障害及び腰痛症にかかったことから、これらの疾病は公務に起因するものであるとして、控訴人(第1審被告)に対し、公務災害認定請求を行ったところ、平成元年1月27日、両名とも公務に起因するものとは認められないとの認定を受けた。被控訴人らはこれを不服として、審査請求更には再審査請求を行ったが、いずれも棄却されたため提訴に及んだ。
 第1審では、被控訴人らの疾病と業務との間に相当因果関係の存在を肯定し、控訴人の行った処分を取り消したことから、控訴人がこれを不服として控訴したものである。
主文
1 控訴人の控訴を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じて控訴人の負担とする。
判決要旨
 控訴人は、「地公災制度の趣旨に照らせば、ある公務に従事したことにより、当該公務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したかどうかの判断は、被災職員個々人の事情により左右されるのではなく、他の同種の労働者を前提として、発症原因とするに足る強度の精神的又は肉体的負荷を受けていたかどうか、換言すれば、当該職員のみならず、同僚公務員又は同種公務員にとっても、特に過重な精神的、肉体的負荷と判断されるかどうかという客観的基準に基づいて判断されるべきである」旨主張する。しかし、同種の業務についていても、個々人の体力、体格等の耐久力などの差異によって当該疾病を発症する場合も発症しない場合もあり、また、今日何らかの家庭事情を有し、基礎疾患を抱えながら業務に従事する者も多いことを考慮すると、当該個人が一般的に当該業務への従事を許容されている以上、基本的には当該個人にとっての適切な業務量を基準として過重な業務であったか否かを判断するのが相当である。

 控訴人は、当該疾病の発症につき素因等が競合する場合、因果関係の存否につき相対的有力原因説を取ることと、当該個体の個別事情を考慮する見解(個体説)を取ることとは論理的に矛盾するかのように主張するが、業務過重性の判断に当たり当該個体の個別事情を考慮することが、直ちに、本人の素因・基礎疾患が主因となって災害が生じた場合に、これを公務に内在又は随伴する危険が現実化したとの判断に繋がるわけでないことに照らすと、右のような個体説を取ることが相対的有力原因説と論理的に矛盾するとまではいえない。また、最高裁判所の判例が、公務起因性の判断に当たり、当該個体の個別事情を考慮するのを一般的に禁じているとまではいえないことが明らかであるから、個体説が最高裁判例に違反するとする控訴人の主張は採用できない。
 保育園での調理業務は、衛生面に特に気を遣い、時間的制約の中で大量の給食等を作らなければならないこと、前屈、前傾立位などの姿勢が多く、上肢を反復して使用する動作、腰背部に負担のかかる動作が全体の約8割を占めていること、冬場は足元が冷える環境であること、清掃業務も。立位、中腰、前屈みなどの姿勢が連続する作業であり、上肢に力を入れる作業も存在すること、調理業務、清掃業務とも、個々の作業は多岐にわたるとしても、基本となる姿勢、動作は、立位、前屈、上肢の反復動作であるから、首、肩、上肢、腰等に負担のかかる動作が連続するものであること、業務士に首、肩、上肢、腰に障害を有するものの割合が高いことなどを総合すると、業務士の業務は、頸肩腕部や腰部に相当な負担を与えるものと認められる。そして、そのことが直ちに被控訴人らの業務に過重性がなかったことの立証責任を事実上控訴人に転換するというものではなく、頸肩腕症候群及び腰痛症の発症機序が未解明であること、これらの疾病の発症が個々人の身体的因子、精神的・心理的因子によっても左右されるものであることからすると、被控訴人らの担当した具体的業務内容、右業務が被控訴人らに与えた負担の内容、程度、被控訴人らの症状の経過等を仔細に検討し、業務と被控訴人らの疾病との間に相当因果関係があるかどうかを個別に判断すべきである。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法26条
収録文献(出典)
平成14年度労働関係判例命令要旨集
その他特記事項