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大田労基署長療養補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 大田労基署長療養補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成12年(行コ)第279号
- 当事者
- 控訴人個人1名
被控訴人大田労働基準監督署長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年09月25日
- 判決決定区分
- 認容(原判決取消)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、航空会社の客室乗務員として勤務していたところ、頸肩腕症候群及び腰痛を罹患した。控訴人はこれらの疾病は客室乗務員としての業務に起因したものであるとして、被控訴人(第1審被告)に対し、療養補償給付及び休業補償給付の請求をしたところ、被控訴人は控訴人の疾病を業務外と認定し、不支給処分とした。控訴人はこれを不服として、審査請求、さらに再審査請求を行ったが、いずれも棄却されたため、被控訴人の行った処分の取消しを求めて提訴した。
第1審では、控訴人の疾病について、客室乗務員の業務がその有力な原因とも考えられるとしながら、一方、控訴人の業務の実態は同僚と比べて過重であったとは認められないこと、頸肩腕症候群の原因は不明であり、社会環境要因が働いて発症する場合が多いこと、腰痛は日常生活においても頻繁に発生することから、控訴人の疾病と客室乗務員の業務との間に労災補償を認めるのを相当とするほどの関係は認められないとして、控訴人の請求を棄却したため、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が労働者災害補償保険法に基づき、昭和59年4月3日付けで控訴人に対してなした療養補償給付及び休業補償給付の不支給処分を取り消す。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 控訴人に発症した頸肩腕症候群は、少なくとも何らの異常も自覚されていなかった20歳の若年者において、客室乗務員としての勤務と対応するようにして、その前段階の症状といえる頸肩腕部に異常が自覚されるようになり、徐々に増悪していって、比較的繁忙期を経て発症に至ったものであり、客室乗務員としての勤務と症状発現に至る経過に明確な対応関係があると認められること、客室乗務員としての業務のほかに控訴人の日常生活において頸肩腕症候群を発症させるような要因は見当たらないこと、客室乗務員の業務内容はその一般的な性質として頸肩腕症候群を発症させ得るものであるとの研究報告もあり、これに沿うかのようなアンケート調査の結果等も少なくないこと、控訴人の症状を業務に起因するとする医師の意見もあり、この点に消極的な医師の見解も他の納得できる原因を指摘しているとは認められないことからすれば、控訴人に生じた頸肩腕症候群については、客室乗務員としての業務に従事したことにより蓄積された頸肩腕部、腰部の疲労が慢性化し、発症に至ったものであって、頸肩腕症候群の原因は不明であり、個々人の肉体的・精神的な素因に社会的環境要因が働いて発症することが多いとされていることを考慮するとしても、少なくとも上記客室乗務員としての業務が相対的に有力な原因となっているもの、すなわち控訴人の頸肩腕症候群は業務に起因するものと認めるのが相当である。控訴人に生じた腰痛も、症状としては比較的軽度のものではあるが、客室乗務員としての業務が相対的に有力な原因となっているものと認められるというべきである。
控訴人の乗務時間は同僚よりも過重とはいえず、ほぼ平均的なものであったが、平均的な乗務に従事した程度で頸肩腕症候群や腰痛が発症しないとの根拠はないし、個体差、感受性の差異があることは否定できないのであり、同僚には同様の症状が生じていないというのであれば、控訴人の生じた症状をもって、その身体的ないし心的素因その他の個人的な要因によるところが大きいと判断するのが相当である場合もあろうが、客室乗務員に対する過去1年間に罹患した疾病を質問したところ頸肩腕症候群を挙げたものが相当数おり、肩凝り、痛み、腕のだるさ、手指のしびれ等を訴える者は相当数に及んでおり、この点は腰痛においても同様の事情が認められる。したがって、控訴人に発現した頸肩腕症候群や腰痛については、単にその乗務時間とその他の勤務状況が同僚と同程度であるとのことだけで、それが業務に起因するとの前記認定を左右し得るものとは認められない。
客室乗務員の勤務は、早朝から、あるいは深夜に及ぶこともある上に不規則であって、精神的・身体的な疲労を伴うこと等のことから、3連続勤務、2休日、3連続勤務、1休日の繰り返しという勤務割とされているものと推認されるから、5ないし6日の連続勤務が前提とされている通常の労働者と同様の前提で勤務日数や勤務時間の多寡や疲労の回復等を議論することは相当ではなく、控訴人が他の同僚客室乗務員よりも多くの休暇を取得していたと認める証拠はない。 - 適用法規・条文
- 労働者災害補償保険法13条、14条
- 収録文献(出典)
- 平成14年版労働関係判例命令要旨集133頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成9年(行ウ)第81号 | 棄却(控訴) | 2000年09月27日 |
東京高裁 − 平成12年(行コ)第279号 | 認容(原判決取消) | 2001年09月25日 |