判例データベース
吹田市立Y保育園公務外認定処分取消請求事件
- 事件の分類
- 職業性疾病
- 事件名
- 吹田市立Y保育園公務外認定処分取消請求事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成13年(行ウ)第112号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金大阪府支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年12月24日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、昭和30年12月生で、昭和53年に吹田市に保育士として採用され、平成5年から同市立Y保育園に勤務している女性である。原告は昭和55年頃から頸肩腕部に痛みを覚えるようになり、昭和56年4月、頸肩腕障害の診断を受け、同年7月から昭和57年10月までの間休職した。
平成10年12月3日、同保育園で、年1回恒例のもちつき大会が開催され、原告はその責任者として、石臼の運搬、5歳児クラスの園児のもちつきの手伝いなどをした。原告はつき上がったもちを丸める作業をしていた際、もちを載せた盆を持って後方の渡し口へ運ぼうとして身体を右後方へひねった(本件動作)瞬間に腰部に激痛が走り、本件腰痛が発症した。原告は、翌日から休業し、同月7日に病院で受診したところ、腰部捻挫と診断され、休業加療を指示されたが、治療により症状が軽減したため、平成11年2月20日をもって治癒と診断され業務に復帰した。
原告は、本件腰痛の発症は、従事していた保育業務に起因するものであるとして、平成11年3月10日付けで、被告に対し公務災害の認定請求をしたところ、被告は同年7月16日付けで本件腰痛は公務外の災害と認定する本件処分を行った。原告は本件処分を不服として同年9月10日付けで地方公務員災害補償基金大阪支部審査会に対し審査請求をし、棄却の決定を受けて更に地方公務員災害補償基金審査会に対して再審査請求をしたが、同審査会は平成13年10月3日付けでこれを棄却した。そこで、原告は、被告に対し本件処分の取消しを求めて提訴した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 本件腰痛は、医師により腰部捻挫と診断されているところ、腰部捻挫はぎっくり腰とか急性腰痛と呼ばれる病態であって、病理学的には不明とされているが、本件動作と本件腰痛の発症との時間的接着性、本件動作の態様と原告の発症部位・症状からすると、本件動作と本件腰痛との間には事実的因果関係を認めることができる。
公務災害補償における災害補償責任は、労災補償における災害補償責任と同様、危険責任の法理に基づくものと解されるから、公務起因性が認められるためには、相当因果関係すなわち当該傷病が当該公務に通常内在し、随伴する危険が現実化して発生したという関係が必要である。これを本件についてみるに、本件動作は身体に対して急激な力が作用し、あるいは公務遂行中の突発的な出来事として生じたものとは認められず、身体をひねるという日常生活における通常の動作の範囲内のものであるというべきであるから、本件動作と本件腰痛との間に相当因果関係を認めることはできない。仮に、腰痛発症のきっかけとなった動作が当該公務における通常の作業中のものであっても公務上と認定できるとの見解によるとしても、本件動作は年に1回開催されるもちつき大会において丸めたもちを後方の渡し口へ運ぼうとして身体をひねったというものであり、例えば日々の保育における園児の抱き上げなどのように保育士が日常的な保育作業の中で反復・継続して行う通常の作業の一環として行われたものではなく、その作業自体はもちつき大会におけるもちの運搬行為であって、この作業自体に腰痛発生の危険性が内在していたということもできない。
原告は、保育士としての過重な業務により慢性的な疲労状態が継続していたところに、もちつき大会の際の不自然な動作が重なり、本件腰痛が発生したと主張し、腰部組織が不自然な伸展、圧迫等による障害性刺激・機械的刺激を受け、変性を生じていたり、あるいは筋疲労がたまっている状況の下では激痛が生じ易い等との医師の見解もある。しかし、これはいずれも医学的な根拠が明確ではなく、急性腰痛は特別な動作をきっかけとせず、日常的な作業や動作の途中で発生すること、腰痛症の60%は原因がハッキリせず、日常の生活動作で容易に誘発され、生活様式に余り関係のない腰痛が働き盛りの年齢層に多いこと等の医師の見解が示されていることからすると、蓄積疲労及び本件動作と本件腰痛のような急性腰痛の発症との間に、前者が後者を招来する関係を是認し得る高度の蓋然性があるともいえないのであって、結局両者の間の事実的因果関係を認めることは困難である。
吹田市職員組合の調査結果では、保育現場における急性腰痛の発症率が事務職員に比べて高いこと、「ぎっくり腰アンケート」の結果では、発症直前の状態については、疲れていたこと、0歳担当のため日常的に抱っこ、授乳、オムツ交換などで腰、背中などの負担が大きいこと等の回答が見受けられる。しかし、疫学調査によると、17歳以上の3分の1以上が腰痛を経験しており、原因がはっきりしないものが圧倒的に多いとされているほか、労働基準監督署に提出された「労働者死傷病報告」のうち腰痛と診断されたものについての疫学的調査では、週初め、午前中に災害性腰痛が多発する傾向が見られ、この結果は疲労の蓄積と急性腰痛との関係について、原告の主張に沿わないものとなっている。このようにみてくると、保育士としての業務が腰部に負担がかかり、腰痛症(慢性)を発症しやすいものであるかどうかはさておき、本件動作と本件腰痛との間に相当因果関係を認めることはできないし、蓄積疲労と本件動作が重なって本件腰痛が発症したとして、両者の間に事実的因果関係を肯定することも無理というほかなく、結局、本件腰痛に公務起因性を認めることはできないというべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働法律旬報1613号61頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 − 平成13年(行ウ)第112号 | 棄却(控訴) | 2003年12月24日 |
大阪高裁 - 平成16年(行コ)第6号 | 原判決取消 | 2005年08月19日 |