判例データベース
B社独身女性配転拒否事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- B社独身女性配転拒否事件
- 事件番号
- 神戸地裁 - 昭和54年(ヨ)第260号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1979年07月12日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 債務者は、書籍の割賦販売を主たる業務とし、神戸本社のほか、業務拠点として20数ヶ所、営業拠点として110数ヶ所を全国に擁している株式会社である。一方債権者は昭和48年12月債務者に採用され、以来大阪業務課和歌山業務において顧客からの代金回収等の業務に従事していた女性である。
債務者は、和歌山業務の業務量が著しく減少したことから、これを廃止してその業務を大阪業務課で処理することとし、昭和54年5月11日付けで債権者に大阪業務課への配転を命じた。これに対し債権者は、(1)労働契約上勤務地を和歌山市に限定する合意がなされていたこと、(2)本件配転命令は債権者が組合に復帰したことを嫌悪して行った不当労働行為であること、(3)債権者は現在通勤には1時間程度であるところ、配転によって2時間半もかかることとなり通勤できなくなること、(4)父親は病気静養中で母親は勤労婦人であるから家事を手伝わなければならないところ、本件配転が実施されれば家庭生活そのものが重大な打撃を受けることになること、(5)債権者は結婚適齢期の女性として習い事をしているところ、本件配転が実施されるとそれらが不可能になること等を挙げ、本件配転命令は信義則違反で無効であると主張し、本件配転命令効力停止の仮処分を申請した。 - 主文
- 債務者が昭和54年5月21日債権者に対してなした債務者会社大阪業務課勤務を命ずる旨の意思表示の効力を停止する。
申請費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 勤務の場所は、被雇用者である債権者にとってその当時及び将来の生活上極めて重要な意義を有するものであることはいうまでもないから、勤務場所に関して明示的に限定する旨の合意がなされたことの疎明資料のない本件においても、本件当事者間の労働契約においては、債権者の勤務場所を和歌山市とする暗黙の合意がなされていたものと推認するのが相当である。なお、債務者の就業規則には、異動に関し「会社は業務の必要により異動(転勤、配置転換)を命じることがある。この場合正当な理由なくこれを拒否してはならない。」旨の規定があるが、この様な就業規則の規定が存在することだけから、直ちに前記の勤務場所についての合意の存在を当然否定し得るものと解すべきでない。しかし、前記の契約上の勤務場所の変更は、原則として債権者の合意がない限り債務者が一方的になし得ないものであるが、契約後の事情変更等により、債務者側の業務の都合上その勤務場所の変更をしないことが著しく不相当であり、他方、債権者が右変更に応じても特に不利益を生じないような事情が生じているなど特段の事情があるときには、勤務場所について債務者の一方的変更権を留保したものと解するのが相当である。
そこで、債権者の同意のない本件において、債務者が一方的に配転をなし得べき特段の事情があるか否かの点について検討すると、和歌山業務3名中1名の退職後、その業務は大阪業務課で処理され、和歌山業務の事務量はかなり減少していることが認められるが、本件事務量の減少の程度、和歌山業務と同じ場所にある同営業所は存続していること及びその販売量の変動に伴い、右業務課の事務量の増加の可能性もあること等を考慮すると、現時点で和歌山業務を廃止することないしはこれに伴い債権者を大阪業務課に配転することが、債務者の企業の合理的運営上不可避の事態となっているものといえるか疑問があるし、債権者が本件配転に応じても特に不利益を生じない事情が生じていることについての疎明はない。そうすると、債権者の同意のない本件配転について、債務者が一方的に右配転をなし得べき特段の事情について疎明がないものといわなければならないから、債権者の勤務場所の変更を命じた本件意思表示は、債権者のその余の主張について判断するまでもなく無効であるといわざるを得ない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例325号20頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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