判例データベース
即席飲料等製造会社配転拒否嫌がらせ等事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- 即席飲料等製造会社配転拒否嫌がらせ等事件
- 事件番号
- 神戸地裁 − 昭和59年(ワ)第706号
- 当事者
- 原告個人2名 A、B
被告N日本株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1994年11月04日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、即席飲料、乳製品等の製造・販売を主たる営業内容とする株式会社であり、原告らはいずれもその従業員であるとともに、被告従業員で組織される第1組合の組合員である。被告においては、その従業員により旧組合が結成され、被告と緊張関係に立ったところから、被告は意に沿う組合の結成(第2組合)の結成を図り、第1組合との団交を拒否するなど不当労働行為を繰り返してきた。
原告Aは、昭和53年12月、被告にタイピストとして採用され、資材課に勤務していた女性である。昭和57年8月20日、係長Mが原告Aに対し、同年10月1日付けで明石出張所への配転を打診し、その後第1組合からの抗議があったがMは配転の準備を進め、同年9月にはMらは原告Aに対し、同所に行けない理由を尋ねるとともに、できる限り会社も配慮する旨告げて原告Aの回答を求めた。これに対し原告Aは、明石出張所には今まで女性がいなかったこと、以前に女性が同所勤務を希望した際には、被告は同所には女性を置かない方針であるとして希望を容れなかったこと、同所は机も置けないほど狭いこと等を挙げ、転勤拒否の姿勢を明確にして、組合に任せる旨告げたことから、第1組合は、原告Aの配転について被告に団交を申し入れたが、被告はこれを拒否した。
同年10月1日に至り、Mは原告Aに対し仕事を与えず、他の社員に対しても原告Aに仕事を頼むことを禁じたため、原告Aは仕事のない状態が続いた。同日以降、Mらは原告Aに対し、「会社のノートを使うな」「トイレ以外はウロウロするな」「今週は一体何をするのや」等と繰り返し嫌味を言い、原告Aの席を課長席の前に置くなどの嫌がらせを、原告Aが明石出張所に赴任するまで行った。
原告Aは、昭和58年6月、本件仕事取上げ及び嫌がらせの差止めを求める仮処分申立てを行い、その申請書の中で、転勤を拒む理由として、明石出張所には男女別トイレがないことを挙げた。被告は、同年8月22日付け業務命令書をもって原告Aに対し、同年9月5日付けで明石出張所への配転命令を発したところ、原告Aは本件配転命令は業務上の必要性がなく、原告Aに不利益を与える意図で行われたものであり、権利の濫用として無効であると主張するとともに、原告Aは被告の違法な配転命令、嫌がらせ行為等により、精神的・肉体的苦痛を受け、労働者としての尊厳及び人格権を侵害されたとして、慰謝料500万円の支払いを請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告Aに対し、金60万円及びこれに対する昭和59年6月5日から支払済みまで年5分に割合による金員を支払え。
2 原告Bの請求及び原告Aのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告Aと被告間においてはこれを8分し、その7を原告Aの、その余を被告の負担とし、原告Bと被告との間においては、全部原告Bの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 会社の嫌がらせによる不法行為の成否について
配転命令を発するに際し、使用者が労働者と話合いの機会を設け、意向を打診したり、説得を試みたりすること自体は適法なものであることは論を待たないところであり、社会通念上、意向打診、説得として妥当な範囲に留まる限り、不法行為を構成する余地はなく、また使用者が労働者に対し、いかなる業務を担当させるかについては裁量が認められ、業務上の必要性等正当な理由に基づき一時的に業務をしない措置をとることも、雇用契約当事者間の信義則に照らし、合理的な範囲に留まる限りは、裁量の範囲内の行為として適法であると解すべきである。しかし、他方、業務の指示をしない措置が不法な動機に基づき、又は相当な理由もなく、雇用関係の継続に疑問を差し挟ませる程度に長期にわたる場合等、信義則に照らし合理的な裁量を逸脱したものと認められる場合は違法性を帯び、不法行為を構成するものと解せられる。
これを本件についてみるに、昭和57年8月20日に初めて明石出張所への転勤を打診してから当初配転日とされていた同年10月1日までのMらの原告Aに対する言動は適法なものと認めるのが相当である。しかしながら、同日以降の本件仕事取上げ及び嫌がらせについては、第1組合が被告に対し原告Aの配転等について抗議、団交の申入れをしたにもかかわらず、被告はこれを無視し続け、原告Aが仮処分を申し立てた後もこれらの措置を継続したことを併せ考慮すれば、本件仕事取上げ及び嫌がらせは、配転に応じない原告Aに精神的苦痛を与えることを目的とした措置であるというべきであり、配転の意向打診、説得の域を逸脱した社会通念上許容し難いものといわざるを得ない。
以上のとおり、被告の原告Aに対する昭和57年10月1日以降明石出張所への赴任に至る昭和58年9月4日まで1年近くにわたる本件仕事取上げ及び嫌がらせは、原告Aに対する加害の意図をもってなされ、合理的な裁量の範囲を逸脱していることが明らかであるから、不法行為を構成するものというべきである。
本件仕事取上げ及び嫌がらせによって原告Aが被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、金60万円と認めるのが相当である。
2 本件配転命令の効力について
昭和57年8月当時、資材課には原告Aを含め2人の女性課員が所属しており、ワープロと英文タイプによる注文書の作成を行っていたが、口頭発注方式に改められた結果、注文書の作成・発行に関する業務がなくなったため、女性課員1名の余剰人員が生じていたものと認められる。当時被告の近畿地方における出張所には女性事務員は配属されていなかったが、明石出張所からは女性事務員の配置が要望されており、原告Aが同所に赴任して以降、事務所に従業員がいなくなるという顧客の苦情が解消されるとともに、男子従業員のセールス活動により多くの時間を取ることができるようになったことからすれば、遅くとも昭和56年6月頃から本件配転命令当時まで、同所において女性事務員を必要とする状況が続いていたものと認められ、本件配転命令には業務上の必要性があったものと認められる。
明石出張所が狭く、労働基準監督署の行政指導がなされたほか、トイレは事務所内に設けられていて男女の別がなかったが、原告Aの赴任時には机が配置されていたから、業務の遂行に特に支障を生じたようなことはなく、また他の男性従業員は日中外出しているため、原告Aにとってトイレの使用がはばかられるような状況ではなかった。以上の事実によれば、明石出張所において、社会通念上許される範囲を超えて、原告Aに不利益が生じたと認めることはできない。
昭和58年8月当時、本社における女性第1組合員は実質的に原告Aのみであったこと、原告Aの仮処分申請が報道され社会的耳目を集めていたこと、同年9月2日に仮処分決定がなされたにもかかわらず、被告の原告に対する対応には格段の差異は生じなかったこと、本件配転日にはMらが原告Aの立入りを妨害し、被告がことさら第1組合の存在を否定して同組合及びその組合員に対し不当労働行為を繰り返したこと、被告が原告Aに対して、本件仕事取上げや嫌がらせを継続したことは前記認定の通りである。しかし、本件配転命令に関する限り、それ自体は業務上の必要性に基づくものであり、合理性を有するものと解されるから、不当労働行為の成立を認めることはできないといわざるを得ない。
(被告Bに係る部分 略) - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 判例タイムズ886号224頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|