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テレビ・ラジオ放送会社女子アナウンサー配転拒否控訴事件

事件の分類
配置転換
事件名
テレビ・ラジオ放送会社女子アナウンサー配転拒否控訴事件
事件番号
福岡高裁 − 平成7年(ネ)第954号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 放送会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年07月30日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被控訴人(第1審被告)は、テレビ・ラジオの放送を業とする会社であり、控訴人(第1審原告)は、昭和36年5月に被控訴人に採用され、アナウンサーとして勤務していた女性である。

 控訴人は、昭和60年3月、被控訴人の意向を受けて、情報センターに異動になり(第1次配転)、平成2年3月に編成局番組審議会事務局に異動になった(第2次配転)。控訴人は、労働契約ではアナウンス業務にのみ従事することになっており、第1次配転の際にも情報センター部長から、アナウンス業務を行うことができる旨説明を受けていること等を理由として第2次配転を拒否したが、結局異議を留めつつ配転先で業務に従事した。しかし、控訴人は、本件第2次配転は、労働契約に違反するものであるとして、その無効確認を求めた。
 第1審では、控訴人は第1次配転によってアナウンサーとしての業務に従事する地位を喪失したとして、控訴人の主張を斥けたため、控訴人が本件控訴に及んだものである。
主文
本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
1 主位的請求について

 控訴人に、アナウンサーとしての業務に従事する労働契約上の地位にあるというためには、本件労働契約においてアナウンサー業務以外の職種には一切就かせないという趣旨の限定が合意されることを要し、単に長年アナウンサーとしての業務に就いていたのみでは足りないと解する。控訴人の採用時においては音声テストが課されたのみで、アナウンサーとしての特別の技能や資格は要求されておらず、採用後僅か2ヶ月ほどの研修を受けてアナウンス業務に就くのであるから、その時点においては格別の特殊技能があるとまではいえず、特殊技能はその後の実務の中で次第に培われてゆくものであり、ひとりアナウンサーだけに特殊技能の修得、保有が要求されるわけではない。

 就業規則には、「会社は、業務上の必要により、従業員に対し辞令をもって転勤または転職を命ずることがある」と規定されており、配転対象者からアナウンサーを除外してはいない。また労働協約においても、アナウンサーも配転の対象とされているし、アナウンサーを除外することなく被控訴人に配転命令権があることが定められている。そして、現に、被控訴人においては、アナウンサーについても、一定年齢に達すると他の職種への配転が頻繁に行われている。

 以上の事情を総合して考えると、アナウンサーとしての業務が特殊技能を要するからといって、直ちに本件労働契約において、アナウンサーとしての業務以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が成立したものと認めることはできず、控訴人については、本件労働契約上、被控訴人の業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、個別的同意なしに職種の変更を命令する権限が、被控訴人に留保されているものと解するのが相当である。したがって、控訴人の主位的請求には理由がない。

2 予備的請求について

 控訴人は、職種限定の合意がなされたとまではいえないとしても、被控訴人が控訴人に対し、さしあたりアナウンス業務に従事させることを保証する旨を約したから、控訴人にはアナウンス業務に就労することを内容とする、いわゆる就労請求権があるとして、その存在の確認を求めているものと解されないではない。そうすると、右の趣旨の限度では、控訴人がアナウンス業務に従事できるかどうかという本件紛争の解決にとって有効かつ適切な確認の請求といえないではないから、右の予備的請求にかかる訴えには一応確認の利益が認められることになる。しかしながら、労働契約は、労働者が一定の労務を提供する義務を負い、使用者がこれに対して一定の賃金を支払う義務を負うことに尽きるから、労働契約等に特段の定めのあるときを除き、就労請求権は否定するほかなく、右特段の定めの主張立証もない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例757号58頁
その他特記事項
本件は上告されたが、原審の判断は正当であるとして棄却された。

最高裁平成8年(オ)2248号、1998年9月10日判決(収録文献(出典)労働判例757号20頁)