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Yセキュリティー配転拒否解雇事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- Yセキュリティー配転拒否解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成8年(ヨ)第3490号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1997年06月10日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 債務者は、警備の請負等を業とする株式会社であり、債権者は昭和47年に大学を卒業した後、英国、フランスに順次留学して語学を勉強し、平成3年5月に債務者との間で雇用契約を締結した女性である。
債権者は平成4年6月に総務部総務課へ、同年10月1日に人事部人事課へ、平成5年3月20日から総務部庶務課へそれぞれ配置換えされた。債権者は平成5年4月16日付けの営業部企画課勤務を経て、平成6年3月22日付けで営業部付とされ、他の警備会社の社員に対する語学出張研修等を内容とする事業計画書を作成・提出したが、債務者はこれを不採用とした上で、事業計画書が採用されない以上警備職についてもらうほかないとして、平成8年11月27日、債権者に対し警備職への配転を通告した。債権者はユニオンを通じて債務者に対し、(1)債権者の5級職を維持すること、(2)債権者を内勤につけ、通訳・翻訳の業務が生じた場合は債権者を優先的にその業務に従事させること等を要求したが、債務者はこれを拒否し、債権者に対し警備職に就くこと、警備職になればこれに見合った賃金になり調整手当はなくなることを回答した。
これに対し、債権者は、本件警備業務への配転は当初の労働契約上予定されていない異業種への配転であって、債権者の承諾なしに行うことはできないこと、警備業務への配転によって、調整手当(語学手当)を削減することはできないこと、本件配転拒否を理由とする解雇は無効であることを主張し、従業員の地位保全の仮処分申立てを行った。 - 主文
- 1 債権者が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 債権者は、債務者に対し、平成8年12月から本案判決確定に至るまで、毎月25日限り、金32万5000円を仮に支払え。
3 申立費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 1 職種の限定について
債務者は、債権者と雇用契約を締結するに当たり、英仏語以外は採用上の適正判断の対象となっていなかった旨主張する一方、債権者の仕事は会社の仕事全般に従事することが予定されていた旨主張しており、債務者が債権者にどのような仕事に従事させようとしたのかについて一貫性のある説明がなされていないきらいがある。債権者が債務者に就職するきっかけとなった新聞求人広告には、「社長秘書募集」の下に、「英語堪能な方を望みます(仏語もできる方は尚良)」「出張可能な方」「普通自動車運転できる方」等の文言が記載されており、債権者に対して語学能力のみが要求されていたものではないことが認められる。また、債権者は採用面接の際に将来警備職につくこともあり得る旨の明確な説明を受けておらず、警備業務に従事することを予定する者については、提出すべき書類として警備業法所定の書類を指定している上、就業時間、休憩時間について、一般社員と警備職社員とを全く別異に扱っている。債務者では女子職員でも警備業務に就く場合があるが、これらの職員はすべて警備に関する教育を受けているほか、警備業法所定の誓約書を提出しているのであって、採用時点から解雇されるまでの約5年半にわたって正式な警備業務に関する教育がなされていない債権者とは大きな隔たりがある。右のような採用条件、採用後の勤務形態の違い、求人広告の内容と採用面接時における債務者側の言動、警備業務に携わっている他の女子職員に関する採用状況を総合勘案すれば、債権者は社長秘書業務を含む事務系業務の社員として採用する旨の合意がなされたものというべきである。
2 調整手当(語学手当)の削減の可否
雇用契約時、債権者に対しては、管理職相当の5級職相当給与のほかに、語学手当と称する調整手当月額10万円が支給されることになっていた。債務者社長が個人として就任していた全日本空手道連盟事務局長の退任という事情が生じ、英仏語を必要とする業務が不要となったため債務者は債権者の調整手当を削減したものであるが、就業規程には、懲戒の一つとして「減給」が掲げられているほか、どのような場合に、どのような手続きを経て、どの程度賃金を減額できるかという点の整備はなされていない。債務者は、平成5年2月頃、債権者に対し、金10万円の語学手当を削減する意向であることを通告し、ユニオンとの団交を経た2ヵ月後には右通告を撤回しているが、賃金を減額するための就業規則上の権限根拠規定を欠き、減額に対する債権者の同意を欠く以上、右通告は効力を有しないものというべきである。
3 配置転換命令の有効性
一般に、労働の種類、態様、勤務場所は、労働提供の具体的な内容をなすものであり、併せて労働者の生活にとって極めて重要な意義を有するのであるから、労働契約の内容をなすものというべきであり、労働の種類、態様、勤務場所の変更は、労働契約の内容を変更するものであって、予め合意された範囲を超える変更は、使用者の一方的命令によってはこれをなし得ないものと解すべきである。債務者としては、債権者を採用する際において、将来事務系業務以外に警備業務を担当することもあり得ること、その際は警備業務に必要な資格書類の提出を求め、警備訓練を実施することなどを債権者に告知し、その同意を求めておけば異動を命じることができたものといえるが、債権者と債務者との間には社長秘書業務を含む事務系業務の社員として採用する旨の合意がなされたものというべきである。したがって、債権者について会社は業務の都合など必要に応じ社員に異動を命ずることがあり、社員は正当な理由なくこれを拒むことはできない旨を定めた就業規程10条の適用はなく、警備業務への職種の変更については個別の同意が必要である。また、仮に就業規程の適用があるとしても、雇用契約当初においてなされた合意の状況、債権者は警備業務への配転命令がなされた当時47歳の全く警備業務の教育を受けたことのない女子であること、5級職としての地位からの切り下げがなされ得る状況が存したことの諸事情に照らせば、債権者における警備職への配転命令拒否には正当な理由があったものというべきである。
4 本件解雇の効力
債務者が解雇通知書に解雇理由として記載している事由は、(1)平成4年6月から同5年4月までにおける債権者の勤務態度が著しく劣り、これが就業規程の解雇事由に該当すること、(2)債権者が提出した事業計画書が評価に値する内容でなかったこと、(3)平成8年11月27日に配置転換を含む人事異動の確認を行ったことに対し、債権者がこれを拒否したことは、就業規程の解雇事由に該当すること、の3点である。
まず、警備業務への職種を伴う配転命令には、債権者の個別の同意が必要であるところ、その合意を欠いているから無効であり、仮に有効であるとしても、債権者の配転命令拒否に正当な事由があるから、(4)の解雇事由は理由がない。次に、(1)について検討するに、債権者の場合のように僅か4ヶ月ないし6ヶ月ごとの配置換えでは、そこでの勤務不良を殊更に取り沙汰するのはいささか公平さを失するきらいがあるものといわざるを得ない。また、解雇事由とされていない社長秘書勤務時代の行状の時期特定がある程度大まかであるのに対し、平成4年以降事細かに不良事由なるものを指摘しているところ、少なくとも実態記録に記載された事由が解雇してしまうほど重大な勤務不良事由には当たらないものというべきである。更に、(2)について検討するに、債権者は平成6年9月頃から、他の警備会社の社員に対する語学出張研修の実施等を内容とする事業計画書を立案することになったが、そこでは必要な予算の手当や、他の社員の応援などの援助措置を講じようという姿勢がみられず、債権者の個人的な失敗という側面ばかりが過度に協調されすぎているものといわねばならず、これをもって明確な解雇事由に該当するというのは酷に過ぎるきらいがある。
したがって、仮に右(1)及び(2)が形式的に就業規則上の解雇事由に当たるとしても、前記諸事情に照らせば、解雇という重大な処分にまで処することは著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとものというべく、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるというべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例720号55頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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