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B社退職金等請求事件

事件の分類
その他
事件名
B社退職金等請求事件
事件番号
東京地裁 − 平成10年(ワ)第618号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1999年11月01日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、平成元年10月に被告に入社し、健康保険組合に勤務していた女性である。原告は営業業務に就きたいとの希望に即し、平成4年2月に土木・海洋商品販売部に配置換えとなり、平成6年9月に化工品購買部化工品購買第一課に配置換えされた。これら配転先において、原告は通常の仕事振りであったが、原告は平成5年頃上司らに職場の人間関係について相談したことがあった。また平成6年には、原告から直属課長に、同僚が原告を辞めさせようとしている旨の相談があり、原告の挙動が落ち着かず、嘱託医のカウンセリングにより被害妄想の病名が付された。原告は、平成7年1月27日以後欠勤し、被告からの診断書提出の催告により、同年5月11日人事課長と面談し、退職届を提出した。
 原告は、平成10年2月頃、平成4年以後の異動に関する同意を取り消し、定年退職までの給与及び定年退職時の退職金と実際に受けた退職金との差額を請求するとともに、被告の欺妄行為により配転をされ、配転先で嫌がらせを受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 本件異動に関する被告の原告に対する欺妄行為の存否

 本件異動は被告の業務の都合により被告の配転命令権の範囲内において命じられたものと認められ、本来原告本人の個別の同意は必要とされないというべきであるが、本件異動についての被告の原告に対する欺妄行為の存否につき判断するに、健保組合のK理事が平成4年1月の定期面談で、原告に対し、これからは女性の活躍する時代であり、育児休暇及び再雇用制度も整っていくであろうとの発言をした事実は認められるものの、それ自体は部下である原告に職務への積極的な取組みを動機付けるための励ましの域を出ず、制度の約束をしたものとは到底認められず、当時の被告代表者名義で示された基本理念も経営の指針を明らかにしたものであって、その後育児休暇等の制度整備がされなかったとしても、これらが欺妄行為に該当するということはできない。また、K理事が、異動後の原告の担当職務を課長秘書であると説明した事実は認められるが、被告には課長秘書というポストはないこと等に照らし、採用することができない。

2 被告の原告に対する債務不履行又は不法行為の存否

 原告は、本件異動後、原告に30分程度で終了する業務しか与えず、平成6年以降は更に業務を減らした旨主張するが、原告の主張は認められない。

 原告は、いずれの異動の場合にも、被告が原告に対し、業務処理に不可欠な商品知識や経理システムについての知識を教育・訓練すべき義務を負うのにこれをせず、かつ、原告の担当業務につき適切な業務の引継ぎ及び指示命令も行わなかった旨主張するが、被告は異動後の引継ぎ及び商品知識の教育は必要に応じてOJTの方式で仕事の中で行っており、現に原告の異動後の業務について原告が商品知識に欠けていた等により業務に支障を生じたような事実は認められず、仮に原告が主観的に異動後の引継ぎ及び教育訓練が不十分であると感じたとしても、その場合には自ら積極的に上司に対する質問や自己研鑽により業務知識を獲得するよう対処すべきものと認められ、被告が原告に対して労働契約上の義務として行うべき引継ぎ及び教育訓練を怠った事実を認めることはできない。
 原告に対する本件異動後の課員からの言葉による嫌がらせ並びに化工品購買第一課への異動後の言葉による嫌がらせ及び課員全員による共同絶交の事実の存否については、客観的な裏付けがなく採用できない。以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求はいずれも理由がない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
平成12年労働関係判例命令要旨集187頁
その他特記事項