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Nテレビ放送網女子アナウンサー配転拒否事件

事件の分類
配置転換
事件名
Nテレビ放送網女子アナウンサー配転拒否事件
事件番号
東京地裁 − 昭和51年(ヨ)第2294号
当事者
その他申請人 個人1名
その他被申請人 Nテレビ放送網株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1976年07月23日
判決決定区分
認容
事件の概要
 被申請人は、テレビ放送を主たる目的とする株式会社であり、申請人は昭和34年4月被申請人に雇用され、テレビ放送のアナウンス業務に従事していたところ、被申請人は、昭和51年5月11日、申請人に対し、審査室考査部への配転命令を発した。これに対し申請人は、申請人と被申請人との間の労働契約は、申請人をテレビ放送のアナウンス業務のみに従事させるものであり、申請人の承諾なしに行った本件配転命令は無効であるとして、その効力停止の仮処分を求めた。
 申請人は、昭和34年度の女子アナウンサー選考試験に合格して採用されたものであるが、応募者2000名に対して最終合格者は申請人を含め5名に過ぎず、採用内定段階の昭和33年12月から4ヶ月間、被申請人から女子アナウンサーに必要な特別の教育、訓練を受けた上、アナウンサーとして採用された。そして、申請人は、採用されてから本件配転命令を受けるまでの約17年間、一貫してテレビ放送のアナウンス業務のみに従事してきたものであり、これまで本人の承諾を得ないで、職種の異なる他の業務への配転を命ぜられた事例は存在しない。
主文
1 申請人は被申請人が昭和51年5月11日付で発した審査室考査部勤務を命ずる旨の配転命令に従う労働契約上の義務を負わないことを仮に定める。
2 申請費用は被申請人の負担とする。
判決要旨
 申請人が労働契約締結の際に被申請人に対しテレビ放送のアナウンス業務以外の業務にも従事してよい旨の明示又は黙示の承諾を与えているなどの特段の事情の認められない限り、申請人は被申請人との間に、テレビ放送のアナウンス業務のみに従事するという職種を限定した労働契約を締結したものであって、その後申請人が個別に承諾しない限り、被申請人におけるその余の業務に従事する義務を負わないものと解すべきである。そして、申請人が労働契約締結の際に被申請人に対しテレビ放送のアナウンス業務以外の業務にも従事してよい旨の承諾を与えているなどの特段の事情は認められない。そうすると、申請人がその後個別に承諾しない限り、被申請人は申請人に対し、テレビ放送のアナウンス業務以外の業務に従事することを命ずる労働契約上の権利を有しないものといわなければならない。

 本件配転命令により申請人が勤務を命じられた考査部の業務は、テレビ放送のアナウンス業務とは全く異質の業務に属するものであるのみならず、その業務を遂行するためには、アナウンス業務には要求されない、放送基準及び放送法、電波法その他の関係法令に関する専門的知識や編成、制作、営業等の経験の要求されることが認められる。そうすると、申請人の個別の承諾がない限り、被申請人は申請人に対し、本件配転命令を発する労働契約上の権利を有しないものというべきところ、申請人が本件配転を確定的に承諾した事実は認められない。
 被申請人は、申請人を考査部に配転させることにした理由として、申請人は既にアナウンサーとしての適格性を失うに至ったと社内で評価されていること、他方考査部の業務は申請人の学歴及び略歴からみて適性があると認められることなどを挙げて、本件配転命令の合理性を主張している。しかしながら、仮にそのような事実がすべて認められるとしても、申請人と被申請人との間に締結された労働契約は、申請人の従事する職種をテレビ放送のアナウンス業務に限定した労働契約であって、被申請人は申請人の個別の承諾がない限り、申請人に対し同業務以外の業務に従事することを命ずる労働契約上の権利を有しないものであり、就業規則38条「会社は業務に必要あるときは職員に転勤、転職または社外業務に出向を命ずることがある。」の規定も、右労働契約の効力を失わせるものではないと解する以上、被申請人の主張は理由がないといわなければならない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
判例時報820号54頁、労働判例257号23頁、判例タイムズ338号126頁、労働経済判例速報922号13頁
その他特記事項