判例データベース
市立小・中学校図書館非常勤嘱託員雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 市立小・中学校図書館非常勤嘱託員雇止事件
- 事件番号
- 福岡地裁小倉支部 − 昭和47年(ヨ)第161号
- 当事者
- その他申請人 個人3名 A、B、C
その他被申請人 北九州市 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1976年03月29日
- 判決決定区分
- 却下(控訴)
- 事件の概要
- 申請人Aは、昭和36年6月から、同Bは昭和28年10月から、同Cは昭和32年4月から、それぞれ小倉市立中学校のPTA雇用の学校図書館事務員として図書館事務に従事していた女性である。
昭和38年2月の5市合併後、被申請人は、PTAに雇用され学校図書館の事務に従事する者を被申請人の一般職職員として任用することとしたが、申請人らはいずれも選考試験の受験資格年限を超えていたため、昭和38年10月1日、被申請人から学校図書館事務を委嘱され、その後昭和39年4月1日から昭和46年3月31日まで、1年間の嘱託契約の更新が行われた。昭和46年3月26日、申請人らは、被申請人教育委員会総務課長から、高齢を理由に嘱託更新は難しい旨告げられ、同年7月31日までの委嘱を受けた。その後同年6、7月に、労組と教委当局との間で申請人らの嘱託継続問題につき折衝が重ねられ、嘱託更新拒否を解雇と捉えて反対する労組と、満58歳に達する日以降の嘱託更新は行わないとする教委とは対立したまま進展をみなかった。その折衝の結果、申請人Cについては満58歳に達する昭和47年1月10日まで月額6万円で、申請人A及びBについては同年3月31日まで月額3万円で嘱託を更新することで意見の一致をみたが、申請人らがA、Bの更新後の報酬に不満を示したため、被申請人は申請人らに対し、昭和47年1月10日まで委嘱する旨の発令を行い、同日以降申請人の嘱託を行わなかった。
これに対し申請人らは、自分達は地公法上の一般職の職員であり、その任用期間は無期限であるから、本件再任用拒否は同法所定の事由に基づかない免職であり無効であるとして、地位の保全と賃金の支払いを求めて仮処分を申請した。 - 主文
- 1 本件申請はいずれもこれを却下する。
2 訴訟費用は申請人らの負担とする。 - 判決要旨
- 申請人らが採用された経過、即ち、申請人らが一般職任用の要件である競争試験あるいは選考(地公法17条)の資格要件を欠いていたこと、申請人らには常勤の職員には支給される退職年金、退職一時金の適用がないこと、申請人らの採用の形態は嘱託であり、一般職職員とは異なった身分であることが前提とされたうえ、その勤務条件等につき取り決められていること、申請人らも又自己に対する任用が、少なくともその身分上の資格の面で、同時期に採用された他の一般職職員と異なった資格でなされるものであることについては、充分にこれを了承していたと考えられることなどの諸点に照らすときは、申請人らは地公法3条3項3号の特別職たる「非常勤嘱託員」として学校図書館事務を委嘱されたものと認めざるを得ない。
申請人らの勤務の実態は常勤者と何ら変わりはなく、その労働条件も他の一般職職員とほぼ同一であったことが明らかである。しかしながら、勤務の実態が実質的にみて常勤であるからといって、直ちに当該勤務者が地方公務員法上の非常勤者としてではなく一般職として任用されたものである旨断定することはできないのみならず、申請人らに対しては退職金制度が適用されていないこと、被申請人が申請人らをかかる勤務形態及び労働条件で取り扱ったのは、労組との合意もあり、人事行政上なるべく一般職職員と同一に取り扱い労働力を確保すると同時に現場における差別感を少なくするよう配慮した結果であることなどに鑑みると、申請人らの勤務形態及び勤務条件の実態が一般職職員と変わりがなかったからといって、同人らが一般職職員として任用されたものと断ずることはできない。
学校図書館事務はその職務の性質上恒常的、専門的な側面を有するといえるのであるが、公務員法上当該公務員の従事すべき職種と当該公務員の身分関係を固定的、一義的に解釈しなければならないいわれは全くないのであって、例えば常勤職員であって臨時的な職務のために任用されるものがあって当然であるのと同様、非常勤職員であって恒常的、専門的な職務のために任用されるものがあって然るべきであることは多言を要しないところである上、学校図書館法附則によれば「学校には当分の間司書教諭を置かないことができる。」ともされているのであって、現行法上あるいは制度上、常に学校図書館事務が地公法3条3項3号にいうところの「臨時または非常勤」では務まらない勤務とは到底認め難いものといわなければならない。しかのみならず、申請人らが一般職職員として任用されるための選考試験の受験資格を欠いていたことは前記のとおりであるから、申請人らの主張のとおりその職務内容の性質等から申請人らを一般職の職員として任用されたものとして取り扱うことは、地公法15ないし21条の規定を潜脱することとなり、許されないところといわねばならない。
昭和46年3月26日、申請人らは労組支部長とともに被申請人教育委員会総務課長らに会い、報酬について交渉したところ、同課長らから申請人らは高齢のため嘱託更新は難しいと告げられ、同年7月31日までの委嘱辞令を異議なく受領した。当時被申請人では、人事の刷新を図るため、満58歳に達した職員に退職を勧奨していたところ、申請人A及びBについては既に58歳を超えていることから嘱託更新は行わないが、報酬を下げて更新する余地のあることが表明され、労組と教委との交渉において、申請人Cについては満58歳に達する昭和47年1月10まで嘱託契約を更新することで意見の一致をみ、58歳に達していた申請人A、Bについて、同日までの嘱託期間の更新を行った。
以上によれば、申請人らは、昭和46年8月1日、昭和47年1月10日を期限とする「非常勤嘱託員」として最終的に任用されたが、昭和47年1月10日の経過によって被申請人の嘱託員としての地位を失ったものというべきである。
なお、本件地位保全等申請仮処分の本案をなすべき訴訟は、期限付き任用行為の付款たる期限部分の不存在ないし無効を前提として現在の法律関係たる地位の確認等を求める公法上の当事者訴訟(いわゆる争点訴訟)であると思料されるところ、公務員の任用行為の本質は、公法上の契約と異なり、当事者間の合意以外に公益性が必要とされる行政上の特殊な行政行為というべきであって、その付款たる期限が一応外形上適法に存在している場合において、その不存在ないし無効を主張することは、是即ち期限の到来による職員たる地位の消滅という効果を阻止する点において、消極的ではあるが任用行為によらずに新たな権利関係を形成すると同一の内容を保有するものである。その意味において、本件地位保全等申請の仮処分は行政事件訴訟法44条に抵触して許されず、暫定的な権利形成の方法は、同法25条の類推適用による執行停止の方法に依るべきであったと解する余地が多分にあるのであって、本件仮処分申請は抑々訴提起の方法を誤って不適法であり、その実体について判断する必要がないかの問題が存する。 - 適用法規・条文
- 地方公務員法3条、行政事件訴訟法44条
- 収録文献(出典)
- 判例時報822号95頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
福岡地裁小倉支部 − 昭和47年(ヨ)第161号 | 却下(控訴) | 1976年03月29日 |
福岡高裁 − 昭和51年(ネ)第294号 | 棄却(確定) | 1980年03月28日 |