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A保育園保母解雇事件

事件の分類
雇止め
事件名
A保育園保母解雇事件
事件番号
福岡地裁小倉支部 − 昭和51年(ワ)第439号
当事者
原告 個人1名
被告 社会福祉法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1978年07月20日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 被告は社会福祉法人で、小倉においてA幼稚園を経営しており、原告は同幼稚園で保母として勤務していた女性である。
 A幼稚園の入園者が減少し、将来も減少が続くと見込まれたことから、被告は昭和51年4月から定員を削減することとし、市の認可を受け、それに伴って措置費の支給額も減額された。そこで被告は理事会において、保母2名を解雇すること、解雇基準は保育園設立趣旨に沿わない職員、勤務状況不良の職員を解雇することと定めた。原告は同和差別的な発言をしたことがあり、他の職員の悪口を言ったり、遅刻がちであったり、保育態度も良くなかったりしたことから、上記解雇基準に該当するとして、被告は昭和51年3月31日をもって原告を解雇した。これに対し原告は、被告が事前に人員整理の必要性について説明をして協力を求める努力をせず、希望退職募集の措置をとることもなく、解雇日の6日前に突然通告した本件解雇は、解雇権の濫用であり無効であるとして、雇用関係の存続の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告が被告に対し、労働契約上の地位を有することを確認する。

2 被告は原告に対し、昭和51年4月1日以降毎月25日限り月額9万4460円の金員を支払え。

3 原告のその余の請求を棄却する。

4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決の第2項は仮に執行することができる。
判決要旨
1 整理解雇に関する一般論

 人員整理が原則として使用者の自由裁量に委ねられていることは異論のないところであるが、他面整理解雇は労働者にとって自らの責めに帰すべき事由なく、いわば使用者側の一方的都合によりその生計の途を閉ざされる結果を導くものであるから、労働者の生存権を保護する見地に立ち、衡平の観念によれば、使用者の右裁量権にも自ずから制約があるものと解され、これを逸脱した場合は解雇権の濫用として当該解雇は無効に帰すると解される。

 まず、人員整理はこれ以外の措置を講じてどうしても企業を維持できない場合の最終的措置とされるべきで、できるだけ人員整理を避けるべく何らの努力もなされないまま安易に実施された人員整理は濫用に亘るものと解される。それだけ人員整理には他の措置では間に合わないといった差し迫った必要性を有すると解するのが相当である。更に人員整理が実施される場合においても、まず希望退職を募り、これによってはどうしても目的を達し得ない場合に初めて指名解雇の措置を採ることが許されるに至ると解するのが相当である。次に、指名解雇を実施する場合には、使用者は労働者ないし労働組合に対し、人員整理の必要性並びに整理解雇の場合にはその基準の内容等につき納得を得るよう説明を尽くすべく努力をすることが労使間における信義則上要求されるものと解される。かかる説得の努力をなさないまま直ちにした解雇通告などは解雇権の濫用に亘るものと判断される。

2 本件解雇の必要性

 昭和50年、51年にあさひ幼稚園の周囲に2つの幼稚園が新設されたことから、被告において同幼稚園の定員を150名から120名に削減し、それに伴って保母2名の解雇の意思表示をしたことが認められる。あさひ幼稚園への園児の減少は致し方ないと言わざるを得ないから、被告が2名の保母を人員整理する方針を決めたことの必要性は否定できないというべきである。
 昭和51年3月5日の被告理事会において原告ほか1名を指名解雇することを決議したこと、右決議がされた時点から原告に解雇通告がなされた同月25日まで、原告らの属していた労働組合に対して、人員整理のやむなきことにつき説明し、理解と協力を求める努力を一切していないこと、あさひ保育園においては原告を解雇した後ほぼ1年以内に2名の保母の退職者があって、昭和52年4月にはその補充のため新たに2名の保母を採用していることの事実が認められる。このような退職者があったことよりしても、保母2名の人員整理の方針を決した段階で、何らかの有利な退職条件を付した上で希望退職を募っておれば、これに応ずる保母が存在した可能性が充分にあり、仮に結果的にこれがなかったとしても、指名解雇を実施する前にまずこれよりも労働者にとって苦痛の少ない希望退職募集の措置をとることが是非とも必要であったと解され、かかる経過的措置を採ることなく、事前に何らの予告も説明もないまま突如として実施された本件解雇は、労使間の信義則に反し、衡平の見地からも解雇権の自由裁量の範囲を逸脱した解雇権の濫用に該るものとして、本件解雇は無効といわざるを得ない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例307号20頁
その他特記事項
本件は控訴された。