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M工業大学非常勤職員雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
M工業大学非常勤職員雇止事件
事件番号
札幌地裁 − 昭和49年(行ウ)第6号
当事者
原告 個人1名
被告 国
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1978年07月21日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、昭和49年3月1日、任期を1日とし、任用が日々更新される期間としての任期予定期間を同月31日までとしてM工業大学(大学)に雇用された女性である。

 大学では、日々雇用の非常勤職員として会計課で用度の職務を担当していた女性が昭和49年1月に退職したが、文部省から非常勤職員の抑制の指示があったことから、同人の後任である非常勤職員の同年4月以降の雇用形態を確定できないまま、昭和46年1月から3月まで、同年9月から同47年8月まで、同48年3月から同2月末まで3回にわたって北海道胆振支庁に臨時技能員として勤務した原告を採用した。
 大学は、昭和49年3月30日に、予定された任期が満了したものとして、原告を当然退職としたところ、原告は、形式上日々雇用という任用形態の非常勤職員として任用されたものではあるが、その勤務実態は常勤職員と全く同一であり、恒常的な業務に従事していたこと、原告の組合活動を理由として任用更新をしなかったから不当労働行為に該当すること、採用に当たって大学会計課長は、昭和49年4月以降も原告を非常勤職員として採用する旨確約したこと、同月以降も継続勤務を希望しながら更新を拒否されたのは31名中原告のみであること等を主張し、被告国に対し一般職に属する国家公務員たる地位にあることの確認と100万円の慰藉料の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 国公法33条、36条は、すべて職員の任用は、同法及び人事院規則の定めるところにより、原則として競争試験により、例外的に選考によって行われるものと定め、同法附則13条は、同法1条の精神に反しないものであることを要件として、一般職に属する職員に関し、別に法律又は人事院規則を以ってこれを規定することができる旨定めているところである。そして、同規則は、非常勤職員の採用は競争試験又は選考のいずれにもよらないで行うことができる旨を定め、日々雇い入れられる職員のあることを明らかにしているところである。

 一般職に属する国家公務員の任用に当たり、任期を定めることができるか否かについては国公法には明示の規定はなく、ただ、人事院規則は、任命権者は臨時的任用及び併任の場合を除き原則として恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を、任期を定めて任用してはならない旨規定しているところである。一般職職員をどのような形で任用するかは、国家公務員が国民に対し、公務の民主的かつ能率的な運営を提供でき得るかの観点から決定されるべきことであり、職員を任期を定めて任用することが許されるか否かも、この観点から決定されるべきことである。官職の内容が専門知識や経験を必要とするとき、行政の一貫性の保持及び責任体制の維持を必要とするときなどは、恒常的に置く必要のあるものとされ、原則として職員を任期を定めて任用することは許されないこととなろうが、業務が恒常的にあるとしても、それが特別の習熟、知識、技能又は経験を必要としない補助的、代替的なものであるときには、期限付任用の非常勤職員を充てても、公務の民主的、能率的運営の提供に阻害することがないといえるから、特別の必要性がある場合には、そのため非常勤職員を期限付きで任用することも許されるものと解することができる。

 原告の職務の性質は、単純な事務の補助に留まるものであり、直接に上司の指導、助言に基づいて仕事をしていたのであるから、原告の担当した業務は恒常的に存する性質のものであるとはいえ、原告の占めた官職は恒常的に置く必要があり、かつ常勤職員を以って充てられるべきものであるとはいい難く、むしろ代替性があり、従って非常勤職員の期限付の任用によるものであっても、公務の民主的能率的運営の提供を阻害することがないものということができる。そして大学は昭和49年3月1日から同月末にかけて年度末の繁忙期を控えていたこと、原告は本件任用に当たり、その内容が期限付きであることを了知していたことから見れば、本件において学長が原告の任用に当たり期限付きでなしたことは適法であったものということができる。

 

 人事院規則は、「任期を定めて採用された場合において、その任期が満了した場合、その任用が更新されないときは、職員は当然退職する」旨規定しているところ、学長は本件任用につき更新措置をとらなかったことは明らかであるから、原告は昭和49年3月30日の経過を以って当然退職したものといわなければならない。

 しかしながら、日々雇用の職員に対し任用更新しないことにつき裁量の余地を逸脱したような場合、例えば組合活動を理由に任用更新をしなかったような場合、予算や仕事量の面から任用更新する余地がないわけではないのに殊更これをなさず他の者を任用したりしたような場合には、この任用更新しなかった行為が全体として違法と評価され、不法行為の成立する場合も存するものと解するのが相当である。人事院規則は、日々雇用の黙示的更新を認めており、その限りにおいて日々雇用の職員は継続して任用を受けることに対する期待を有しており、「別段の措置」がなされない限りこの期待は充たされる関係にあるところであるが、大学の財政事情等からして、大学当局において昭和49年4月以降の原告の更新につき確定した方針が定められていたものではないところであり、原告の任用当時には、その雇用期間ないし雇用形態になお未確定な要素が存在したことは否定できないのである。したがって、右のような方針が確定したことはない以上、かかる期待権ないし地位が被告により侵害されたものということができないことは明らかである。
 以上の次第で、原告が一般職の国家公務員たる地位の確認を求める請求並びにこれを前提として給与の支払を求める請求は、いずれも理由がない。また、原告が右地位を有しない以上、被告において昭和49年4月1日以降任用を更新しなかったことは、何ら違法な行為ということはできないから、被告はこれにより原告に対し慰藉料の賠償義務を負ういわれはない。
適用法規・条文
国家公務員法1条、33条、36条、59条、60条、附則13条人事院規則812.814
収録文献(出典)
労働判例303号22頁
その他特記事項