判例データベース
G大学病院非常勤職員雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- G大学病院非常勤職員雇止事件
- 事件番号
- 岐阜地裁 - 昭和56年(ワ)第324号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 国 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1985年05月20日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 原告は、昭和52年4月1日付けで、G大学医学部附属病院神経精神科所属の医員(国公法に基づき日々雇い入れられる非常勤国家公務員)として、「任期は1日とする。ただし任命権者が別段の措置をしない限り、昭和53年3月30日まで任用を日々更新し、以後更新しない」旨の条件で採用された医師である。原告は、その後も3回の更新を凝り返し、昭和55年3月30日まで同病院において継続的に雇用されてきた。
大学病院事務部においては、各診療科長に対し、昭和55年1月頃、同55年度任用期間について採用を予定している医員の氏名等の提示方をも求めたところ、原告の所属する診療科のN科長は、原告を含む4名の医員の継続採用を希望した。同年3月26日、N科長は、医員申請書を提出した原告に対し、医局内規試案に対する意見を糺し、原告の主張の撤回を求めたところ、原告がこれに強く反発し、意見・主張を変える意向のないことを表明したため、N科長はこのような原告の態度やそれまでの勤務状況に照らして好ましからざる人物であり、もし原告が医員として採用されれば、業務に責任をもって統括していくことが困難であると判断するに至った。そこでN科長は、原告に対し、病院長あての申請書に署名・押印する意思がない旨を告げ、申請書を病院事務部に提出しなかった。これを受けて、病院事務部が原告の採用に関する事務的手続きを進めなかったため、原告は昭和55年3月30日に医員としての任期が満了して退職し、同年4月1日付けの辞令交付を受けることができなかった。
これに対し原告は、従来から任用期間満了後も医員が継続採用を希望すれば当然に採用されてきており、遅くとも昭和55年度任用期間についての医員採用等を協議するための科長会議が開催された同年3月24日の時点においては、原告の継続採用は実質的には既に決定済みであったこと、医員の採否は病院長の選考によって決定すべきものであり、科長会議が開催されてから辞令交付が行われる同年4月1日までの間に、医員の選考権者である病院長から科長会議等に対して医員採用について何らかの諮問をするような機会がなかったことを併せ考慮すると、科長会議の決定をもって、昭和55年度任用期間について原告が採用されるべきことも決定済みであったと主張した。原告はこの主張に立って、国家賠償法1条1項に基づき、昭和55年4月1日から昭和56年3月30日までの間の逸失利益142万7920円、N科長による違法行為による慰藉料100万円を、被告国に対して請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 文部大臣等は、かねてから、医員の任命権者である附属病院を置く国立大学長に対し、医員の常勤化防止のため、医員の任期は1日とし、継続勤務させる必要がある場合には任用を日々更新できること、(2)右更新については12ヶ月を超えない範囲内でその終期を定め、右終期到来後は引き続き採用しないものとすべきこととの指示をしてきていることが認められる。したがって、医員について採用当初に定められた右更新期間が満了した場合、その後も医員として勤務することを欲する当該医員としては改めて病院長の選考を経て採用される方法を選ぶべきことは極めて明らかであって、医員が継続採用を希望しさえすれば、当然に医員の継続採用が決定され、それに沿う辞令が交付されることになるという趣旨に帰着する原告の主張は、もとより失当である。
G大学病院においては、医員の選考等に当たって、病院長は採用についての判断を医員希望者が配属を希望する診療科の科長に事実上委ねており、担当科長が採用が適当と判断した場合に、当該医員採用希望者の申請書を病院長に提出する方法をとっており、病院長は担当科長の署名・押印が施されている医員申請書の提出を受けた場合に限り、採用を決定していると認めるほかはない。本件においては、N科長が原告に対してその医員申請書に署名・押印を拒否したことは認定のとおりであるから、原告の採用が病院長の選考を経て既に決定済みであったなどとは到底認められないことが明らかである。そうすると原告の主張は失当として排斥を免れず、その他原告を昭和55年度任用期間についても医員として採用する旨の病院長による決定があったことを肯認するに足りるような証拠を見出しえない。
なお、付言すると、担当科長は、当該診療科に所属する個々の医員の資質や勤務状態を最も良く知ることができる立場にあるのに加えて、医員採用希望者が採用された暁には、これを監督すべき責務を負うものであるから、その採否については重大な関心を抱かざるを得ないであろう。担当科長のこのような立場や責任に徴すると、岐阜大学病院に見られる担当科長の裁量的判断・意見に専ら依拠して医員の選考を行うという医員選考方法は必ずしも不合理ではなく、もとよりこの方法を目して違法・不当視することができないことは明らかである。もっともこのような選考方法が取られる場合には、当然のことながら担当科長の意見・判断が恣意にわたることがあってはならないことはもちろんであるが、昭和55年度任用期間について原告を医員として採用するのは適当でないとしたN科長の判断が著しく不当であって、担当科長の裁量の範囲を逸脱したものであるとまで断定するに足りるような証拠を発見することができない。 - 適用法規・条文
- 国家公務員法2条、附則13条、人事院規則8-14
- 収録文献(出典)
- 労働判例454号36頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|