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名古屋市立K中学校臨時教員任用更新拒否事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 名古屋市立K中学校臨時教員任用更新拒否事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 − 昭和60年(行ウ)第23号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 名古屋市 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1988年12月21日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、昭和60年4月2日、欠員補充のため、任期を同日から同年9月30日までとする名古屋市公立学校教員として臨時的任用をされ、市立K中学校の教員として勤務した女性である。
被告市教育委員会は、人事構成の適正化、退職者数の見込みの誤差、教員採用選考合格者のうち採用辞退者の見込みの誤差、原告の学校教育における協調性の欠如等を理由として、同年9月2日、原告に対し、同月30日の任期満了以降任用を更新しない旨告知し、同年10月1日以降の継続任用の意思表示をしなかった。
これに対し原告は、本件臨時的任用以前にも、被告市公立学校教員として繰り返し臨時的任用され、勤務を継続しており、本件臨時的任用の実態は「臨時の職に関する場合」に該当せず、常勤の任用と変わりはないと主張した。その上で、原告は少なくとも1年間は教員として勤務することができると期待し、これを前提として生活設計をしてきたところ、本件任用更新拒否はその期待を侵害をするものであるとして、被告市に対し、6ヶ月間の賃金相当額141万6774円及び慰謝料120万円並びに弁護士費用20万円を請求した。 - 主文
- 1 被告は原告に対し、金33万円及びこれに対する昭和60年10月1日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを8分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 - 判決要旨
- 地公法22条2項所定の臨時的任用は6月以内の期間を定めてする期限付きの任用であるから、当該職員はその任期の満了によって当然に職員たる地位を失うのであり、また、更新は1回に限って認められているが、更新もまた臨時的任用にほかならないから、当該職員の側からこれを請求することはできない。したがって、本件において、原告が諸事情から臨時的任用が更に6ヶ月間更新されることについて強い期待を有していたとしても、行政的にはその期待は事実上のものに留まらざるを得ない。しかし、損害賠償という観点からは右期待の侵害が違法と評価される余地はなお存在すると解すべきである。
本務欠員補充教員の職務内容は本務教員と何ら変わるところがなく、本来は本務教員がそれを遂行すべきところ、主として将来における過員の防止等人事構成の適正化という政策目的のために本務欠員補充教員をしてこれに当たらせるものであるから、職務の性質からは「臨時の職」あるいは「臨時的任用を行う日から1年以内に廃止されることが予想される臨時のもの」とみるのは相当ではなく、また本務欠員補充教員の学校教育における役割に鑑みると、その任用期間を6月以内に制限することに合理性を見出すことができない。このような点に鑑みると、被告において本務欠員補充教員の採用を地公法22条2項による臨時的任用の形式において行ったこと自体に無理があったと評さざるを得ず、そのことのために本来例外であるべき臨時的任用の更新を原則的なものとせざるを得なかったということができる。
右に判示した臨時的任用の問題点に加え、本務欠員補充教員任用の実態、臨時的任用制度の運用態様、本務欠員補充教員の処遇方法、職務内容及び学校教育における位置付け、原告に対する従前の本務欠員補充教員としての臨時的任用の実態並びに経緯等を総合考慮すると、原告が、本件臨時的任用の期間として昭和60年9月30日までと辞令上明示されていたにもかかわらず、菊井中において少なくとも昭和61年3月31日までは勤務できるものと期待したことには無理からぬものがあるということができ、原告が右のような期待を抱くに至った主な原因は、被告ないし市教委が本務欠員補充教員の任用について臨時的任用という形式を採用した上、右形式と実態との齟齬をとりつくろうためにその運用に関しては年度単位で計画、運営される学校教育制度に合わせて1年間の任用期間を前提とするかのような取扱いを重ねてきたことにあるということもできる。そうだとすると、被告は、原告の継続任用に対する前記期待を自ら作出したといえるのであり、任用の更新を妨げるべき特段の事情が存するなど相当な理由がないのに任用の更新をしないことは、正当に形成された原告の期待を侵害するものとして違法な行為といわざるを得ない。ところが、被告は、本件任用更新拒否の際にその理由を明らかにしないばかりか、本件訴訟においても、本件更新拒否の実質的理由について原告の協調性の欠如と抽象的に主張し、その内容として、授業態度に関する臨時学年会開催の拒否、現場教育に関する検討会の中途退場、学年の仕事に非協力、学習進学予定表の不提出等を挙げるもののそれ以上に具体的な主張をしないし、本件任用更新拒否を相当とするような事情の存在を窺わせる証拠もない。以上によると、被告の機関である市教委による原告に対する本件更新拒否は、原告の任用更新に対する期待を違法に侵害するものと評価できるから、被告は国家賠償法1条1項に基づきこれによって原告が被った損害を賠償する義務がある。
本件は原告の任用更新に対する期待を侵害したことを違法行為とするものであって、侵害された利益は飽くまでも精神的利益と解されるから、その侵害に対する賠償は慰謝料に限られるべきである。
一般に賃金労働者は毎月の賃金を生活の基盤とし、またそれを前提として生活設計を立てているものであり、このことは公務員も同様であって、原告も少なくとも昭和61年3月31日までは勤務できるものと期待し、これを前提にして生活設計を立てており、また原告は本件任用更新拒否によって月額23万6129円の収入源を失い、新たに就職先を探すことを余儀なくされたことは明らかである。これに加えて、市教委は原告の期待を侵害して何ら理由を示さずに任用更新をしなかったものであり、これにより原告は少なからざる精神的苦痛を被ったものと認められ、原告の右精神的苦痛は30万円をもって慰謝されるものと認めるのが相当である。また、弁護士費用のうち3万円を本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 国家賠償法1条、地方公務員法22条
- 収録文献(出典)
- 労働判例531号14頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
名古屋地裁 − 昭和60年(行ウ)第23号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1988年12月21日 |
名古屋高裁 − 昭和64年(行コ)第1号 | 原判決破棄(上告) | 1991年02月28日 |
最高裁 − 平成3年(行ツ)第86号 | 棄却 | 1992年10月06日 |