判例データベース
名古屋市立K中学校臨時教員任用更新拒否控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 名古屋市立K中学校臨時教員任用更新拒否控訴事件
- 事件番号
- 名古屋高裁 − 昭和64年(行コ)第1号
- 当事者
- 控訴人 名古屋市
被控訴人 個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1991年02月28日
- 判決決定区分
- 原判決破棄(上告)
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審原告)は、昭和60年4月2日、同年9月30日までの控訴人(第1審被告)市立の臨時的任用教員として任用された女性である。
被控訴人は、従前控訴人市立の臨時的任用教員を務めており、少なくとも1年間は雇用されるものと期待していたところ、同年9月30日の期間満了以降任用されなかった。そこで、被控訴人は、本件任用更新拒否は、少なくとも1年間は雇用されるとの期待権を侵害するものであるとして、被告に対し、6ヶ月分の賃金相当額140万円強及び慰謝料120万円等を請求した。
第1審では、地公法の規定により、被控訴人側から任用を請求することはできないが、期待の侵害の点で損害賠償責任が生ずる余地はあるとした上で、本件任用更新拒否は、被控訴人の期待を違法に侵害したとして、控訴人に対し、慰謝料30万円及び弁護士費用3万円の支払いを命じたところ、控訴人がこれを不服として控訴した。 - 主文
- 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 本務欠員補充教員の職務の性質に徴すると、右教員の職を地公法22条2項所定の「臨時の職に関する場合」及び任用規則39条2号所定の「当該職が臨時的任用を行う日から1年以内に廃止されることが予想される臨時のものである場合」に該当すると見ることには疑問がないとはいえず、控訴人において、相当数を擁する本務欠員補充教員の採用のすべてを地公法22条2項に基づく臨時的任用の形式によって行ってきたことには、幾分無理のあったことは否定できないところである。そして、被控訴人の臨時的任用に関する従前からの経緯等に照らすと、被控訴人において、本件臨時的任用についても更新が行われるものと期待したこと自体にもそれなりの理由がなかったと言えなくもない。
しかしながら、そもそも本件臨時的任用は、地公法22条2項に基づき期間を6ヶ月と定めて行われたものであるから、右期間の満了により被控訴人の臨時的任用職員としての地位は当然に失われるものであり、また、1回に限って認められている更新もまた臨時的任用にほかならないから、被控訴人の側から更新を求める権利はなく、任命権者に更新すべき義務を認めることもできない。したがって、被控訴人が従前の経緯等から本件臨時的任用に際して更新がなされるものと期待していたとしても、それは単なる希望的観測とでもいうべきものに過ぎず、法的に保護された権利又は利益とは認められない。
もっとも、期間の更新をしないことが、諸般の事情に照らして著しく不当であって、任命権者がその裁量権を逸脱したと認められる特段の事情がある場合には、不法行為の成立する余地もあり得ると解されるところ、少なくとも勤務校である菊井中学校側から見た場合、他の教員等に対する協調性の欠如等の指摘がなされており、これらの事情に鑑みると、本件任用更新拒否をもって、著しく不当であって任命権者がその裁量権を逸脱したと認められる特段の事情がある場合に当たると評価することはできない。
確かに、公務員法が、公務員(教員)について恣意的な人事からの身分保証を確保することをその目的の一つとしていることは被控訴人主張のとおりであり、また、本件臨時的任用制度に幾分無理な点のあったことも否定できないところではある。しかしながら、教員の任用についてどのような方法を採用するかは、教育行政に携わる者の裁量に委ねられている部分も少なくなく、あらゆる場合に教員採用に関する本務採用の原則が貫かれなければならないということは法と実情とを無視した一方的な見解に過ぎず、右の制度自体は地公法及びこれを受けた任用規則に基づくものであって、法律上の根拠のない違法なものということはできない。以上によれば、控訴人に不法行為責任があるとは認められず、被控訴人の本訴請求は理由がないことに帰する。 - 適用法規・条文
- 地方公務員法22条
- 収録文献(出典)
- 労働判例587号57頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
名古屋地裁 − 昭和60年(行ウ)第23号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1988年12月21日 |
名古屋高裁 − 昭和64年(行コ)第1号 | 原判決破棄(上告) | 1991年02月28日 |
最高裁 − 平成3年(行ツ)第86号 | 棄却 | 1992年10月06日 |