判例データベース
K市労働相談所相談員雇止控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- K市労働相談所相談員雇止控訴事件
- 事件番号
- 札幌高裁 − 平成3年(ネ)第353号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 K市 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1995年08月09日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、昭和46年6月1日、被控訴人(第1審被告)市長から労働相談員の辞令を受け、一旦病気による退職をしたものの、再び労働相談員として任用され、昭和58年3月31日限りで任用が終了した。これに対し控訴人は、期限の定めのない一般職公務員として任用されたこと、そうでないとしても期限の定めのない特別職(非常勤嘱託職員)として任用されたこと、仮に期限の定めがあったとしてもその期限は無効であることを主張して、主位的には被告の職員であることの確認、予備的には給与相当額及び慰謝料553万円余を被控訴人に対し請求した。
第1審では、控訴人は地方公務員法上の非常勤の嘱託員としての任用であり、解雇法理が適用される余地はなく、被控訴人市長が控訴人を労働相談員として任用しなかったことに違法はないとして、控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴したものである。 - 主文
- 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 公務員の任用は相手方の同意を要するものの、任命権者による行政行為の性質を有するものであるから、公務員がいかなる地位、身分を取得するかは、任命権者が法の予定している任用類型のうちいずれを選択したかということによって定まるものである。そして任命権者の右の意思は、辞令の記載により判断されるべきものではあるが、これにより任用類型が必ずしも明らかでないときは職名やそれを規定する法令などを資料として解釈されるのであり、当該公務員の担っている職種、勤務条件などの実態のみによって、任命権者の右意思が確定されるものではない。被控訴人の市長は控訴人を地方公務員3条3項3号所定の特別職の地方公務員として任用し、かつ控訴人をそのように処遇してきたことが優に認められる。
被控訴人の市長は、もともと釧路市労働相談室規程に基づいて原告を労働相談員に任用したものであって、同規程には労働相談員の任期は1年と明記されていること、雇用労働相談規程に改訂後も同様であること、原告はその後は辞令上も1年を超えない任期を定めて任用が更新されていること、原告は病気のため昭和48年3月31日限りで退職扱いになり、同年5月7日、改めて労働相談員の辞令を受けたことからすると、原告の任用は当初から任期の定めがあり、その後も期限付きの任用が繰り返されていたと認めることができる。そして、控訴人が「臨時又は非常勤」の特別職として任用されたこと、被控訴人市長が控訴人を労働相談員に任用したのは、控訴人のこれまでの活動に着目したからであり、そのような控訴人の学識経験を生かして広範な相談業務を処理することを期待していたものであること、労働相談員の任用は必ずしも特定の人物に固定させておくことは相当でなく、その時々の労働相談の内容によってその問題の解決に相応しい適宜の相談員を任用する必要性があり、労働相談員を恒常的に任用することを回避する必要性があることなどの事情を考えると、労働相談員の任期を1年間と定めて任用することを違法であると断定することはできないというべきである。
期限付き任用と期限の定めのない任用とは性質の異なる別個の行政行為であるから、期限を付した特別職への任用がいくら繰り返されたとしても、一般職や期限の定めのない任用へと転化することはあり得ないのは当然である。もっとも私人間の労働契約においては、短期の期限を付した雇用契約が多数回更新されており、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であった等の事情があって、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたと認められる場合には、その更新拒絶に解雇に関する法理が類推適用されることがあるが、原告に対して任用のつど辞令の交付が行われて新たなる任用が行われていることが明確にされている本件にあっては、右の法理が適用になる余地はない。
そもそも特別職の地方公務員の任用には厳密な成績主義の適用がないから、法令によって当然に特別職の地方公務員とされる場合を除いて、特別職の地方公務員を任用するについては任命権者に広範な裁量権が与えられているというべきであって、右裁量は特別職の地方公務員を再任する場合においても同様であると解すべきであり、私怨などを理由としてことさらに任期を拒否するなど、その裁量を著しく逸脱したと認められるきわめて例外的な場合を除いては、特別職に任用しなかったという不作為は当不当の問題は生じても違法の問題は生じないものと解するべきである。
控訴人に交付された辞令においていずれも相談員に嘱託すると記載されていたから、控訴人が釧路市雇用労働相談室規程に定める職員として任用されたものでないことは明らかである。また控訴人の職務内容が非専務職の特別職である非常勤の労働相談員と相違して労働者性を有し、上司の指揮監督の下に事務を処理し、月額報酬を支給されてきたという控訴人の職務の実態についいては、これによって任命権者である市長の任用意思が確定されるものでないことは既に説示したところである。 - 適用法規・条文
- 地方公務員法3条3項
- 収録文献(出典)
- 労働判例698号70頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
釧路地裁 − 昭和58年(ワ)第86号 | 棄却(控訴) | 1991年11月22日 |
札幌高裁 − 平成3年(ネ)第353号 | 棄却 | 1995年08月09日 |