判例データベース

学校法人S学院教員不倫解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
学校法人S学院教員不倫解雇事件
事件番号
大阪地裁 − 平成8年(ワ)第1027号
当事者
原告個人1名

被告学校法人S学院
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年08月29日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は中学及び高校を設置する学校法人であり、原告は被告の設置する学校で体育教員として勤務し、被告の事務職員Aと結婚して3人の子供を有している男性である。

 原告は、平成6年8月5日、サッカー部に所属する子らの保護者が集まったパーティーで、生徒の母親Bと意気投合し、その夜情交関係を結び、以後数回情交関係を結んだ。Bは夫Cと別居状態にあり、同年12月に離婚した。原告は平成7年12月14日、BとCに呼び出され、Cから不倫関係を非難され、暴行を受けて、校長に退職の意思表示をした。同月20日、校長は原告と妻Aに会い、原告を首にすべきだという理事長の話を伝え、退職を勧めたので、原告は退職願を提出した。しかし、その後すぐに原告は校長に対し退職願を撤回した。
 同月22日、原告とAは文書で職場復帰を求めたが、理事長はAについてのみ職場復帰を認めた。原告は本訴を提起して雇用関係の確認を求めたが、被告は平成8年7月19日の口頭弁論期日に原告を懲戒解雇する旨意思表示をした。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 平成7年12月20日における原告の退職願の提出は雇用契約の合意解約の申込みと認めることができるところ、労働者による雇用契約の合意解約の申込みは、これに対する使用者の承諾の意思表示が労働者に到達し、雇用契約終了の効果が発生するまでは、使用者に不測の損害を与えるなど信義則に反すると認められるような特段の事情がない限り、労働者においてこれを撤回することができると解するのが相当である。認定事実によれば、原告は合意解約の申込みから約2時間後にこれを撤回したものであって、信義に反すると認められるような特段の事情が存在することは窺われず、原告は理事長による承諾の意思表示が原告に到達する前に合意解約の申込みを有効に撤回したものと認められるので、被告の合意解約が成立した旨の主張は理由がない。

 

 教育者たるものには教育者にふさわしい高度の倫理と厳しい自律心が要求されているところ、教育者としての地位にあり結婚して子供もありながら、真摯な愛情に基づくわけでもなく、生徒に対する部活動の指導の中で知り合った当該生徒の母親と情交関係を繰り返していた原告の行為は、社会生活上の倫理及び教育者に要求される高度の倫理に反しており、被告の勤務規定が懲戒事由として定める「教職員としての品位を失い、学院の名誉を損ずる非行のあった場合」に該当するということができる。

 教師には生徒の保護者と協力して生徒の健全な育成を目指すことが期待されるところ、原告は妻子がありながら原告の指導する生徒の母親と情交関係を持ったものであって、原告の行為は単なる私生活上の非行とはいえず、社会生活上の倫理及び教育者に要求される高度の倫理に反しており、教職員としての品位を失い、被告の名誉を損ずる非行に該当すること、Bの子供2人とCの兄の子供は、3人とも被告の中学校に通いサッカー部に所属していたが、平成8年3月末をもって同中学校を退学しており、子供らに対する教育上の悪影響が心配されること、被告は、その生徒のほとんどが韓国籍を有し、在日韓国人の子女であるか韓国企業の日本駐在員の子女であって、在日韓国人団体、在日韓国人篤志家、韓国政府から多額の援助を受けている等の民族的特色を有しているところ、韓国刑法は姦通罪を規定しているなど、韓国においては儒教的な性的倫理観・道徳観が強いことから、原告の行為は被告がその基盤とする韓国人社会からの被告に対する信用を傷つけるものであること、校長がCに対する対応等事後処理を余儀なくされ、警察から事情聴取を受け、韓国政府から監督不行き届きを指導されたことに照らすと、原告が問われるべき責任は軽いものとはいえない。
 右によれば、妻Aが原告を宥恕していること、原告とBの関係の発覚時には、その関係が終了していたこと、懲戒解雇の意思表示時点では右発覚時より約7ヶ月が経過していたこと等原告に有利な点を考慮しても、原告に対する懲戒解雇が相当性を欠き懲戒権を濫用したものと認めることはできない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
平成10年度労働関係判例命令要旨集239頁
その他特記事項