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K女学院女性教師雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
K女学院女性教師雇止事件
事件番号
福岡地裁久留米支部 - 平成11年(ワ)第156号
当事者
原告 個人1名
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年04月27日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、K女学院高等学校、同中学校などを設置する学校法人であり、原告は、平成10年4月1日、常勤講師として被告に雇用され、高校1年の現代社会、中学校3年の公民等の授業を担当していた女性である。被告校長は、各教諭から原告の生徒指導や授業等について報告を受けていたところ、原告には教師としての適格性がないものと判断し、同年12月、原告に対し、平成11年3月末日をもって雇用契約を終了させる旨通知した。
 これに対し原告は、採用試験の案内には契約期間が1年であるとの記載がなく、面接の際にも、校長から「よほどのことがない限り2年目以降も大丈夫」と言われたから、原告が締結した常勤講師契約は実質的には期間の定めのないものであること、仮に期間の定めがあるとしても、これは試用期間と解すべきであること、被告がなした契約終了の意思表示は、実質的には解雇の意思表示にほかならず、解雇事由が存在しなければなし得ないものであるところ、原告は教師として真摯にその職務に従事しており解雇事由は存在しないとして、雇用契約上の権利を有することの確認と賃金の支払いを請求した。
主文
原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 常勤講師の法的性質

 原告は、面接の際に、期間1年の常勤講師との説明を受けておらず、そのことに気づいてから校長に確認したところ、2年目以降もよほどのことがない限り大丈夫と説明されたと主張するが、校長は期間1年の常勤講師であると説明したと明確に証言しており、被告の教諭もその旨証言しているから、原告の供述は採用できない。

(1)原告は期間1年の常勤講師契約書に署名押印していること、(2)被告においては、平成元年以降、期間1年の常勤講師契約を締結した上で、その期間内に教員としての適格性を判断し、適格性があると判断した場合に専任教諭の辞令を交付しており、校長は面接の際に原告にその旨伝えていたこと、(3)労働法規には、労働契約締結に際して期間を設定するに当たり、その期間の趣旨・目的に格別の制限を設けておらず、適格性判断の目的で有期契約を設定することも可能であること、(4)学校教育は1年を単位に行われており、1年間という期間も合理的といえることからすると、期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情は認められないので、その期間は契約の存続期間ではなく、試用のために設定されたものであって、雇止めには適格性判断の観点から客観的に合理的で社会通念上相当な理由を要する契約であると解するのが相当である。

2 原告の教員としての適格性

 (1)原告は、中学3年生と授業に関してのトラブルが続き、生徒に対して行ったアンケートには、授業のやり方や態度について原告に対する不満・要望が数多く記載されていたこと、(2)原告は高校1年の生徒と口論になり、生徒2人に対して「頭がおかしいんじゃない」と言ったこと、(3)原告は高校1年の生徒と合唱コンクールの準備作業のことで口論となり、学級委員長などとも揉めてしまったこと、(4)高校1年生の演劇部員が居残り届出を出したにもかかわらず、これを原告が確認せずに注意し、2年生と差別した等により、トラブルとなったこと、(5)同僚教師と授業内容についての打合せの際、原告が準備をしていないことが何回かあったほか、生徒や教師個人の非難に終わり、原告には生徒や教師との関係を改善したいという姿勢は感じられず、校長や教師の指導・助言を聞こうとしなかったこと、(6)高校2年の生徒2名が校長に対し、90名の署名と共に、生徒の質問を受け付けない、授業内容の間違いを指摘してもそれを認めないなど原告の授業内容についての不満、生徒に対する言葉遣い等が教師として適当でない、生徒の意見を聞かないといった原告の態度に対する不満を記載した嘆願書が提出したことなどが認められ、これを受けて校長は、原告には他人の話や助言等を真摯に受け止める資質が欠け、基本的に自分が正しく相手が間違っているという態度が認められ、教師としての適格性がないものと判断し、原告に対し契約を1年で終了して専任教諭として採用しない旨原告に伝えたことが認められる。 

3 雇止めの適法性

 原告には、授業や部活動において生徒を指導する際に、生徒の話を受け止めた上で自分の意見を述べる姿勢がなく、共感性が不足していたために、生徒と口論になることが多く、生徒らは本件訴訟を知るや、自主的に原告の復職反対の署名活動を行って、約90名もの生徒が署名しており、理由も具体的かつ詳細に記載されている。これらのことからすると、生徒は原告の指導や授業内容等について相当不満を有していたと認められ、原告の生徒指導のあり方には相当問題があったと言わざるを得ない。また、原告が副担任をしていたクラスの担任の教諭らが、原告の生徒指導のあり方や授業を心配して、原告と毎週打合せを行ったり、日常的に助言をしたり、原告が生徒とトラブルを起こした際に助言・指導を行ったりしたが、原告の生徒指導、授業内容などが改善された様子はなかったのである。
これらのことからすると、原告には、生徒の話や他の教師の指導・助言を真摯に受け止める資質に欠けており、早期に改善を図ることも困難であるので、教師としての適格性に問題があると判断して、被告が原告を雇止めにしたことには、客観的に合理的で社会通念上相当な理由があるものと認められる。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働経済判例速報1775号3頁
その他特記事項