判例データベース
M社英会話講師雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- M社英会話講師雇止事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成12年(ワ)第14363号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年12月28日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は電気製品等の製作販売会社であり、「人材開発センター海外研修所」を設置して社員対象の英会話訓練を実施する他、社外の一般市民対象に英会話教育を提供する活動をしていた。原告は、オーストラリア国籍を有する英会話教師であり、平成7年10月1日付けで被告の研修所の英会話講師に採用された女性である。被告と原告は、平成8年4月以降、1年間の雇用期間を反復更新してきたが、被告は平成12年4月24日付けの書簡をもって、契約更新を拒絶した。
これに対し原告は、本件雇用契約は実質的に期間の定めのない雇用契約の状態で存続してきたものであり、あるいは期間満了後の継続雇用を期待することに合理性が認められる状態に至っていたものであるから、その更新拒絶には解雇法理の類推適用があるというべきであるところ、本件更新拒絶には合理的理由がなく無効であること、仮に解雇法理の類推適用がない場合であっても、本件更新拒絶には合理的な理由がないから、信義則ないし権利の濫用として無効であると主張し、被告の従業員たる地位を有することの確認と賃金の支払いを請求した。また原告は、エクセル語学教室担当責任者Aが、講師の欠員や休講が生じる都度、言葉汚く原告を責め、原告が体調を崩して授業を行えなくなった際、代替講師の手配等に不手際があったとして原告を怒鳴りつけたこと、当初原告を高く評価していたBも平成10年6月以降、原告に対して評価を180度転換し、原告に対する非難を強めるなどの人格権侵害行為を行ったとして、これらの行為による精神的苦痛について被告に対し100万円の慰謝料を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告は、本件雇用契約の更新手続きが形式的なものになっていた旨主張するが、毎年授業日数も異なっており、契約書の作成もされているのであって、更新手続きが形骸化していたと認めることはできない。被告における語学講師は、授業時間以外を拘束されるものではなく、原告においても他に勤務しており、担当した授業時間は多い年でも週に7時間30分である上、1年ごとに生徒数が増減する性質のものであって、更新手続きも、更新時期ごとに雇用契約書を作成し更新してきたものであることからすると、本件雇用契約は純然たる期間の定めのある雇用契約であって、これが実質的に期間の定めのない雇用契約の状態で存続してきたということはできない。
また原告は、本件雇用契約が期間満了後の継続雇用を期待することに合理性が認められる状態に至っていた旨主張するが、本件雇用契約において、被告が更新を約束したとは認められず、本件雇用契約の拘束性が低いものであって、1年ごとに契約書を取り交わし、毎年授業時間などにおいて内容が変化していたことに鑑みれば、継続雇用を合理性をもって期待させる状態には至っていなかったといわなければならない。
更に原告は、本件に解雇法理の類推適用がない場合であっても、信義則ないし権利の濫用として、本件更新拒絶が無効となる旨主張するが、本件雇用契約が期間の定めのある雇用契約である以上、期間の経過によって雇用契約関係は終了するのであって、契約更新の合意がない限り、新たな契約関係の成立はないのであるから、上記原告の主張は採用しない。
原告はエクセル語学教室のチーフインストラクターとして、他の講師を統括する地位にあり、講師の補充や人選を巡ってAと意見が食い違うことが多く、Aが原告を責め、時には厳しいことを告げたことを認めることはできるものの、Aは語学教室のシニアスタッフとして講師の採用などについて権限を有していた者で、その立場から原告に講師の補充や人選について要求したことは、その職務上当然のことであり、これが原告の考え方と相違しても、それを直ちに違法ということはできない。
Bは、原告が採用された当初は原告を高く評価していたものの、その後評価を下げ、平成9年6月以降、原告の声が大き過ぎ、威圧的であるなどと言って原告の授業の改善を求めるようになり、平成11年3月には、条件付で本件雇用契約を更新する旨の通知をしたりしたが、平成12年4月24日、本件更新拒絶を通知するに至ったことを認めることができる。これを鑑みるに、当初5の評点をつけていた項目を1の評点としたことは、客観的な評価としては疑問があるが、生徒の評価においては、原告は毎年最下位ないしこれに近いものであったことが認められ、Bが原告に授業の改善を求めたにもかかわらず生徒の評価は改善しなかったこと、Bは2項目以外については特に悪い評価をしたという部分はなく、1をつけた理由は原告がBの改善要求に応えていない点にあると認められるから、Bが原告に対する評価を低くしたことをもって、これを不法行為に当たるとすることはできない。
また原告は、本件更新拒絶が原告に対する不法行為となる旨主張するが、本件雇用契約が期間の定めのある雇用契約であって被告に更新義務はないから、本件更新拒絶を不法行為に当たるとすることはできない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1807号12頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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