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ゴルフ場経営会社雇用契約更新拒絶事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- ゴルフ場経営会社雇用契約更新拒絶事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成6年(ワ)第4416号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年06月20日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告は、ゴルフ場の運営等を業とする会社であり、原告は昭和52年9月被告に入社し、昭和54年秋のプロテスト合格を機に被告の正社員となり、期間の定めのない雇用契約に基づきKカントリークラブの所属プロとして勤務していた者である。
被告は、原告がプロゴルファーという特殊な立場にあり、出勤日数や出勤時間等就業規則所定の労働条件を遵守することが困難であることから、実態に合うよう契約形態の変更を申入れ、平成2年1月1日から同年12月31日までの嘱託契約を締結し、以後1年ごとに契約更新をしてきたが、平成5年11月27日、原告に対し、リストラによるとして、平成6年以降の更新をしない旨通知した。
これに対し原告は、被告との間で期間の定めのない雇用契約が締結されていたところ、被告が期間を1年間とする委託契約(本件契約)に変更したものであるが、本件契約は被告が何ら合理的理由を示さずに一方的に締結させたものである上、本件契約締結前後を通して労働状況に変化がなかったこと等から、本件契約締結後もそれまでと同様期間の定めのない雇用契約であったと主張した。そして本件更新拒絶の意思表示は解雇の意思表示であるから合理的理由が必要であるところ、解雇には合理的理由がないから解雇権の濫用に当たり無効であるとして、雇用契約の存在の確認と賃金の支払いを請求した。また原告は、被告代表取締役等が経理担当社員Nの横領した金員が原告に流れた旨発言をし、従業員やクラブの会員に対してもこれを理由に雇用契約の更新を拒絶した旨の風説を流布したため、プロゴルファーとしての名誉が著しく侵害されたとして、慰謝料1000万円を請求した。 - 主文
- 1 原告が被告に対し、雇用契約上の権利を有することを確認する。
2 被告は、原告に対し、金42万円及び平成6年3月以降毎月20日限り、1ヶ月金21万円の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の、その3を被告の、各負担とする。
5 この判決の第2項は、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 本件契約書には、本件契約が期間を1年間と定めたものであり、右期間の経過により当然に終了すること、そして、更新により期間経過後も契約が継続することが明確に記載されており、これを読めば本件契約の期間が1年間であり、右期間の経過により当然に終了するものであることを認識できるというべきである。そして原告は、本件契約書の交付を受けて数日後に署名・押印して被告に提出したのであるから、原告は本件契約書の記載を了知し、その趣旨を了解した上で本件契約を締結したといわなければならない。
確かに、本件契約の前後をとおして、原告の労働状況に大きな変化はなかったが、本件契約は、プロゴルファーである原告の勤務実態に合致した契約形態とすることを目的として締結されたのであるから、その前後で労働状況に変化がないことはむしろ当然といえる。また、本件契約締結の際原告に退職金等が支給された形跡はないが、これは被告の事務処理上の過誤であったと考えられる。したがって本件契約がそれ以前と同様、期間の定めのない労働契約であったとすることはできず、本件契約は所定の終期である平成2年12月31日の経過によって終了すべきものである。
本件契約の更新手続きについては、被告が契約期間満了日の30日前までに原告に対して更新の通知をなし、原告が通知を受けた日から10日以内に反対の意思表示をしないときは契約が更新されたものとする旨規定されていたのであるが、被告は平成5年までの3回の更新手続きについて具体的な主張、立証をしないし、原告は本件契約の更新は行われなかった旨供述しているから、契約期間満了の際に更新が行われていたと断定することはできず、本件契約の当初の契約期間満了後の平成3年1月以降も原告が稼働していたことについて、被告がこれを知りながら異議を述べなかったとするほかはないから、本件契約は民法629条1項により、期間の定めのない労働契約として継続していたことになる。そうすると、本件契約が終了したとするためには、契約期間満了以外の終了原因が必要となる。
被告は、原告の契約違反行為として、出勤日数が少なかったこと、社外レッスンにつき被告の明示の承認を得なかったこと及びタイムカードの打刻を怠るようになったことを指摘する。確かにこれらの事実が認められるが、被告も原告が社外レッスンをしていたことを承知しながら特段の咎め立てをしていなかったこと、原告については出退社時間がさほど重要ではなかったことから、これらの事実をもって原告の解雇を正当化することはできないといわなければならない。また被告は、原告のプロゴルファーとしての実績に見るべきものがなく、被告に対する貢献が少なかったこと、原告が獲得したクラブ会員が僅少であったことを主張するが、本件契約書には競技大会での成績やクラブ会員の勧誘を原告の業務内容とする明確な定めはないこと等からすれば、右事実を原告の解雇理由とすることはできない。更に被告は、原告に依頼すべき業務が少なくなった旨主張するが、その証拠はないし、被告が、原告の無給で稼働するとの申入れにも応じなかったことも考え合せれば、右の事情を解雇事由とすることもできない。
以上のとおり、被告の主張する各事由は、いずれも原告に対する解雇の根拠たり得ないものである。更に、本件契約更新拒絶の理由として原告に告げられたのは、リストラであるというにすぎなかったところ、被告の主張する右諸事情が真に本件契約の更新拒絶(解雇)の理由とされていたのかについても、疑問が残るといわなければならず、結局、本件契約の更新拒絶の実質が原告に対する解雇の意思表示であったと捉えるとしても、右解雇は解雇権の濫用に該当し、無効というべきである。
以上から、本件契約は、当初の終期である平成2年12月31日を経過した後は期間の定めのない労働契約として存続しており、被告の主張する諸事情は、本件契約の解雇事由たり得ないのであるから、被告の解雇(更新拒絶)は無効というべきである。
被告の経理事務を担当していたNが、被告の金員を着服していたこと、原告がNとの間で男女関係があり、Nが横領した金員を取得したなどの噂が出ていたが、Nから事情聴取した取締役は原告を特定せずに社内の男と関係がないかどうか質したに過ぎないから、原告の名誉が損なわれたとすることはできないし、Nが横領した金員が原告に渡っているとの噂が被告の社内やクラブで出ていたとしても、右の噂を被告の関係者が流布させたことが認められる的確な証拠はないのであるから、これについて被告が不法行為責任を負担するいわれはないというべきである。 - 適用法規・条文
- 民法629条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1640号9頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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