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A相互銀行配転拒否仮処分申請控訴事件

事件の分類
配置転換
事件名
A相互銀行配転拒否仮処分申請控訴事件
事件番号
仙台高裁 − 昭和43年(ネ)第83号
当事者
控訴人 株式会社A相互銀行
業種
金融・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1970年02月16日
判決決定区分
控訴棄却
事件の概要
 控訴人(第1審被申請人)は、相互銀行を営む株式会社であり、被控訴人(第1審申請人)はその従業員である。控訴人は、昭和41年8月、被控訴人らに対し転勤命令を発した。このうち被控訴人については、秋田市へ通勤可能な昭和町から遠隔地である横堀への転勤命令であったため、被控訴人はこれが組合活動を理由とする不当労働行為に当たるほか、新婚間もない被控訴人に別居生活を強いるものであって、公序良俗、信義則に反し無効であるとして、配転拒否の仮処分を申請した。
 第1審では、控訴人は本件転勤によって被控訴人が夫婦別居生活を送らざるを得ないことを熟知しながら、別居解消のための手段を講じることなく遠隔地に配転させたことは、精神的・経済的その他私生活の面において不利益な取扱いをしたものと認められること、本件転勤命令は主として被申請人の組合活動に対する動機に基因すると認められ不当労働行為に該当すると判断し、これを無効と判断したことから、控訴人が不服として控訴したものである。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
一般に労働契約においては、特別の合意がない限り、労働者が自己の提供する労働力の使用を包括的に使用者に委ねるものであり、使用者は、この契約上の権限に基づき労働者の給付すべき具体的労働の種類、態様、場所等を個別的に決定し又はその変更を命じ得るのであるが、労働の場所は、それが実際上労働者の生活に重大な影響を及ぼす労働条件であることに鑑みると、賃金等と並んで労働契約の内容をなすものというべきである。したがって右労働場所の変更をきたす転勤命令を、使用者の単なる事実上の指示ないし指揮命令の関係と同視することはできず、当該労働契約の内容に変動を生ぜしめる形成的意思表示であると解され、それによって被控訴人の法的地位に変動を生ずると解されるから、その権限の行使の当否は民事訴訟の対象となり得ると解される。

 被控訴人に係る転勤命令は、一応就業規則に定める「業務上の都合」に基づいて発せられたものであるということができるが、被控訴人が入行以来主に担当してきた日掛の集金は銀行業務のうちで最も単純・初歩的な職務で、決して専門的知識や長期間の経験を必要とするものではないこと、被控訴人のみが得意先係以外の職務に不向きであったとはみられないこと、控訴人の昭和41年度からの3カ年計画によると、横堀支店はむしろ縮小の方向にあり、昭和42年4月に定員が1名減となったことが疎明されることから、控訴人が対象者として被控訴人以外になかったかのごとくいうことは、たやすく首肯することはできない。また、被控訴人が本件定期異動の異動対象者に挙げられたこと自体にはそれ相応の理由がないわけではないが、3年ごとの異動ということは必ずしも絶対的なものではなく、昭和支店の支店長との人間関係の改善という点も、同支店長が被控訴人と同日の異動により他に転出していることからみると、当時の被控訴人の個人的事情を考慮するとき、転出時期を多少猶予してやる等の措置もとれないほどに差し迫った業務上の必要性があったものとは認め難い。

 被控訴人とCは、昭和41年9月に婚姻し、横堀と秋田に別居しながら共稼ぎを続けたこと、被控訴人が転勤前に勤務した昭和町は秋田市からの通勤も可能であるのに反し、横堀は急行列車で2時間もかかるので、被控訴人は結婚直後から精神的・肉体的・経済的に非常な苦痛を受けたことが一応認められ、この苦痛が転勤に伴う通常の不利益に過ぎないとの控訴人の主張は社会通念に照らし採用し難い。また、労組執行委員長として秋田市での執行委員会への出席その他同人の組合活動が時間的・経済的な面で転勤前より大幅に制約される結果となったことは明らかである。

 控訴人では、人事異動に当たり、個人事情も可能な限り斟酌することとしており、過去において妻の出産を理由に発令を延期したりした例があり、同年の異動に際しても、すでに異動期にありながら、個人事情により異動対象から外された者が少なからず存在するが、これらはいずれも従組員若しくは非労組員であること、これに対し被控訴人については、転勤させれば夫婦が結婚直後から別居せざるを得なくなることは人事当局でも十分予想したけれども、転勤による夫婦別居例はこれまでにもあったこと、控訴人内における夫婦共稼ぎは被控訴人が初めてであり、控訴人としては情実防止の点から好ましくないと考えたこと並びに将来別居を解消する機会がないわけでもないなどの理由から本件転勤により夫婦別居をきたしてもやむを得ないとして発令したことが一応認められる。

 本件転勤命令が控訴人の業務上の都合のみから発せられたものとしてはその合理性と必要性が乏しく、これに対し、被控訴人は右命令により自らの組合活動に不便をきたしたほか、近く結婚を予定し秋田市に居住して共稼ぎする必要から、秋田市内支店勤務を希望したのに、挙式を3週間後に控えた時期に至り、従来の勤務先よりはるかに遠隔地である横堀に突然転勤を命じられ、結婚と同時に別居生活を余儀なくされたものであって、その苦痛ないし不利益が何人の立場からも耐え難いものであることは社会通念上容易に理解し得るところである。したがって、かような被控訴人の事情を認識していた控訴人の人事当局者としては、可能な限りかかる苦痛ないし不利益を緩和するよう配慮すべきが当然である。しかも、本件のように夫婦が同一企業に勤務している場合にはそうでない場合よりも右のごとき人事上の配慮をしやすい面があるのであり、結婚直後から夫婦別居を余儀なくされる事例はさほど頻発するものでないことに思いをいたすならば、本件の場合にも、控訴人としては今少し寛容かつ柔軟な措置をとることが十分期待されて然るべきであったということができる。
 以上の点に加え、控訴人における労使関係、労組及び被控訴人の活動状況、これに対する銀行側の態度等を総合すれば、本件転勤命令は、ひっきょう、労組の存在を快しとしない控訴人が被控訴人の不利益の発生を十分認識しながら、同人及びCが労組の活動家ないし組合員であることに対する反情を主たる動機としてなした差別的取扱いであると推認するのが相当である。したがって、本件配転命令は労働組合法7条1号の不当労働行為として無効である。
適用法規・条文
労働組合法7条
収録文献(出典)
その他特記事項