判例データベース
S社配転拒否仮処分申請事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- S社配転拒否仮処分申請事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和44年(ヨ)第2212号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1970年08月13日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は、電線、防振ゴム台、ゴム等の製造販売を業とする会社であり、債権者は昭和27年に債務者に雇用され、昭和41年9月以降東京支店に勤務していた者である。
債務者は、昭和43年9月25日、債権者に対して同年10月5日から大阪支店駐在勤務を命ずる旨の命令(本件命令)を発した。これに対し債権者は、大阪へ赴任したものの、本件命令は、債務者が債権者の組合活動を嫌悪して組合活動が不可能な大阪支店への配転命令をしたものであるから不当労働行為に当たること、債権者を共産党員であると見て配転を命じたものであるから、思想による差別に該当すること、債権者の承諾なしに大阪支店に配置換えするものであるから労働契約に反し無効であると主張したほか、債権者は父母の生活を援助すべき立場にあるところ、その精神的援助は困難になり、また土地を買い求めて準備中の家屋建築も不可能となり、生活設計に重大な支障を来したほか多大の精神的肉体的経済的負担を強いられたことを主張し、大阪支店への配転命令の効力を仮に停止する旨の仮処分命令を申請した。 - 主文
- 本件仮処分申請を却下する。
申請費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 1 債権者の家庭生活上受ける不利益
債権者は本件命令発令当時横浜市に妻及び子供2人とともに居住し、債権者の父(66歳)及び母(60歳)とは別居していること、債権者は父母を引き取って同居すべき事態を予期し、横浜市に土地を買い求め、そこに居宅を新築する心づもりでいたこと、しかしながら債権者の右住居はその妻の両親宅のすぐ近くにあり、かつその所有であって、債権者はこれを賃料をもって賃借していることが疎明される。以上の事情の下では債権者主張の父母との同居及び自宅新築は到底火急のこととは認められないから、仮処分の必要性を肯定するに足りない。また、債権者が本件命令に異議を留めつつも従ったことにより、このほかに若干の精神的肉体的経済的負担を余儀なくされたことは容易に推認されるけれども、この不利益もまた本件仮処分命令の必要性を充足するに足りない。
2 組合活動上受ける不利益
債権者が債務者に雇用された後組合に加入し、昭和39年8月から昭和43年7月まで組合の執行委員であり、同年7月の執行委員選挙に立候補し落選したところ、大阪支店での組合活動は一般的にいって従前から東京支店より低調であって、債権者は大阪支店に赴任したものの、組合活動上東京支店在勤中とは異なる種々の困難に逢着していること、債権者は得意先に出張して執務することが多く、他の組合員と接触する機会に乏しいことが疎明される。代議員会の構成員である代議員は大阪支店勤務の組合員からは選出されないから、債権者は代議員となる機会を全く失うといえるが、東京支店に留まっていた場合代議員に選出される可能性はあっても、これが確実であるとはいい難い。執行委員は全組合員の投票により選出されるが、組合員数の関係上大阪支店からの立候補者は、東京支店からのそれに比して選挙運動上不利益であることは一般的にいって否定できない。しかし元来債権者は東京支店在勤中の昭和43年の選挙に立候補落選しているので、たとえ債権者申請のような仮処分命令が発せられ、債権者が東京支店に仮に復帰し再び執行委員に立候補した場合、当選が確実であるとは認められない。一方、債権者が大阪支店赴任により、組合活動上東京支店在勤中とは異なる種々の困難に逢着していることは前述のとおりであるが、大阪支店においても組合活動が不可能なわけではないから、本件仮処分の必要性を充足するものとはいい難い。
以上のとおり債権者は本件命令によって組合活動上前記のような限度で種々の不利益を受けることは明らかであるけれども、冒頭に説示したような見地に立つとき、いまだ本件仮処分命令を発するに足りるだけの必要性ありとはなし難い。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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