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A大学非常勤講師雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
A大学非常勤講師雇止事件
事件番号
東京地裁 − 昭和60年(ワ)第5740号
当事者
原告 個人1名
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1988年11月25日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、A大学を設置するする学校法人であり、原告はインドで生まれ、昭和38年4月に被告に雇用され、21年間英語、ヒンディー語を教えてきた非常勤講師である。
 原告は、毎年4月1日から1年間の期限付きで被告に雇用され、雇用契約の更新を続けていたところ、被告は昭和59年4月以降、原告との雇用契約が終了したとして原告の就労を拒否した。これに対し原告は、被告は採用に当たって雇用期間が1年限りとは言わなかったこと、「非常勤講師は、あらかじめ期間を定めて、これを嘱任する」との教員規定は、原告の採用時には施行されていなかったこと、辞令交付時期は毎年4月下旬から5月上旬であったこと、専任教員と非常勤講師の区別は労働時間の区別に過ぎないことを挙げ、原・被告間には期間の定めのない雇用契約が存在すること、仮に本件契約が期間の定めのあるものであったとしても、遅くとも本件解雇までには期間の定めのない契約に転化したこととして、雇用契約上の地位の確認と賃金の支払いを請求した。これに対し被告は、本件雇用契約は期間が1年と定められ、昭和59年3月31日限り非常勤講師の地位を失ったこと、仮に本件雇用契約を終了させるのに正当な理由が必要であるとしても、原告はヒンディー語の専門家ではなく、原告が担当してきたヒンディー語の再履修を必要とする学生が受講者の半数に達し、被告としては専門のヒンディー語教育者を採用する必要があったと主張して争った。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 期間の定めのある契約が期間の定めのない契約に転化したと認められなくとも、期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたと認められるか、又は、期間満了後も雇用を継続するものと期待することに合理性があると認められる場合には、解雇の法理を類推すべきであると解するのが相当である。

 A大では、専任教員の採用に際しては相当厳しい資格条件が課されているが、非常勤講師の場合はそれに準じる教育・研究能力があると認められる者も採用することができ、委嘱された科目について授業・指導をするだけで大学の役職又は校務を担当することはない。また非常勤講師は、予め期間を定めて嘱任し、引き続き嘱任する場合を除き、その期間満了によって雇用契約は終了するとされており、他に本務をもってはならないとの制約はない。更に賃金面では、非常勤講師には、担当するコマ数に応じた賃金が毎月支払われるだけで、交通費を除くその他の諸手当、賞与、退職金は一切支給されない。

他方、A大においては、原告の担当していた英語とヒンディー語の講義は恒常的に設置されていたこと、同大では昭和58年までは原告がヒンディー語の唯一の教員であったこと、原告の在留期間延長のため法務省に提出された被告の書面には、原告の雇用期間が更新されるとの記載のあるものもあったこと、被告が昭和50年7月原告に交付した依頼状には、昭和53年度からヒンディー語を担当してもらう予定であるとの記載があることが認められる。しかしながら、講義が恒常的に設置されていても、雇用期間の定めのある講師を雇用することは当然あり得ることであり、被告の原告に対する毎年の辞令の交付は1年という期間を限定したもので、重要な更新手続きに当たるといえる。そして、被告の亜細亜大においては、非常勤講師は限られた職務を本来短期間担当する地位にあり、大学から全般的な拘束を受けないことを前提にしており、賃金等の雇用条件も専任教員とは異なっている。仮に被告が原告との契約の更新を予定していた時期があったとしても、被告において非常勤講師につき期間を定めて雇用するという形態は、その限られた職務内容と責任を反映したもので、その嘱任に当たっては大学が裁量に基づき適任者を専任できるというべきであるし、被告が昭和59年以降原告との契約の更新を予定していたとは認められない。また、非常勤講師の側から見ても、他に本務・業務を持つことは差し支えなく、他にも収入を得ることは十分可能であり、原告の場合も、他大学の教員の仕事も担当して相当額の収入を得ており、かつ、その拘束の度合等からして被告との結び付きの程度は専任教員と比べると極めて薄いものであって、原告は被告との雇用契約がそのような性質のものであることを十分に知り又は知り得たというべきである。
以上のような諸事情を考慮すると、原・被告間の雇用契約は、20回更新されて21年間にわたったものの、それが期間の定めのないものに転化したとは認められないし、また期間の定めのない契約と異ならない状態で存在したとは認められず、期間満了後も雇用関係が継続するものと期待することに合理性があるとも認められない。したがって、被告の更新拒絶につき解雇に関する法理を類推して制約を加える必要があるとはいえないから、原・被告間の雇用契約は、昭和59年3月31日をもって終了したと認められる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例532号63頁
その他特記事項