判例データベース
馬券売り場パートタイマー年休等請求控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 馬券売り場パートタイマー年休等請求控訴事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成6年(レ)第71号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 N競馬会 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1995年07月12日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、被控訴人(第1審被告)に昭和48年4月から雇用されている女性であり、その雇用形態・内容は、競馬開催期間に競馬場や場外馬券売り場で勝馬投票権の発売等をするものであった。
控訴人は、年間約80日間勤務していたが、労務を提供するのは競馬開催期間に限られること、7月、8月は競馬が開催されず労務提供を行わないことから、継続勤務に該当しないとして年次有給休暇が付与されていなかった。これについて控訴人は、2ヶ月間の空白は法令の定めによるものであり、実質的には継続勤務であると主張し、年次有給休暇を取得する権利があるとして、これまでカットされた賃金の支払いを請求した。
第1審では、控訴人の勤務は継続勤務に当たらないとして、控訴人の年休請求権を斥けたため、控訴人がこれを不服として控訴した。 - 主文
- 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金7万9100円及び別紙一「賃金カット額」蘭記載の各金員に対する同別紙各「賃金カット日」蘭記載の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1審、第2審とも被控訴人の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 年次有給休暇の趣旨は、労働者をその求める任意の時期に労働から解放することによって心身の疲労を回復させ、また、文化的生活を確保させることにより、より質の高い労働力の継続的提供を可能ならしめることにあり、したがって、労働基準法39条1項にいう「継続勤務」に該当するか否かは、形式的に労働者としての身分や労働契約の期間が継続しているかどうかのみによってのみ決すべきものではなく、勤務の実態に即して実質的に労働者としての勤務関係が継続しているか否かにより判断すべきものである。そして昭和62年改正後の同法39条3項により、通常の労働者と比べて労働日数の少ないパートタイム労働者に対しても年次有給休暇の比例付与の制度が設けられた理由は、通常の労働者との均衡上から妥当であるとともに、労働者の希望する時期に連続した休みを取ることができるようにすることが相当であると考えられたことにある点に鑑みると、所定労働日数の少ない労働者について、より質の高い労働力の継続的提供を可能ならしめる勤務の実態にあるかどうかとの観点を考慮すべきであり、勤務日と勤務日との間隔又は労働契約期間の終期と始期との間隔の長短はその一事情に過ぎないものというべきである。
控訴人は昭和56年ないし平成3年4月14日までの間、毎年それぞれ1ヶ月ないし2ヶ月を超える被控訴人への未在籍期間が存するものの、毎月概ね4日ないし10日の勤務が存する状況で、東京及び中山競馬についてはすべて勤務日になっていること、各競馬開催期間における労働条件がほぼ同一であり、開催従業員において次回不就労の意思を表示しない限り、格別の不都合がなければ被控訴人において当該従業員を次回開催時にもそのまま就労させ、原則として60歳又は65歳まで採用が継続されること、給与制度が継続勤務する従業員を優遇する仕組みになっていること等競馬開催期間を単位とした各雇用契約が直前の競馬開催期間での就労を前提として反復締結されていたものとみるべき状況にあり、法令上の制約に基づき1年間のうち夏季2ヶ月前後の期間について競馬不開催のため空白期間があるに過ぎず、実態としての雇用関係が同一性を維持して継続していたものということができる。
労働省労働基準局長は、競輪、競馬等の競争事業において所定労働日が主としてレースの開催日に限られている労働者につき、「競争事業に従事する労働者の年次有給休暇について」と題する通達(平成元年3月10日 基収140号)を発し、(1)概ね毎月就労すべき日が存すること、(2)雇用保険法に基づく日雇労働求職者給付金の支払いを受ける等継続勤務を否定する事実が存しないことのいずれにも該当する場合には、労働基準法39条1項の「継続勤務」と解される旨を明らかにした。
被控訴人が主張し、基収140号が示すように、一般的には1ヶ月に1日の勤務日もない労働者については、実質的にも継続勤務に該当しないと判断される場合が多いとしても、控訴人などの関東地区の開催従業員に夏季の勤務日がないのは、各人の希望によるものではなく、年間を通じて東京競馬又は中山競馬を開催することが現行法令上不可能であることが理由であり、また、右開催従業員が夏季に開催される競馬に勤務を希望しても、人数制限のために勤務できない場合があり、これらの特殊事情を有する関東地区の開催従業員について、1ヶ月に1日以上の勤務日が存するか否かという形式的基準のみで一律に判断することは、基務の実態に沿うものではなく、また従業員間の均衡を欠き相当ではないというべきである。以上によれば、被控訴人において、労働基準法39条1項の適用上、少なくとも昭和56年以降平成3年4月14日まで、実質的に労働者としての勤務関係が継続しているものと認めるのが相当である。
したがって、控訴人は、別紙1の1の年休取得年月日に年次有給休暇を請求するまでに、少なくとも9年以上継続して勤務していたものと認められるから、労働基準法39条1項、3項、規則24条の3第3項により、6日間の年次有給休暇を請求する権利を有するものであり、控訴人の年次有給休暇請求権の行使は有効であって、被控訴人に対し、カットされた別紙1の「賃金カット額」蘭記載の賃金分と、これらに対する同別紙「賃金カット日」蘭記載の日の翌日から年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求は理由があるから容認すべきところ、これを棄却した原判決は相当でない。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法39条、
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
立川簡裁 - 平成3年(ハ)第169号 | 棄却(控訴) | 1994年03月24日 |
東京地裁 - 平成6年(レ)第71号 | 原判決取消(控訴認容) | 1995年07月12日 |